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【書籍・コミカライズ】重装令嬢モアネット〜かけた覚えのない呪いの解き方〜  作者: さき
本編~かけた覚えのない呪いの解き方~

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短編:全身鎧の令嬢のあまり危機感のない危機的状況(後)

 


「モアネット、こんなところに居たのねぇ」


 聞こえてきた低く太くそれでいて優しい声に、眠っていたモアネットはふと目を覚ました。

 寝惚けた意識で起き上がろうとして、ビクともしない体に「うん?」と眠たげな声を漏らす。

 体が動かない、手も……。


「金縛り!? やだ、怖い!!」

「違うよモアネット、軽量化の魔術が切れたんだよ」


 天井しかないモアネットの視界に、またも男の顔がひょいと割り込んできた。

 優しく温和な印象を受ける顔付き。濃い茶色の髪をふわりと揺す、柔らかで温和な印象を受ける青年。

 その顔を見て、モアネットは「アレクシス様」と彼を呼んだ。

 次いでアレクシスの隣に並んで顔を覗いでくるのは美しい女性。モアネットの魔女としての師匠ジーナだ。

「はぁい、モアネット。おはよう」と優しく声をかけてくる。……相変わらず声は太いが。


「軽量化の魔術……。そうだ、思い出しました。でもアレクシス様とジーナさんはこんな所でどうしたんですか?」

「この城の中で、今はモアネットが誰より一番『どうしたんだ?』っていう状況なんだけど……。まぁ良いや、さっき叔父さんに会って話を聞いたんだよ」


 曰く、たまたまアレクシスとジーナが城の中を歩いていたところ、オルドに出くわしたのだという。

 彼はモアネットの軽量化の魔術が切れたことを教え、助けに行ってやれと託し、ついでに「ジーナに用があるから後で俺の執務室に来てくれ」とちゃっかりと予約をしていったという。

 魔女は気紛れだ。頼まれても「嫌よ面倒臭い」と断ってしまう事もある。だがモアネットを助けることに意識をやっていたジーナはつい咄嗟に「分かったわ」と答えてしまった。


「あのタイミング、狙ってたわね……。本当に食えない男だわ」

「まぁでも、モアネットが動けないことを教えてくれたわけだし。それで、モアネット、僕達はどうすればいい?」

「私の体を起こして貰えますか? 胴体の下に予備の呪符を入れてるポシェットがあるんです」


 呪符さえ手に入ればすぐに解決できる。

 そう話すも、どういうわけかアレクシスが眉尻を下げて「ごめんよ」と謝ってきた。


「実はいま腕を痛めてるんだ」

「腕を?」

「昨日パーシヴァルに剣の稽古をつけて貰ったんだけど、ちょっと張り切り過ぎたみたいで朝から痛くてさ。医者に診て貰ったら、日常生活は支障はないけどあまり重い物を持たないようにって言われちゃって……」


 軽量化の魔術が切れた鉄の鎧は明らかに『重い物』である。

 それなら、とモアネットはジーナを見た。兜を被っているためモアネットの視線は露見されていないのだが、それでも視線を感じたか、魔女の勘か、もしくは単に自分が話す番だと考えたからか、ジーナが柔らかな笑みと共に「任せて」と告げてきた。

 軽量化の魔術をかけてくれるらしい。さすが先輩魔女だ。

 これで解決だとモアネットが安堵する。だが次の瞬間、モアネットの視界にふわふわと白い柔らかな毛の塊が写り込んだ。


 天井付近を漂うあれは……、ジーナの使い魔である猫のコンチェッタだ。

 その背中に乗って時折チラとこちらに顔を出すのは一匹の蜘蛛。こちらはモアネットの使い魔ロバートソンである。


「ジーナさん、コンチェッタに魔術を掛けましたか?」

「えぇ、掛けたわ。森にお散歩に行くっていうから、少しだけ身軽にしてあげたの。昨日雨が降って水たまりがあちこちにあるから、飛び越えやすい方が良いでしょ」

「……ジーナさん、酔っ払ってますか?」

「えぇ、ちょっとだけね。今夜飲むワインの試飲をしていたの」


 穏やかに優雅にジーナが微笑む。

『少しだけ』『ちょっとだけ』と当人は言っているが、それが酔いのためにだいぶ曖昧になっているのは火を見るよりも明らか。

 なにせ少しだけ身軽になったはずのコンチェッタは天井近くをふよふよと浮いているし、ワインに関しても、アレクシスが肩を竦めて「空きビンが三本あったよ」と言っているのだ。


