表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍・コミカライズ】重装令嬢モアネット〜かけた覚えのない呪いの解き方〜  作者: さき
本編~かけた覚えのない呪いの解き方~

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

62/62

短編:厄介な王様と、物言わぬ侵略者たち

 


 オルド・ラウドルは悩んでいた。


 だが元来この男は物事をあれこれと悩む性質ではない。

 策略を巡らせたり入念に調べたりはするものの、選択肢が複数ある場合は己の直感をなにより大事にする。

 その勘の鋭さと言ったら無く、今までそれでやってきて、今まさに理想的な状況にいるのだ。直感優先主義を変える気は無い。


 そんな男が、城の中庭で一人しゃがみこんで悩んでいる。

 悩みの種は……、目の前でゴロンと横になっている一匹の猫だ。


 そう、たった一匹の猫。黒と茶色が混ざり合った所謂サビ猫である。

 それが日の当たる中庭の一角で寝ている。オルドが間近でしゃがんでいても気にもかけず、それどころか撫でろと言いたげに腹まで見せる。野性味は皆無だ。


「……誰かの使い魔なのか?」


 ポツリと呟くようにオルドが尋ねるも、サビ猫からの返事は無い。

 お腹を見せたままグネグネと数度左右に捩じり、心地良い体勢を見つけたのかそのまま眠りに入ってしまった。

 その態度にオルドが溜息を吐く。それとほぼ同時に「おじさん?」と声を掛けられた。振り返ればアレクシスがこちらに向かって歩いてくる。


「こんな所で何してるの?」

「あぁ、ちょっと猫を見てた」

「猫……? 本当だ。こんな所にまで入り込むなんて珍しいね」


 アレクシスが隣にしゃがみサビ猫へと視線をやり、そっと手を伸ばして腹を撫でた。

 心地良かったのか猫がググと体を伸ばす。


「警戒心がまったく無いだろ。さっきコンチェッタ用のクッキーをやったら疑うことなく食いきった」

「おじさんが猫にクッキーを?」


 実の叔父が動物を愛でるのが信じられないのか、驚いたようにアレクシスが尋ねてくる。

 失礼な態度だ。だがオルド自身、己が動物を愛でる性格ではない事は分かっている。そもそも、無条件で愛でているわけではない。


「ここまで警戒心が無いんだ、もしかしたら魔女の使い魔かもしれないだろ」

「魔女の……。なるほど、それでもてなしてるんだ」


 理解したと頷くアレクシスに対して、オルドは「だけどなぁ」と溜息交じりに頭を掻いた。


 悩むオルドの声は深刻な色が漂っており、表情も真剣そのもの。花が咲き誇る中庭の一角で眠る猫を目の前にしながらとは誰も思うまい。

 仮にこの猫が立ち上がって逃げ出したり、もしくは起き上がって話を理解しているような素振りを見せさえすれば、悩みは解消されるのだが……。

 生憎と猫は寝たままだ。それもまた猫らしいのだが、オルドを更に深く悩ませる……。



 現在オルドの城には魔女が二人居る。

 重装令嬢ことモアネットと由緒ある魔女の家系アイディラ家のジーナだ。前者はまだ新米ゆえに魔女の知り合いは少ないが、後者は随分と顔が広い。

 ゆえに、城には二人の他にも魔女が訪問してくる事が多々ある。

 城の主人であるオルドの許可も取らずに勝手に呼ぶし、なんだったらモアネットとジーナにすら連絡せず他家の魔女が訪問してくる事も少なくない。

 見知らぬ人物が城の庭園でお茶をしており、話を聞いたら正体は魔女で、モアネットとジーナを呼ぼうとしたらいつの間にか帰っていた……。なんて事もあった。


 魔女は気紛れで、歴史の長い魔女の家ほどその傾向が強いらしい。

 そして勝手に入り込んで勝手に帰っていくのも気紛れの一つ。つまり今この瞬間にも城のどこかに魔女が居るかもしれないのだ。鉄壁と呼ばれた警備も魔女の前では効果が無い。


「それ自体はまぁ良いんだが……、いや、勝手に入り込まれるのは警備的には問題だが、魔女を相手にどうこう言うつもりはない」

「言ったところでどうにもならないだろうしね」

「だが問題は魔女の使い魔だ。誰が何を連れて来てるのか分からないし、どんな生物が使い魔になるのかも決まってない」


 魔女の使い魔は様々だ。猫という比較的スタンダードな使い魔を連れているジーナに対して、モアネットの使い魔ロバートソンは蜘蛛。

 まさに多種多様で、以前には国内には居ない珍しい生き物を使い魔として連れてきている魔女も居た。――事前連絡も無しに気付けば書庫で本を読んでいたので、まさに『居た』である――


