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【書籍・コミカライズ】重装令嬢モアネット〜かけた覚えのない呪いの解き方〜  作者: さき
本編~かけた覚えのない呪いの解き方~

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56:モアネットとパーシヴァル

 

 紅茶を飲みつつ本を読んでいたモアネットがふと兜を上げたのは、微かながらに馬の鳴き声が聞こえてきたからだ。

 本を閉じて机に置き、パタパタ……とはいかずカシャンカシャンと鉄の音をあげて扉へと向かう。そうして聞こえてくるノックの音に応じるように扉を開ければ、待ち構えていたのは騎士の制服を纏ったパーシヴァル。

 まるで彼が初めてこの古城を訪れた時のようではないか。あの時もノックの音が古城の中に響き、応じて扉を開けたのだ。そしてアレクシスとパーシヴァルの姿を見るや、彼等の眼前で扉を閉めてしまった。

 なんて懐かしい。それを思い出してモアネットが悪戯っぽく笑いながら扉を閉めようとすれば、パーシヴァルも分かっているのだろう苦笑しつつ扉を押さえてきた。「狼が出るかもしれないから入れてくれ」という冗談は、彼もまた昔を思い出しているからだ。

 現に二人の口調はどちらも楽しむ色があり、冗談めいたやりとりを幾つか交わした後にモアネットが扉を開けて歓迎を示した。


 一室に招き、向かい合うように椅子に腰掛ける。

 次いでモアネットが催促するように手甲を差し出せば、意を汲んだパーシヴァルが頷いて返すと共に鞄を漁り、手甲に砂糖菓子の袋を載せてきた。

 可愛らしいリボンが巻かれた見るからに甘く美味しそうな砂糖菓子。それを見てモアネットが兜の中でパチンと瞳を瞬かせる。


「……これじゃありません」

「分かってる。それを食べて待っててくれ」


 苦笑混じりのパーシヴァルに宥められ、モアネットが仕方ないと頷いて砂糖菓子の袋を解いた。

 一つ摘んで口に運べば甘さと香りが口内に広がる。なんて甘くて美味しい。その甘さを堪能していると、パーシヴァルが周囲を見回した。


「ロバートソン、ロバートソンはいるか?」


 と、そうどこにでもなく呼びかけ、待つこと数十秒……。


 ツツ……。


 と天井から一匹の蜘蛛が降りてきた。

 言わずもがなロバートソンである。今日もふっくらとしており、パーシヴァルの顔の高さまで降りるとまるで挨拶するかのように一度眩く光った。

 そんなロバートソンに、パーシヴァルが一通の手紙を差し出した。次いで「頼む」と一言。随分と真剣みを帯びた声色である。

 それを聞いたロバートソンが手紙を受け取り……はサイズの関係で出来ず、ヒョイと手紙に飛び移った。まるで警戒するかのようにカサカサと手紙の周りを這い回り、時には封筒の隙間に前足を突っ込む。

 そうして入念に調べ上げることしばらく、ロバートソンは仕事を終えたと言わんばかりに再び宙に浮くように糸でつり下がると、ポワッと普段以上の光量で瞬いた。なんと眩い光だろうか。


「よし、大丈夫だな」

「心配性ですねぇ」


 毎度ながらのパーシヴァルとロバートソンのやりとりに、モアネットが兜の中で苦笑を浮かべる。

 そうして両の手甲を外し、パーシヴァルから封筒を受け取った。


 差出人の名は……エミリア・アイディラ。


 かつては王子の婚約者として王宮で暮らしていたエミリアだが、あの一件で捕らえられてからはオルドの処断により王都から離れた地で暮らしている。他でもない、オルドがかつて追いやられ、そしてまるで一国のように隔離し統治していた土地だ。