「さぁモアネット、今軽量化の魔術を掛けてあげるわね」

「ま、待ってください、ジーナさん! 大丈夫です!!」


 軽量化を通り越して重力から解放されふわふわと天井を漂うぐらいなら、このまま部屋で転がっている方がマシだ。

 そう考えてモアネットが慌てて制止すれば、ジーナが「あら、いいの?」ときょとんと目を丸くさせた。


「その……、まだ眠いので、もう少しここで寝てます!!」

「そう? モアネットってばお寝坊さんね」


 優しい微笑みを浮かべ、ジーナがモアネットの頬を撫でる。

 ……といっても兜の頬の部分を手で擦るだけなのだが。次いで部屋にある毛布をそっと掛けてくれた。

 優しい先輩魔女だ。ちょっと酔っ払って加減が分からず重力から解放させようとしてくるけれど。


「それじゃぁ、おやすみモアネット。もし私の魔術が必要ならいつでも呼んでちょうだい」

「はい、ありがとうございますジーナさん」


 おやすみなさい、とモアネットが告げればジーナの微笑みがより柔らかくなる。


「……モアネット、パーシヴァル呼んでくるから」


 とは、コソリと耳打ちしてくるアレクシス。

 それに対してモアネットは「お願いします」と返しておいた。

 重力から解放されてふわふわと天井を漂うのは嫌だが、かといってこのままが良いわけでもないのだ。助けて貰えるならば助けて欲しい。


 そうしてアレクシスとジーナが部屋から去っていくのを見届ける。

 残されたモアネットに出来ることと言えば、天井を漂うコンチェッタがふわふわと泳ぐように移動するのを眺めるだけだ。

 なんともゆったりとした長閑な光景である。見ていると眠気が再び戻ってきて、モアネットは欠伸を漏らして兜の中で目を瞑った。


 ◆◆◆


「モアネット、起きてくれ。モアネット」


 覚えのある声に名を呼ばれ、モアネットはふと目を覚ました。

 視界に写るのは自分を覗き込む人物。金の髪と碧色の瞳、整った顔付きは凛々しさの中に優しさも感じさせる。


「パーシヴァルさん」


 寝惚けた声でモアネットが呼べば、パーシヴァルが苦笑と共に「おはよう」と告げてきた。


「アレクシス様から聞いたんですか?」

「『軽量化の魔術が切れてモアネットが鎧の中で遭難してる。早く救出しないと天井に浮かんでしまう』って言われた」

「概ね間違いではありませんね」


 アレクシスの説明は冗談めかしてはいるものの、かといって嘘というわけではない。言い得て妙というものだ。

 そうモアネットが冷静に考えていると、パーシヴァルが肩を竦めた。困ったような、それでいて愛でるような表情。まったくと言いたげな仕草だが彼の表情は優しい。

 次いで彼はモアネットの体に手を添え、ぐいと持ち上げた。

 さすがは日頃から鍛えている騎士である。容易……とはさすがに言わないが、平然とモアネットの上半身を起こしてくれて。


「手甲も外してもらえますか? そうすれば呪符を使えます」

「あぁ、分かった」


 慣れた手つきでパーシヴァルがモアネットの手甲を外し、ポシェットを手渡してくる。

 ちなみにポシェットの中には予備の呪符以外にも羊皮紙やペンが入っているが、幸い、今回の件でペンが割れたり破損はしていないようだ。

 そんなポシェットから呪符を一枚取り出す。軽量化の呪文を描いた呪符だ。


「……猫かポーカーで大負けしてる絵か?」

「可愛いにゃんこが猫じゃらしでゴロゴロと遊んでいる絵ですよ。コンチェッタをモデルに描いたんです、似てるでしょ?」

「頭上からコンチェッタの不満たっぷりな鳴き声が聞こえるんだが」

「忠実に描きすぎたからですかね。次はもうちょっと細身に描いてあげた方が良いかも」

「威嚇の声が」

「それはともかく!」


