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#121 織田信行として生きて候

「荒波は南蛮船から小回りを奪う。加えて、舵に銛を打ち込み、更には船同士を綱で繋ぎ止め自由な動きを阻害する。そこを火矢をもってしての火計。まるで、古代中国における赤壁の戦いの如し。流石は信行様でござる」


 利益が言った。


「なにを大袈裟な。前例が有り、それを為しただけよ」

「前例、でござるか?」

「左様、本日天気晴朗ナレド波高シ、だ」

「その様な言葉は、耳にした事がないでござる」


 そりゃぁ、そうだ。

 日本の未来をある意味決した、日本海戦で生まれた言葉だからな。

 そして、この那古野海戦もまた、そうなるのだ。


 南蛮船の帆に火が着き、燃え上がる。

 慌てて消そうとする船員達。

 だが、火矢は尚も帆に降り注ぎ、火勢を増す。

 甲板は大騒ぎと化していた。

 そこに、武装した南蛮人が加わる。

 初めは一人、二人であったが、騒ぎを聞きつけ船底から出て来たのだろう、大勢の姿が現れた。

 結果、甲板は身動きが取れぬ程の鮨詰め状態となる。

 手が付けられない火の勢いは、ますます強くなっていった。


 そんな船の船尾に一人の南蛮人がいた。

 見るからに身なりの良い格好をして。

 一廉の人物なのだろう。

 何故か短い杖を俺に向け、喚いている。

 よく見れば杖先から、煙が出ていた。


(まさか、短銃か? だとしても、こんな波に揺られながら狙える筈が……)


 だがしかし、俺は念の為矢盾を構えさせる。

 鉄を挟んだ、弾丸を通さぬ代物を。

 そして、大弓をあらん限りに引き絞った。


「信行様!」


 太郎が叫んだ。


「あの者が持つ杖は火縄銃の類ぞ! 持ってる者には弓矢を馳走させよ!」


 俺は、


「南無八幡大菩薩、日光の権現、那須の湯泉大明神! 先ずは一射!! 御照覧あれ!!!」


 放った。

 それは弧を描きながら、狙撃手の首を貫いた。


「信行様、お見事!」


 衝撃と共に船縁にもたれ掛かる狙撃手の体。

 苦しげである。

 そこに、更に一本の矢が首元から生えた。


「太郎殿も、お見事でござる! 血は争えませぬな!」


 狙撃手の体から力が目に見えて失せた。

 二本の矢により貫かれた首は、今や千切れそうである。

 そこに、後続の船からも矢が。

 俺の乗る船を飛び越え、狙撃手の首を射抜いたのだ。


「おお!?」


 首がポロリと、波打つ水面に落ちた。

 南蛮船を追い越す際、何を思ったのか前田利益は船縁に寄ったかと思うと、不意に槍を海に突き入れる。

 彼が掲げた槍先には件の生首があった。


「もしや、と思ったでござる」

「なんとまぁ、アンドレス・デ・ウルダネータ提督であったか」


 なぜ、彼が那古野を強襲する艦隊に?

 体の具合が悪いと耳にし、万病を癒す水であるくさや汁(エリクサー)を多めに与えたと言うのに。


(普通、感謝感激し、友好的になるよな? もしかして、それが逆に作用、つまりウルダネータは恐怖を感じ、彼の背後にいるスペインの危機感を大いに煽ったとか?)


 ふむ、有り得るな。

 だからこそ、これだけの艦隊を編成出来た訳か。


「ウルダネータ殿が、此度も船団の大将でござろうか?」

「その見込みはある」

「なれば、大将が討ち死にした以上、降伏を促すでござるか?」


 俺は腕組みした。


「良い考えだが……船団の旗艦が無事である内は難しかろう」


 刹那、耳を劈く音と光、顔を焼く程の熱が俺達の船を襲った。

 続く、荒波の音を消す程の大歓声が轟いた。


「うおぉおおおお!」

「流石は隠れなき弓巧者!!」

「たった一本の火矢で軍艦を沈めし漢、ここにあり!!!」

「正に弓聖じゃ!!」


 後で聞いた所、砲口が向けられたので、その砲門に射込んだらしい。


(それが偶然? いや、林弥七郎だけに狙ってたのかも知れん)