 彼が反旗を翻すために固めた守りが今は内に居る魔女の幽閉を担っているのだから、なんとも皮肉な話ではないか。

 エミリアはその地でも更に隔離された僻地に小さな屋敷を構え、両親と僅かな使いと共に暮らしている。

 静かに、質素に、華やかさと無縁。王宮での暮らしとは真逆とも言えるだろう。

 もちろんそんな静かな暮らしにも監視の目は張り巡らされている。オルドはもちろん彼の部下や騎士達が常にエミリアを見張り、何かあればすぐさま対応出来るようにと対策を立てている。

 その指揮を取るのが魔女殺しのパーシヴァルだ。エミリアの監視と報告、それにアレクシスの護衛……と以前より多忙になったという。


 それほどまでにエミリアはいまだ警戒されているのだ。

 聞けば宝石や装飾品は一切与えられず、それどころか銀食器すらも手にすることを禁止されているのだという。

 キラキラしたものを魔術の媒介にすると分かった以上、ガラスの破片一片たりとも渡すまいとしているのだろう。


 そんな徹底された中、オルドやパーシヴァル達、それにジーナのツテで集まった魔女達……と、常に複数に警戒され見張られる生活をエミリアは窮屈と感じているだろうか。王都での暮らしから一転したと嘆いているかもしれない。

 それでも、諸悪の根源として裁かれるよりは良いはずだ。これに関して言えば、エミリアを生かすことでこの事件を終わらせず、長く国民の罪悪感を煽ろうと考えたオルドの底意地の悪さに感謝である。


「エミリアはどうでした?」

「だいぶ具合もよくなってるようだ。ちゃんと早寝早起きしてるって伝えてくれと念を押されたよ」


 その時のエミリアの様子でも思い出しているのか、パーシヴァルが笑って告げる。その表情に誤魔化しの色はなく、きっと本当にエミリアは回復の兆しを見せているのだろう。

『キラキラしたお姫様になりたい』という願いは魔術を介して呪いとなり、エミリアをお姫様にすべく病を払っていた。そして全てが解けた今、エミリアは再び病弱な令嬢に戻ってしまった。

 事実を知った心労もあったのだろう、一時は歩くことも辛く、一日をベッドの中で咳き込みながら過ごしていた程だ。

 それでも、送られてくる手紙に記されている容体は徐々に良好の色をみせ、以前のような活発にとはいかずとも、料理をしたり絵を描いたりと自由に過ごしているとある。時には描いた絵を手紙に添えて送ってくれることもある。――それを見たパーシヴァルがポツリと「画力は妹に取られ……」と呟き、慌てて口を噤んだ――


「エミリアも元気そうで良かった」


 とモアネットが安堵の言葉を漏らし、ゆっくりと封筒を開けた。

 次いで片手をパーシヴァルに差し出せば、彼は苦笑を浮かべてそっと両手でモアネットの手を包む。男らしく大きな彼の手に、モアネットが兜の中で表情を和らげた。

 一年経ったとはいえ、まだエミリアからの手紙を読むと胸が痛む。許さないと決めた、裁くと決めた、それでも遠い地に隔離された妹が綴る謝罪と後悔の文字は、全身鎧を擦り抜けてモアネットの胸に突き刺さるのだ。

 だからこそ、手紙を読む時はこうやってパーシヴァルに手を繋いでもらうようにしていた。彼の体温が、時折擦ってくる擽ったさが、締め付けられる胸を温めて溶かしてくれる。

 そんな暖かさの中で、モアネットかそっと便箋を開いた。


 近況と家族のこと、容体のこと。どんな日々を過ごしているか、どんな魔女が訪れたか、そして時折ローデルから手紙が届くこと。

 そんなことがシンプルな便箋に綴られている。


「モアネット嬢が贈ったブローチ、随分と気に入ったようでいつも着けてるな」

「本当ですか? 嬉しい、頑張って作ったかいがありました。……まぁ、デザインの時は散々な目に合いましたけど」


 最後にポツリとモアネットが恨みがましそうに呟けば、理由を知るパーシヴァルか苦笑いと共にムニムニと手を揉んで宥めてきた。

 ちなみに、ブローチとはモアネットがエミリアに贈ったものである。輝かしい装飾品を媒体にして魔術を使っていたエミリアには当然だがアクセサリーなど与えられず、せめてとモアネット自ら作って贈ったのだ。