「使い魔なのかどうか俺達じゃ見分けがつかん。そのくせ蔑ろにされると魔女まで不満を抱く。おかげで猫一匹追い出せなくなった」


 オルドが不満を訴えれば、聞いていたアレクシスが肩を竦めて返した。もちろん猫を撫でたまま。

 だがオルドの言う通り、何が使い魔なのか分からない状態では、猫一匹、それどころか蜘蛛一匹も追い出せないのだ。下手に魔女の使い魔を追い出そうものなら、ぞんざいな扱いを受けたと魔女が憤慨しかねない。


「勝手に来て、勝手に居座って、それでいてこっちの対応が気に入らないと腹を立てる……。魔女の力は絶大だが、これを使いこなすのは難しいどころじゃないな」

「過去どの国も魔女を味方に着けようとしなかった……、って歴史書にはあるけど、実際には出来なかったんだろうね。もしかしたら下手を打って玉砕した国もあるのかも。調べてみるのも面白いかも」

「可愛い甥っ子よ、今は過去の事より今目の前にいる猫だ」


 サビ猫はいまだゴロンと寝転がっており、アレクシスに腹を撫でられて先程よりもだいぶ伸びて長くなっている。

 そんな猫を見つめていると、猫の近くに生えている草の間から蜥蜴が一匹ちょろと姿を現した。紫色の蜥蜴だ。


「次は蜥蜴か……。こいつも魔女の使い魔か?」

「どうだろう。蜥蜴を使い魔にしてる魔女にはこの間会ったけど、色は違うから別の蜥蜴だね。でも別の魔女が来てるのかも」

「あー、駄目だ。分からん。俺の城が動物達に占拠される……!!」


 荒らげこそしないがオルドの声は若干悲痛めいた色がある。

 野心と強欲に塗れ、結果的に親族を蹴落として王の座に着いた男とは思えない情けない声だ。

 そんなオルドの声に、カシャンカシャンという高い音が続いた。この音は……、とオルドとアレクシスが音のする方へと向けば一領の鎧が歩いてくる。


「猫と蜥蜴に続いて鎧か……、あれは魔女の使い魔だな。野生の鎧なんて聞いたことが無い」

「落ち着いておじさん、あれは魔女そのものだよ。モアネット、どうしたの?」


 アレクシスが声を掛ければ、モアネットが二人の前で立ち止まった。

 その際の「何か失礼な事を言われた気が……」という呟きには、アレクシスもオルドも聞こえなかったふりで誤魔化しておいた。


「何か探してたみたいだけど?」

「仕事を放ってどこかに行ったオルド様を探しに行ったはずのアレクシス様までどこかに行ってしまった、ってメイドが困ってたんで、捜索してたんです」

「あ、しまった……。そうだ、おじさんを連れ戻しに来たんだ」


 うっかりしてた、とアレクシスが頭を掻く。

 そんな会話の中、オルドがモアネットを呼んだ。視線で寝転がっている猫を見ろと促してくる。

 猫を見たモアネットが「あ……」と呟き、そわそわと落ち着きを無くした。異変を感じ取り、鎧の中が見えないと分かっていてもアレクシスが兜を覗き込む。


「どうしたの、モアネット」

「モアネット、こいつが使い魔かどうかわかるか?」


 アレクシスとオルドが同時に尋ねれば、問われたモアネットが落ち着きなくそわそわと、……もとい、キシキシと鎧を軋ませる。

 恐怖や警戒ではない、まるで照れているような態度だ。そうしてギシとしゃがみ込むと「こんにちは」と挨拶を告げた。


「今日は最高のお散歩日和だね。もし日差しが暑くて喉が渇いたら水を持ってくるので教えてね」

「その反応……、やっぱり魔女の使い魔だったか」

「はい。さっき客室で魔女が二人お茶をしていたので、多分そのどちらかの使い魔です」

「モアネットの知り合いじゃないんだな、ということはジーナの客か」

「いえ、ジーナさんも知らない魔女でした」

「……なるほど、俺の城は魔女の社交の場にされてるんだな」


 無関係に魔女が集まっていると知り、オルドがらしくなく肩を落とす。

 ……が、すぐさま顔を上げた。


「まぁでも、考えようによっては絶大な力を持つ魔女との繋がりを作りやすいって事だよな。大陸を引っ繰り返す存在と顔を合わせられるんだ、城一つじゃお釣りがくる」


