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第六章:騎士からの忠告

「き、貴様!?」


しゃれこうべに問われた臣下は激昂したが、そこから剣は抜けなかった。


「どうした?俺みたいな野良犬に愚弄されて悔しくないのか?」


しゃれこうべは低い口調で挑発的な問いを投げ続け、レイウィス王女は「これが素なんだ」と思った。


先ほどまでは「私」だったが、何処か余所余所しい感は否めなかった。


ところが「俺」だと実に板についており素なんだと直ぐに分かった。


同時に近付き難い雰囲気も様になっている。


「貴様、赦せん!!」


臣下は我慢できなかったのか、とうとう大剣を鞘からに抜いてしまった。


「止めんか!王女の御前ぞ!!」


ユニエールが真っ先に止めようとしたが、その臣下は聞く様子を見せない。


「貴様に“決闘”を申す!これは名誉の戦いだ!!」


「ほぉ、決闘か・・・・“血闘”ではなく・・・・・まぁ、良いだろう」


しゃれこうべは臣下の言葉を敢えて別の字にして繰り返すように言いつつ槍を地面に突き刺す。


そして腰を沈め、足を八の字に開くと大刀を臍辺りにやった。


「さぁ、来い・・・・・お前の心意気に免じて、正々堂々と戦ってやる」


何せ決闘だからな・・・・・・・


そう、しゃれこうべは言いレイウィス王女はジッと見つめる。


あの構えは鎧を着た時に行う戦の戦闘術である。


何せ鎧は敵の刃や矢を受け止めたり、防御する事から重く出来ており転べば立ち上がるのは至難の業だ。


だからこそ・・・・・ああして極端な程に腰を落とし、そして足を大きく開く事で転倒を防止して敵の白刃を受け止めるようにする。


しかし、あの独特の構えは・・・・・・見た事がない。


というか、しゃれこうべの持つ剣も槍もヴァエリエでは見る事がない代物である。


いや、待てよ・・・・・・


『確か・・・・フォン・ベルト陛下は、あれと似たような剣を所持していたと史書に書いてあったわね?』


初代国王であったフォン・ベルトは名前以外が殆ど王族でも分からない謎多き人物であるが、イプロシグ王が幼い時に読んでくれた王族の史書によれば・・・・・・


『フォン・ベルト陛下が使われていた剣は、反りがある物で綺麗な文様が刃には映し出されており、折れず曲がらず、そして恐ろしい程に切れ味の鋭い剣だと言う』


そして・・・・・・・・・・


『我々の剣術には無い、不思議な術を得意としていた。それは鞘に剣を納めた状態から相手を一刀の下に・・・・・・・・』


「うりゃあああああああ!!」


臣下が命一杯の声を張り上げる。


それによってレイウィス王女は思考を中断させたが、ユニエールと他の臣下達は無言だった。


先ほどユニエールは止めようとしたが、決闘と言われた時点で手出し出来なくなったのである。


この決闘は貴族の名誉を懸けた戦いで得物は大小の剣か、盾、それか長柄で弓矢のような飛び道具の類は使用禁止で、一対一で戦う。


打つ場所は特に決まりはなく、相手が「参った」というか、戦闘不能に陥れば勝ちとなる至極単純なルールだ。


ただし・・・・・間違いなく両者が血を流す故に余程な事でない限り行われない。


それを臣下はやるのだから怒り心頭なのだろうが・・・・・レイウィス王女には勝敗が既に見えていた。


何せ臣下は決闘を申し込んだ割には声に覇気が無い。


先程の声もなけなしの勇気を振り絞ったのだろうが、しゃれこうべは微動だにしない。


ただジッとしている。


「・・・・・・・・・」


しゃれこうべは何も言わず、構えを崩さない。


それが臣下には挑発にも取れたのか、苛々と眉間を痙攣させる。


刹那・・・・・・・・


臣下は大きく前に出て頭上高く構えていた大刀を真っ向から振り下ろした。


幅広く肉厚な刃は真っ直ぐ振り下ろされ、しゃれこうべを切り落とさんとした。


ところが・・・・刃は地面を抉る前に止まった。


いや、止めるしかなかった。


何せ後少し動かせば自分の裏小手を切り落とされていたのだからな。


それはしゃれこうべの右手に握られた大刀が裏小手ギリギリで寸止めされているのが・・・・証明していた。


どうやって抜いた?