 火薬箱か何かに引火し、爆発。

 さらには誘発、からの大爆発。

 巨大な火柱が海上に生み出される事に。

 遠く離れた那古野大湊からも見える程の。

 そしてその後、ガレオン船は真っ二つに折れ、やがては沈んだのだ。


 この衝撃的な出来事が、スペイン艦隊の帰趨を決する事となる。


(火矢の一本で旗艦が沈められたからな。それに……)


 帆を失い、舵が壊れ、船を直す材料に事欠く有様であったからだ。

 加えて、糧食すら心許ない上に、大坂で籠城し、異教徒の兵を一手に引き受けている筈の別働隊が既に完敗している事を知ったからでもあった。


 彼らは戦意無き事を示した。


「あれは……白旗か」

「白旗、でござるか?」

「左様、白旗だ。この旗を貴方の国の色に染めても良い、と言う意味が込められておる」

「つまり、降伏すると言う事でござるか!」


 俺は「誰か、言葉の分かり、且つ那古野を良く良く知る者を遣わせねば」と頭を悩ませるも、直ぐ様適任者が頭に思い浮かんだ。




「ジョバンニ・コルナーロ、スペイン人共は何と?」

「命ばかりはお助けを、と」

「コスメ・デ・トーレス、我の出した条件に彼奴等は何と?」

「那古野正教に改宗した上で、織田様に忠誠を誓うとの事ですじゃ」

「新たな日の本では、将軍である者が各宗派の主だった者を定める。つまりは、司教を任ずると申し伝えたか?」

「勿論でございますじゃ」


 半刻後、俺はスペイン艦隊の降伏を受け入れた。

 それから少しばかり日が経った、永禄八年(西暦一五六五年)六月一日。

 尾張国那古野において、那古野幕府の開府が宣下されたのであった。




  ◇




 永禄八年(西暦一五六五年)九月某日 那古野幕府 那古野城 評定の間


「して、亡骸なき主だった者は以上か?」

「は! 上杉輝虎、武田信玄、大友宗麟、近衛前久、そして第一皇子にございまする」


 十字軍が街道沿いに晒した死体と、連れ去った人の数に大きな隔たりがあった。

 結論を言えば、海外に連れ去られたらしい。

 奴隷としてな。

 一時とはいえ、敗れた者の待ち受ける運命は実に過酷である。


(必ず連れ戻すと口にした手前、放っておくのもなぁ。天下が治ったら行くしかないか。いや、でもなぁ……)


 俺は大きく頭を振り、次の話題に移る。


「私戦禁止令に対し、諸大名の動きは如何か?」


 俺の問いに答えたのは津々木蔵人だ。


「毛利は尼子への兵糧攻めを止め、和睦をした次第にございまする」

「他は?」

「恐れながら、九州の地に関しては某が」

「林秀貞、頼む」

「はっ! 毛利は九州の地から兵を引き上げた申した」

「ほう? 殊勝な事よ」


 だが、安心は出来ない。

 俺の知る毛利は、口では聞こえの良い答えをしつつ、裏では調略を幾重にも施し戦を仕掛ける、稀代の戦略家だったからな。


「毛利隆元殿が父である元就に対し、強硬に主張されたとか」

「んん?」


 熱田様の予言で命を救われたと信じている彼は、熱田神社を抑える俺に歯向かう気が到底起きないのだとか。

 同じ事が三好にも言えた。

 彼らは十字軍の侵攻を退けた後、諸大名の誰よりも先に臣下の礼をとったのだ。


「大友は信行様に新たな当主である長寿丸殿の庇護を求めておりまする故問題ないかと。ただ、島津が……」

「はて? 島津に何の問題が?」


 意外だ。

 那古野三和土と米を中心とした交易で、織田とは浅からぬ仲だと言うのに。


「〝誉れ高き島津は織田如きに頭を垂れぬ〟とか」

「ふふ、織田は守護代の家老から成り上がり家だからな。如きと言われれば確かにそうかも知れぬ」

「の、信行様!」

「落ち着け、蔵人。だが……」


 俺は勢い良く立ち上がる。


「我は天子様により直々に請われた征蛮大将軍である!」

「おお!」

「で、では信行様!」

「ああ、一刻も早い天下治平の為にも、島津を下す!」


 そう、俺はまだまだ、織田信行として生きて候。

日本セネガル戦を見た所為か、眠くて仕方ない。

ですがこれだけは伝えておきたい。


「紛らわしいタイトルですけど今回が最終回じゃないんです」

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