 あっさりと考えを切り替え、次いでオルドは改めるようにモアネットへと向き直った。

 鎧の兜がギシと傾く。首を傾げているのだ。


「モアネット、魔女の使い魔か野良の動物かを見分ける方法を教えてくれ」

「見分ける方法ですか?」

「あぁ、それが分からないと猫一匹どころか蜘蛛一匹も追い出せないんだ」

「猫も蜘蛛も追い出さないでください」

「そう言うなって。それで、どうしてさっき分かったんだ?」


 先程モアネットは猫を見てすぐに使い魔への対応をしていた。確認している様子はなく、もちろん魔術を使った素振りもない。

 一目で判断したのだ。その方法が分かれば動物達に城を占拠されずに済む。

 そう期待を抱いてオルドがモアネットを見つめれば、興味を抱いたのだろうアレクシスも続くようにモアネットを見つめた。


「どうしてと言われても……、感覚ですよ」

「感覚?」

「はい。最近、私も一人前の魔女として成長したのか使い魔が感覚で分かるようになったんです」


 モアネットが胸を張る。……もっとも、鎧に包まれているため胸を張っているのかは定かではないのだが、鎧が若干斜めになったので中で胸を張っているのだろう。


「感覚ってどういうのなんだ?」

「『あ、どうもこんにちは……』って気分になるんです!」


 肝心の部分はだいぶ曖昧に、それでいて後半は得意げに、モアネットが断言する。

 これにはオルドはもちろんアレクシスもなんとも言えない表情を浮かべてしまった。

 長閑な庭園に軽やかに風が吹き抜け、クァ……と猫の大きな欠伸だけが聞こえる。なんとも言えない空気だ。


「……なんでそんな微妙な距離感なんだ」

「魔女の使い魔って、たとえるなら『友達の友達』みたいな感じなんですよ。人見知りの私はちょっと緊張しちゃいます」

「なるほど、その距離感なら人見知りの挙げ句に全身鎧に逃げ込んだ奴には辛いな。しかし、そうなると俺達じゃ判断は出来ないか」


 期待外れだったとオルドが落胆し、次いで手を伸ばした。

 サビ柄の猫を撫でる。猫はご機嫌でオルドの手を受け入れ、それどころか自ら頭を擦りつけだした。


「こうなったら見かけた生き物を片っ端から愛でておくか。そうすりゃ使い魔をもてなした事になるだろ」

「なんだかよく分からない吹っ切れ方ですね。ところで、そのサビ柄の猫ちゃん、随分とアレクシス様とオルド様に懐いてますね。私も撫でて良いですか?」

「……ん?」


 モアネットの言葉に、オルドが猫を撫でていた手を止めた。

 アレクシスも違和感を覚えたのだろう「モアネット?」と彼女を呼ぶ。


「『そのサビ柄の猫ちゃん』って……、この子が魔女の使い魔じゃないの?」

「いえ、違いますよ。これは只のサビ柄の猫ちゃんです。使い魔はそこにいる蜥蜴ですよ」


 モアネットの手甲がギシと一角を指差す。そこには先程見かけた蜥蜴が一匹、草の間から顔を覗かせていた。

 全員分の視線が己に向けられているのを察してか蜥蜴がちょろりと素早く草の合間から現れる。捕まえようとする猫の手を華麗にすり抜け、差し出されるモアネットの手甲に飛び乗った。なんとも軽やかな動きではないか。

 おまけにモアネットが「屋内に戻ろう」と話しかけるとポワポワと光り出す。


 そうして一匹の蜥蜴を手に、一領の鎧がカシャンカシャンと来た道を戻っていく。


 残されたのは、オルドとアレクシスと……、そして、いまだに寝そべるご機嫌な猫。

 その猫がピクと動きを止め、かと思えば突如立ちあがるや庭の端へと走っていった。向かう先には一匹の白猫。

 そんな猫達の頭上では鳥が木に止まっておりチチと軽やかに鳴いている。更にはここいらでは珍しい尾の長い鳥がどこからともなく飛んでくると木に停まり、その木の細枝をリスが伝って走り抜けていく……。


 サビ柄の猫は使い魔ではない。

 だが他の動物はどうだ? 白猫は? 木に停まっている鳥は? 新たに降りてきた鳥は? リスは?

 足元を見れば小さな虫がせっせと草の合間を進んでおり、その草を掻き分ければきっと蜥蜴も見つかるだろう。それらは?