 木材を使用した無地のブローチを用意し丁寧に柄を彫り込んでいく、根気と器用さを要する作業だった。そのスタートラインであるデザインの段階、可愛らしい猫のブローチにしよう……と、モアネットが絵を描いた時に周囲から待ったが掛かったのである。


「モアネット嬢、これは流石に(おぞ)ましすぎる……」

 だの、

「呪いじゃなかったんだね」

 だの、

「良い木材ね。こらコンチェッタ、威嚇しないの!」

 だの、

「うわなんだこれ、ど下手くそにも程があるだろ」

 だのと、みんな好き勝手に言ってくれたのだ。――誰がどう言ってきたかなど詳しく説明するまでもないだろう。とりわけ最後の一人は酷すぎで、モアネットも思わず兜の中で甲高い悲鳴をあげた――

 そんな散々な中で、アレクシスがデザインを考えてくれのだ。

 完成したらエミリアに贈られると分かっていても、彼は可愛らしい猫と綺麗な花を描いてくれた。

 モアネットはそれを元にブローチを加工し、色を塗り、エミリアに贈った。キラキラした宝石は施せないが、それでも可愛らしいブローチに仕上げられたと思う。

 それをエミリアは喜び、毎日身に着けてくれているというではないか。

 その姿を見ることは出来ないが、嬉しそうに笑ってブローチを飾るえエミリアの姿は容易に想像できる。


 そうして読み終えた手紙を机に置けば、パーシヴァルが片手を差し出してきた。

 両手を、と言いたいのだろう。モアネットがそっと彼の手に己の手を重ねれば、ゆっくりと覆われていく。


「エミリアに会う日までにもう一つブローチを作ろうかな……」

「お揃いか、きっと喜ぶな」

「それを着けてエミリアに会いに行くんです。……その時は一緒に行ってくれますか?」

「勿論だ」


 はっきりと頷くパーシヴァルに、モアネットが安堵の息を漏らした。


 あの一件以降、モアネットはエミリアに会っていない……というより、会いに行けずにいる。オルドが王名として禁じたのだ。

 少なくともエミリアの魔術を封じる術を見つけ完成させるまで、許されるのは魔女殺し(パーシヴァル)を介し使い魔(ロバートソン)のチェックを経た手紙のやりとりのみ。

 もちろんこれはモアネットがエミリアへの情に駆られることを危惧してのことであり、そして同時にあわよくば魔術を封じる術を得ようとするオルドの考えである。どこまでも欲深い男だが、その欲深さに救われているのも事実。

 ――ちなみに、アレクシスとローデルもまた同じ状況にある。オルドはアレクシスが弟に会いに行くことも禁じ、彼等にもまた手紙のやりとりのみを許可した。それも自らチェックをするという徹底ぶり。クツクツと笑いながら手紙を読み「可愛い甥っ子共の兄弟喧嘩だ」と話していたオルドの姿は記憶に新しい――


『魔術を封じる術』については、ジーナのアバルキン家をはじめ、彼女の知人達が研究を買って出てくれた。

 それどころか、最近では『魔術を封じる組』と『封じる術を魔術で破る組』に分かれて互いの研究成果を熱くぶつけあっている。もはや彼女達にエミリア云々の事情はなく、いかに研究を進める実績を出すかに熱を入れているようだ。