 呪符に描いたにゃんこについてはともかく、これを手に入れれば後はこっちのものだ。

 モアネットはさっそくと意気込み、呪符を己の鎧にそっと添えた。

 次いで小さく囁くように命じれば、呪符がポンと弾けるように消えた。

 魔術の発動。

 途端に鎧が軽くなる。そっとパーシヴァルから離れ、そのまま立ち上がった。

 試しにとぴょんぴょんと飛んで見せる。やはり軽い。もっとも、音はガシャンガシャンと鳴っているが。


「パーシヴァルさん、ありがとうございました」

「いや、気にしないでくれ。……伴侶の危機に駆け付けるのは夫として当然だからな」

「伴侶……」


 照れながらも話すパーシヴァルにモアネットも思わず頬を赤くさせてしまう。

 こういうことを突然言われると恥ずかしくてどうしていいか分からなくなる。……だが嬉しいのも事実だ。

 兜の中で頬を赤らめつつもはにかめば、見えずとも察したのかパーシヴァルもまた照れ臭そうに笑った。


「なんだか恥ずかしくなるな」

「パーシヴァルさんは突然すぎるんですよ。……私はいまだに『モアネット』って呼ばれるだけでドキドキするのに」


 以前までは『モアネット嬢』と呼んでいたパーシヴァルだが、結婚後しばらくして『モアネット』と呼ぶようになった

 それもまたモアネットには恥ずかしさと嬉しさを湧き上がらせるのだ。そろそろ慣れなくてはといつも兜の中で頬を赤らめながら自分に言い聞かせている。

 そう訴えれば、パーシヴァルが僅かに碧色の目を丸くさせた。

 次いで嬉しそうに、そして頬を赤くさせて笑う。騎士とは思えない緩んだ表情ではないか。


「モアネット……」


 穏やかな声でパーシヴァルが呼んでくる。

 それに対してモアネットが返事をして見上げれば、彼の手がそっと兜に触れてきた。

 脱がそうとしているのだろう。脱いだ後は何も遮るものなく素顔で見つめ合い、そしてキスを……、というのがいつもの流れだ。

 伴侶からの触れい合にモアネットの胸が高鳴る。カチャンと聞こえてくる兜の音さえも自分達を祝福しているように聞こえてくる。

 そうして次の瞬間、


 ぶにゃーん、


 という不満たっぷりな音に、まだ兜の中だというのに早々に瞑っていた目をぱちんと開けた。

 パーシヴァルもこれには動きを止めている。二人揃えて頭上を見上げれば、コンチェッタがぶにゃんともう一度鳴いた。

 その顔は猫でありながらも「いい加減にしてくれ」と訴えているようにしか見えない。


「コ、コンチェッタ、ロバートソン、今降ろしてあげるからね!」


 鶴の一声ならぬ猫の一鳴きで漂っていた甘い空気は四散し、モアネットが上擦った声で頭上の使い魔達を呼んだ。

 パーシヴァルも同様、照れ隠しなのかコホンとわざとらしい咳払いをしている。


「と、ところでモアネット、降ろすと言ってもコンチェッタを浮かばせてるのはジーナ嬢の魔術なんだろう? 出来るのか?」

「他人の魔術を解除する方法も教えてもらいました。といっても、誰が何のためにどうやってどんな魔術を掛けたかを知ったうえでじゃないと出来ないんですけど」


 今の状況は『ジーナがコンチェッタを身軽にするために声を使って軽量化の魔術を掛けた』。これだけ分かれば十分。


 ……誰が何のために誰をどう呪ったのか、何一つとして分からなかったあの時とは違う。


「おいで、ロバートソン、コンチェッタ」


 解除の魔術を使えば、天井付近に浮かんでいた使い魔二匹がふよふよと降りてきた。

 木の葉が落ちるより緩慢な落下だ。

 そうしてたっぷりと時間をかけた後、ロバートソンはぴょんとモアネットの兜の頭に乗り、コンチェッタは降りはしたが自分で歩く気はないのか無理やりにパーシヴァルの腕の中に納まって抱っこの体勢を取った。