 魔女の使い魔かどうか分からない。

 つまり、無下には出来ない。



「……俺の城が、動物達に占拠される」



 オルドの呻くような呟きに、アレクシスはしばし考え……、


「珍しく落ち込んでるから慰めようかと思ったけど、そもそもこのおっさん、仕事サボってたんだった」


 と、本来の目的を思い出し、落ち込むオルドの腕を掴んで容赦なく引きずって建物へと歩き出した。




 …end…





「モアネット、天井を見上げてどうしたんだ?」

「見てください、パーシヴァルさん。魔術を使って天井にくす玉をつけたんです」

「くす玉……。本当だ。何かめでたい事があったんだな」

「はい。ただ、お城の大広間、それも吹き抜けになってる天井から下げたのでヒモさえも遥か高み過ぎて届きません」

「完全なる設計ミスだな。ところで、中途半端な高さの出っ張りに引っ掛かってるコンチェッタは何だ?」

「くす玉を割って貰おうと思って魔術で浮かばせたんですが、操作ミスであそこに引っかかっちゃったんです。しっかり嵌っちゃったみたいで、どのボタンを押しても抜け出せなくて」

「ボタン……。なるほど、コントローラー式なんだな」

「しかも高く浮かばせ過ぎたからかコントローラーとの接続が切れちゃいました。再接続したいんですが、そのためにはコンチェッタを一度降ろさないといけないし、でもそのためのコントローラーは操作が効かないし……」

「ワイヤレスの弊害だな。……ん?」


ふわふわカサカサ


「あれは……。ロバートソン!」

「浮きつつも壁を伝い、時には糸も使う。なんて巧みな動き……! これはロバートソンだけの動きじゃありません。まさか……!!」


「そうよモアネット。私よ!」


「ジーナさん! それに手にしているのは最新のコントローラー!!」

「最新のコントローラーは接続範囲が広くて、接続切れも滅多に怒らないわ。スティックの動きも滑らか。なにより、特に役に立つわけじゃないけど七色に光るのよ。何の効果があるのか分からないけど光るのは良い事だわ」

「良いなぁ良いなぁ、光るコントローラー良いなぁ。……じゃなかった、さすがジーナさん!」

「悪いけれど、あのくす玉は私達が割らせてもらうわ。さぁ、ロバートソン、お願いね!」


ふわふわカサカサ、……ピッ!


パカッ!!


「くす玉が割れて中から垂れ幕が!! ……垂れ幕が下がってるんだが、高すぎて読めないな」

「紙吹雪も仕込んだんですが、高すぎてあっちこっちに飛ばされていっちゃいましたね」

「重ね重ね設計ミスだな。ところで、いったい何を祝いたかったんだ?」

「『重装令嬢モアネット』コミックス1巻が1/6にフロースコミックから発売された事をお祝いしたかったんです。角川公式サイトでは1話目を丸々読めるという事も書いたんですが、読めませんね」

「辛うじて『重』とか『フロース』とかは読めるんだがな」

「残念。でもめげません、次の告知の際にはミスなくくす玉を用意してみせます!」

「あぁ、その意気だモアネット」


「というわけで、1/6発売フロースコミック『重装令嬢モアネット』のくす玉を撤去する魔術を今から調べます!」

「撤去方法までは考えてなかったんだな。それでこそモアネット。俺も手伝おう」



「一度の失敗ではめげない。なんて立派な魔女なの、モアネット……! あらオルド、どうしたの?」

「俺の城でくす玉を設置しないでほしいんだが」




※お知らせ※

『重装令嬢モアネット』コミックス1巻が1/6発売されました!

発売に合わせ、1話目を作画担当nishi先生のエックスアカウント・角川ビーンズ文庫公式ホームページに掲載して頂いております。また、カドコミでは続きの2話目も無料で読めます。


可愛くポップな絵柄で描かれる、モアネット達の旅の始まり。

賑やかで楽しい作品になっておりますので、皆様どうぞよろしくお願いいたします!


また、一部書店では特典もついております。

詳しくはフロースコミック公式アカウント等々をご確認ください。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 拙者、食えないおっさんがかわいい存在に翻弄されるの大好き侍。 この回を至高の神回と認定申す……! [気になる点] 使い魔同士で狩り始まらないか心配なのですが? [一言] コミカライズ、わち…
[一言] そう来たかぁ。後半全部ステマだったかぁ。でも面白楽しかったので、特に問題はありませんでした。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