 なにせ、元より魔女は己の領地に篭って研究に没頭する質にある。そんな中に投下されたこの題材、「燃えないわけがないわ」とはジーナの談。


「あの勢いだ、きっとそう遠くないうちにエミリア嬢の魔術も封じられるだろ」

「そうですね。それまでは手紙で……」

「その手紙も、エミリア嬢は『モアネットお姉様が返事を書いてくれるなんて』と喜んでたけどな」


 パーシヴァルがニヤリと笑みを浮かべる。

 きっと今までのモアネットの筆無精ぶりを言いたいのだろう、察してモアネットがふいとそっぽを向いた。「魔女は忙しいんです」と白々しく誤魔化せば、彼は更に笑みを強めて握った手を擦ってくる。

 なんてむず痒い……とモアネットが心の中で呟くと、それとほぼ同時にパーシヴァルが「モアネット嬢」と名を呼んできた。見れば彼の碧色の瞳がジッとこちらを見据えている。気のせいだろうか、彼の手が普段より熱い。


「どうしました?」

「モアネット嬢、貴女は最近、その……外でも手甲を外すようになった」

「えぇ、そうですね。手や足ならもう平気です」


 肌を一ミリ晒すことも拒否していた以前と違い、この一年でモアネットは少しずつ己の姿を人目に晒せるようになっていた。

 といっても手足のみで、それだってパーシヴァルを始めとする信頼できる人がそばにいてようやくといったものだ。注目されれば緊張するし、人が多ければ萎縮して慌てて手甲を嵌めてしまう。

