第七章:王都へ帰還
レイウィス・バルサグ第一王女は、はぐれ騎士である髑髏の騎士---しゃれこうべに馬の手綱を握らせながら周囲を臣下達に護衛させ・・・・・王都であるヴァエリエに帰還した。
ヴァエリエは東から昇る太陽を受け止める形---即ち西へ沈むような形で在る。
それは2代目国王---つまりフォン・ベルトの息子が父親に対する礼儀としたのが理由と言われているが、実際の所は分からない。
ただ、山や谷に覆われた王国の中でも更に標高が高く、険しい山と谷に覆われたヴァイガーに比べればヴァエリエは実に良い。
先ず盆地であり周囲も割と平らな道が続いている事から交通面が楽で良く、土地も広かった事から中心地としての力があった。
その上で東の方角にはヴァイガーがあるからフォン・ベルトの加護がある・・・・と考えたのだろう。
これに関しては史書にも書かれているから確かであり、現実にフォン・ベルトの加護があるのか?
ヴァエリエは大した災害などには襲われず発展を続けた。
そんなヴァエリエに築かれた城の名はエスカータと言い、盆地に築かれた平城だ。
ヴァイガーに築かれたとされるリブリーブス城に比べれば防御の面では劣るが、それでも戦に対する備えは整っている。
「外敵」からは・・・・・・・・
「見えましたね・・・・・・・・」
レイウィス王女は馬の上から見えた城をま待て静かに呟く。
彼女の眼には夜でも美しくもあり、荘厳さをもつエスカータ城が映し出されていた。
「・・・・・・・・」
しゃれこうべの眼にもエスカータ城は映っているが、どういう訳か無言だった。
臣下達も同じだが、臣下達の方はエスカータ城に感慨深い感があるのか・・・・何処か、かしずくような感じである。
その臣下達をレイウィス王女は見ていたが、しゃれこうべの言葉が頭を過ぎる。
『貴女様の臣下達は、王国に仕える前に・・・・神に仕えている様子』
特にユニエールは・・・・・・・・
『実に賢い。さしずめ悪魔みたいに知恵が回る。ゆめゆめ信用し過ぎてはなりません』
確かに・・・・ユニエールを始めとした次世代の臣下達も聖教を信仰している。
いや、ヴァエリエに住む殆どの者達は聖教を信仰しており、他の宗教を信仰している者は少ない。
だから度々だが王室が進める政教分離に反対意見を出してくる。
それはユニエール達も同じであり、イプロシグ王も頭を悩ませていた。
『どうして宗教と政治は違うと解らないのかしら?』
レイウィス王女から言わせれば聖教はあくまで一宗教に過ぎない。
ゆえに政治に口を挟むべきではないと思っている。
しかし、周りは聖教の教えを絶対と信じ、政治に織り交ぜようとする。
そればかりか王室を大司教の下に着かせようとする上で・・・・フォン・ベルトの存在すら認めない言動すらする。
これは明らかに王室に対する侮辱だ。
特に酷いのは現大司教がミサで言った言葉だろう。
『フォン・ベルトなる王は存在しない。王国は神が創り、そこに王なる“犬”を配置したに過ぎない』
流石に仁王と言われているイプロシグ王もこれには激怒した。
『フォン・ベルト陛下を侮辱したばかりか我等を犬呼ばわりするとは何事か?!それを言うなら貴様も犬であろう!!』
それこそ神に捧げる供物を盗み食いして豚みたいに肥え太った!!