鞘に納められた状態から抜く技などレイウィス王女は知らない。


ただ、しゃれこうべの身体が半身になり、その上で臍辺りにあった鞘が腰辺りにあった事から推測は出来る。


『鞘を後ろに引きながら身体を半身にして抜いたのかしら?』


あれなら手首だけで抜くより速そうだし敵の白刃も退けられる。


そうレイウィス王女は推測しながら臣下に言った。


「勝負ありです。大人しく剣を仕舞いなさい」


「ひ、姫様!恐れながら勝負は・・・・・・・・」


臣下は金切り声でレイウィス王女に反論しようとしたが、悲鳴を上げた。


「裏小手は動脈が流れていて、しかも剣などを握るんだぞ?そこを斬られて・・・・無事で済むと思ってんのかよ?」


しゃれこうべは底意地の悪い口調で説明し、僅かに白刃を動かし臣下の反論を黙らせた。


とは言っても彼の言葉は実に的確な指摘であった。


小手には動脈が流れており、物を掴むにも使用する。


そのため防具である籠手は割と柔らかくて脆い造りとなっており・・・・切断まで行かなくても戦闘力を奪い易い。


おまけに半身である事から仮に振り下ろしても躱されているため勝敗は覆せない。


「さぁ剣を仕舞いなさい。今回の件は私の胸に留めておきますから」


レイウィス王女は臣下に諦めるように再び口を開くが、臣下は剣を仕舞わなかった。


「嫌です!こんな野良犬風情に・・・・・・・!?」


「・・・・しゃれこうべ殿の慈悲に感謝せよ」


この愚か者が!!


尚も反論し剣を離そうとしなかった臣下から剣を取り上げ、思い切り横っ面を引っぱ叩く者が現れた。


それはユニエールだった。


剣を取り上げられ、横っ面を引っぱ叩かれた臣下は情けない悲鳴を上げて転ぶ。


だが、ユニエールは更に罵声を浴びせた。


「畏れおおくも王女の御前にて刃を抜くなど言語道断!何より貴様は無理を押し通し付いて来た身!己が立場を踏まえぬは貴様の方だ!!」


「で、ですがユニエール様!こんな野良犬風情に神の治めるヴァエリエを・・・・・・・・」


「黙らんか!如何に我等の住むヴァエリエが神の治める王都だろうと・・・・・・・・


そこを「現在」治めているのは国王陛下だ。


「その国王陛下の御息女に意見するなど騎士たる者のする事ではない!!」


王国の騎士として・・・・「神に仕える騎士」として恥を知れ!!


恫喝するユニエールに他の臣下達も怯えたが、しゃれこうべだけは違い・・・・レイウィス王女に近付いて、王女の馬を落ち着かせた。


「・・・・しゃれこうべ殿、お見苦しい所を見せてしまい、誠に申し訳ない」


「いいえ。私も年甲斐なく喧嘩を売ってしまい申し訳ない。して、私も城まで王女を送り届ける事に許可は良いですか?」


「王女が良いと言っておられるのです。王国の騎士である私たちは従うのみです」


そうユニエールは言うと臣下達にあれこれ命令を出し始めた。


それを見てレイウィス王女は安堵の息を吐く。


一時はどうなるかと思ったが、何とかうまく収まった。


「しゃれこうべ様、先ほどの技は何と言うのですか?」


レイウィス王女はしゃれこうべに先ほどの技を問うが、しゃれこうべは技を答える代わりに顔を近付けた。


これにレイウィス王女は胸の鼓動を僅かに高めたが、しゃれこうべは真剣な顔を崩さない。


そして・・・・・・・・


「あの騎士を始め・・・・貴女様の臣下達は、王国に仕える前に・・・・・・神に仕えている様子」


ユニエールも同じだが・・・・・・・・


「彼は誠に賢い。それこそ悪魔みたいに悪知恵が働いておりますだから、彼は要注意です」


ゆめゆめ心を許してはなりません・・・・・・・


そう、消え入りそうな声で忠告した。


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