 それでも、最近では自ら手や足を晒すようになった。今のように、誰かに触れることを心地良いとも思える。


「俺はそれを良い事だと思う。貴女が鎧を脱ごうと努力しているのも知っている。……でも」

「でも?」

「貴女が手甲を外して誰かに触れようとするのを見ていると、俺は……その……し、嫉妬してしまうんだ」


 真っ赤になりつつしどろもどろに話すパーシヴァルに、モアネットが驚いて兜の中で目を丸くさせた。

 触れている手が熱い。彼の言葉が鎧を突き抜けて胸を締め付け鼓動を早める


「手甲でも、外した手でも、一番に俺に触れてほしい。こうやって繋ぐのは俺だけにしてほしい」

「そんなこと、なんで……」

「……貴女のことが好きだからだ」


 真剣な眼差しで見つめられながら告げられ、モアネットは胸の高鳴りが増すのを感じていた。

 彼の言葉が胸に溶け込む。

 心音が高鳴り、体全体に熱が巡っていく。ふわふわと浮かぶように心地良く、これが夢心地なのかとそんなことを考えてしまう。

 好きだ、なんて言葉を誰かから贈られるなんて思わなかった。

 好きだ、なんて……。



「鎧ですよ!?」



 と、思わずモアネットが我に返って声を上げた。


「ん? あぁ、鎧だな」

「鎧ですよ、顔見えないじゃないですか!」

「そうだな、見えないな」

「それなのに好きだなんて……まさかパーシヴァルさん、鎧好き」

「断じて違う」


 パーシヴァルの力強い断言に、モアネットがならばいったいどうしてと兜の中で困惑の表情を浮かべた。

 なにせ鎧だ。頭のてっぺんから爪先まで鉄で覆っている。ようやく手や足を出せるようになったものの、いまだ顔はおろか髪すら見せていない。

 だというのに彼は愛を訴えてきた。いったい何がそれほどまでに……そうモアネットが尋ねれば、パーシヴァルが照れ臭そうに笑った。


「何がって……貴女は優しくて、それにとても可愛いと思う」

「さては寝惚けてますね」

「寝惚けてない」

「だって、可愛いって……。それに、私たまにあっちの鎧に入ったりしますよ」


 そうモアネットが呟きながらも視線をやるのは、部屋の一角に立っている全身鎧。王宮での一件の時にモアネットが纏っていたものだ。

 オルドに返そうと思ったが妙な愛着が湧き貰い受け、普段の鎧を干している時や何かあった場合にあちらに入っている。いわばスペアだ。

 二体の鎧のデザインは違い、ならばあちらに入ったらどうなのかとモアネットが訴えれば、パーシヴァルがチラと横目でもう一体の全身鎧に視線をやり、


「その時はあっちの鎧が可愛い」


 と断言した。


「なんですかそれ、節操無しの鎧好きですか……」

「モアネット嬢が好きなんだ。だから貴女が入っている鎧が世界で一番愛しく思える」


 穏やかに告げ、パーシヴァルがそっと手を離した。次いで両腕を広げて伸ばしてくる。

 今から抱きしめると、だから逃げないてくれと、そう言われているような気がして、モアネットが兜の中でムグと唸った。寝惚けて抱きしめてくるなら今すぐにでも逃げてやるのに、こうも愛しそうに微笑まれ、そのうえでゆっくりと近付かれては逃げることなど出来るわけがない。

 ズルい、そう心の中で呟きつつ、彼の腕に抱きすくめられる。

 随分と絆されてしまったと実感するのは、鉄越しではどれほど強く抱きしめられても優しく背を撫でられても伝わらず、それを寂しいと考えているからだ。もっと強く抱きしめて欲しいと、そんな願いさえ胸に湧く。


「いつか鎧を脱ぐのなら、どうか一番に俺に会いに来てくれないだろうか。……いや、俺の前で鎧を脱いで、そして抱きしめさせて欲しい」

「……パーシヴァルさん」

「魔女も呪いも、鎧だって関係ない。今俺の腕の中にいるモアネット嬢を愛してる。どうか俺と結婚してくれ」


 請うように願うパーシヴァルの言葉に、モアネットが兜の中で吐息を漏らした。


「もしかしたら、脱げなくて一生このままかもしれませんよ」

「鎧でも可愛いから大丈夫だ」

「……もしも脱いでも、パーシヴァルさんの好みとは全く違って……もしかしたら、醜いかもしれない。そうしたらどうするんですか」


 あの時のアレクシスの言葉は呪いのせいだと分かった。

 だけどはたして本当に醜くないのだろうか?

 もしかしたら、魔術も呪いも関係なく見目が悪いという可能性だってある。

 それがモアネットの心に引っかかり、今もなお兜で顔を隠させていた。魔女も何も関係なく、ただ一人の少女として自分に自信を持てないのだ。

 そう小声で訴えるように問いかけるモアネットに、パーシヴァルが碧色の瞳を細めた。


「貴女が兜を介さずに俺を見てくれる、これ以上のことはない」


 そう告げて笑う。

 少し照れくさそうな彼の笑顔に、モアネットが彼の腕の中で小さく息を吐く。私だって……と、そんな考えが浮かぶのだ。


 私だって、この兜を脱いで貴方と向き合いたい。

 鎧越しではなく、この腕に抱きしめられたい。


 そんな痺れるような思いが胸に湧き、モアネットがコツンと彼の胸元に兜の額をぶつけた。

 ぐりぐりと兜を押し付ければ、まるで猫が甘えるようなその仕草にパーシヴァルがクスと笑うのが分かる。次いで鎧の背を撫でてくれるのが僅かな揺れで分かった。だがそれだけだ、触れられないこの感触を惜しいと思う。


「……変な人」


 そうポツリと呟きつつモアネットがそっと彼の背に腕を回した。

 ギュウと強く抱き着けば、パーシヴァル

 が更に笑みを強める。


「確かに変だ。でも、全身鎧の令嬢となら調度いいと思うけどな」


 そんな彼の言葉にモアネットは兜の中で小さく笑みをこぼし、そして瞳を閉じると共に堪えていた涙を零した。



 今まで守ってくれたこの鎧が、全てから隔ててくれたこの鉄の重装が、今はただもどかしい。

 これほど脱ぎたいと思える日がくるなんて、そう心の中で呟いて、モアネットがパーシヴァルにきつく抱きつくと共に「私も貴方のことが……」と小さな声ながらにも想いを告げた。


 この言葉もまた兜を介して彼に届く。なんてもどかしい。




 

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