こんな言葉を人前で声を荒げて言うほどイプロシグ王は激怒したのである。
何せ彼は赤子の頃だが、フォン・ベルトに会っており名付けられたのだから無理もない。
手打ちにする勢いだったが9家と中央貴族達に止められて事なきは得たが・・・・・・・・
この時にレイウィス王女が政教分離はやらなくてはならないと決めた瞬間でもある。
イプロシグ王に至っては決意を固めた瞬間だったろうが果たして今度の行く末は・・・・・・・・
『姫様!!』
前方から声がしてレイウィス王女がハットすると何時の間にか城門前に来ている事に気付く。
そして前を見ると大勢の臣下達が居たではないか。
ただ、その中には肥え太った豚みたいな男が交じっており、さも自分が代表と言わんばかりに目立つように立っている。
男は紫の丸い聖職者が被る帽子に赤い縦長の布を首から掛けているが・・・・実に似合わない。
さしずめ豚の道化師と言った所だが、こんな男が何を隠そう聖教の大司教なのだ。
「姫様、女の身でありながら遠乗りに出掛けるから危うい眼に遭うのですよ」
大司教はレイウィス王女の前に出るや開口一番に叱咤してきた。
「女の身で遠乗りに出てはいけない法はない筈ですよ?第一父上の許可は頂きました」
「如何に国王陛下が許しても神の教えは守らなくてはなりません」
「生憎ですが、私も父上も聖教の信者ではありません。それより退きなさい」
私の命を救った騎士を宮廷で最高の礼儀を持ち迎えるとレイウィス王女は告げる。
しかし、大司教を始めとした臣下達は道を阻むように立った。
その中にユニエールは居ないが、距離的には大司教寄りだった。
「ここは神の祝福がある者だけが住まう場所であり、辺境出にして騎士に非ずの野良犬は入れません」
「・・・汝、恩は仇で返すべからずと聖書には書かれていますが、大司教ともあろう者が破る気ですか?」
「いいえ。神は“信者”には仇で返すなと言われました。異教徒と野蛮人には暴力を許可しています」
何とも自分勝手な解釈だとレイウィス王女は思わずにはいられなかったが、こちらにだって意地がある。
第一父を始めとした王室を侮辱し、さも自分が正しいと胸を張る「豚」の態度は気に入らない。
「これは王女の前に一人間としての礼儀です。しゃれこうべ様を城に迎え入れます」
「いいえ。駄目です」
レイウィス王女の言葉を大司教の服を着た豚は直ぐに突っぱねた。
互いに睨み合う形になったが、どうやら神という者は粋な人物のようだ。
「・・・・何をしている」
落ち着いているが、威厳ある声が豚達の背後からして振り返る。
すると大勢の人間を引き連れた男が居た。
男は壮年で全体的に落ち着いた雰囲気を出しているが、彼の周りを護るように立つ9人の男女は臨戦態勢を取っていた。
その9人の周りに居る者達も同じだが、彼等は豚に従う臣下達を睨み据えているのが興味深い。
9人の男女は別名を「九つの尾を持つ獅子」と言われている9家の当主で、臣下達を睨み据えている者達は中央貴族の前当主だ。
彼等を従える者こそサルバーナ王国第4代目国王にしてレイウィス王女の父である・・・・仁王イプロシグだ。
「レイウィス、無事で何よりだ」
イプロシグ王はレイウィス王女に視線をやると暖かい言葉を投げた。
「こちらの方---ハガク・フォー・ナベグズ辺境伯爵の領民である、しゃれこうべ様に助けてもらいました」
レイウィス王女は馬から降りて片膝をつくしゃれこうべを紹介した。
「そうか。あの伯爵の領民・・・・か。先ずは娘を助けて頂き感謝する。しゃれこうべ殿」
イプロシグ王はしゃれこうべに近付くと腰を折って礼を述べた。
「いいえ。私は主人を持たぬ、はぐれ騎士に過ぎませんが大勢の男達に襲われている婦女子を助けたに過ぎません」
しゃれこうべは顔を上げイプロシグ王に言うが、それでもイプロシグ王は頭を下げた。
「そういう事でも娘を助けた恩人に変わりはない。今宵は我が城でくつろがれよ」
「国王陛下!このような辺境の野蛮人を神が治めるヴァエリエに入れるなど・・・・・・・・」
「黙れぇい!!」
豚が反論しようとしたが、それを一声で黙らせる者がイプロシグ王の横から出て来た。
その人物こそ9家の筆頭である大公だった。