 その際にぶにゃんと一度鳴くのはパーシヴァルに「移動よろしく」と告げているのか、それとも先輩魔女の使い魔としてモアネットの魔術に合格とでも言っているのか。


「そういえば、さっきジーナ嬢が、モアネットが起きたらワインの試飲に付き合って欲しいって言ってたな」

「ジーナさん、まだ飲んでるんですか。夜飲むワインを選ぶために一日中飲むつもりなんじゃ……」

「……ちなみに、ジーナ嬢の隣では、アレクシスとオルド様が机に突っ伏してた」

「王族二人を潰してもなお決まらないワイン……。そもそも、付き合うもなにも、私ワインは飲めませんよ」

「あぁ、だからモアネットには試食をしてほしいらしい。ワインに合う食事を選ぶためにチーズやらクラッカーやら他にも色々と用意して食べ比べてるみたいだ」

「それは付き合わないといけませんね。鎧の中で遭難してちょうどお腹も減ってましたし、それにあれこれと奮闘して体力も減ったので回復するために食事が必要です!」

「寝てた気がするんだが」

「起きてました。全身鎧のせいでパーシヴァルさんには見えてないだけです」


 ツンと澄ましてモアネットが言い切れば、パーシヴァルが分かりやすく苦笑した。

 彼の腕の中のコンチェッタがぶにゃぶにゃと何か訴えだし、更には兜の上でロバートソンが跳ねたり前足でコンコンと兜を叩いてくる。

 これは熟睡していた事をばらそうとしているのだろうか……。

「内緒にして!」とモアネットは兜の中で小声で訴え、「さぁ行きましょう」と足早に部屋を後にした。




 …end…




「パーシヴァルさん、後編の後書きですよ! きっと皆さんコミカライズの詳細が気になって仕方なかったはずです!」

「あ、あぁ、そうだな(既に前編の後書きでロバートソンが公式ツイッターに誘導してしまってるんだが)」

「では、私がコミカライズの詳細をお伝えします。満を持して!というやつですね」

「……うん、そうだな(まだロバートソンが告知に使った蜘蛛の巣が部屋の天井に残ってる……)」


「『重装令嬢モアネット』コミカライズは5/26連載開始です! 詳しくはフロースコミック公式ツイッターをご確認ください!」


「……み、見事な告知だなモアネット」

「私ももう一人前の魔女ですから、告知ぐらいこなしてみせますよ。パーシヴァルさんも気になっていたでしょう?スッキリしましたか?」

「あ、あぁ……。うん。詳細が分かって良かった(既にロバートソンが蜘蛛の巣を使って色々と教えてくれた、なんて言えないな)」

「どうやら私の見事な告知に圧倒されているみたいですね。そうでしょうとも、これぞ魔女の告知ですからね」

「そうだな。素晴らしい告知だ。さすが魔女だ。……それじゃぁひとまず天井を見ずに部屋を出よう。どこか蜘蛛の巣が張ってない場所へ」

「天井? 確かに今回の短編でずっと天井を見ていたので、しばらくは床を見てバランスを取った方が良いかもしれませんね」

「そのバランスの取り方もどうかと思うが……。まぁ天井さえ見なければいいか。あれだけ完璧な告知をしたんだから空腹だろう、食事にでも行こう」


カサカサカサカサ


『皆様どうぞよろしくお願い致します』


「蜘蛛の巣で挨拶を……!? 最後の挨拶も忘れない、なんて気遣いの出来る使い魔なんだ……!」




※お知らせ※

短編前編の後書きでも記載しましたが『重装令嬢モアネット』のコミカライズが5/26に連載開始します。

漫画はnishi様に描いて頂きます。可愛くて綺麗な絵柄で、既に公式ツイッターでは表紙絵も上がっているのでよろしければぜひご覧ください!

皆様どうぞよろしくお願いいたします。


また、小説の新連載も先日始めました。


『ざまぁ後の王子様もらいます〜だって顔が良いから!〜』

タイトルのまんま、ざまぁされた元王子様の顔が好きで引き取って堪能するヒロインのお話です。良い顔は正義。


こちらもお読み頂ければ幸いです。

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