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第五十五章:女王陛下の帰還

ここから私視点に戻ります。

サルバーナ王国歴1033年2月10日。


この季節は雪が最も降る時であり、既に白い塊で辺りは覆われておりヴァエリエも例外ではない。


しかし、その時期の真っ只中に・・・・レイウィス王女はヴァエリエに帰還された。


彼の王女に味方した者達は歓喜し、敵対した者は怒りと絶望で迎えた。


ただし最初は居なかった騎士団が居り・・・・その騎士団を見た聖教は戦慄したとされている。


その騎士団は黒い鎧を着て髑髏の面を付けていたのだから無理もない。


髑髏は北の地にしかなく、そして一人の貴族しか使用していない紋章ので誰の騎士団かは直ぐ判った。


彼の地より来た騎士団に護られてレイウィス王女はヴァエリエに入った。


この部分を王室の史書では「女王の帰還」と書いており既に女王と認められていた事が窺える。


そしてヴァエリエに帰って来たレイウィス王女は城門の所で9家、バルバロッサ男爵、そして隠居達と合流し・・・・掃除に取り掛かった。


手始めに聖教と中央貴族を2つに分断し連携を断ち、その上で確固撃破したのである。


もっとも既に個々に行動を取り出しており柱となる者も居ないので完全な烏合の衆と化していたので然したる苦労はしなかった。


その証拠に分断された中央貴族達は抵抗らしい抵抗もせずレイウィス女王の前に引き摺り出されたのである。


彼等は気丈な態度を取りつつ・・・・親である隠居達の助けを内心では願ったらしいが、その親から自分の手で斬首させて欲しいと言われた時の心情は如何なるものだったろうか?


親が子を殺すのも・・・・子が親を殺すのも・・・・道徳的に見れば禁忌だが、王室の史書にも隠居達が子息の首を刎ねたと書かれているので・・・・事実で間違いない。


子息達は縄で縛られ首だけを前に突き出す姿勢を取らされると泣き叫んだが・・・・親の方が悲しかっただろう。


何せ腹を痛めて生んだ末に厳しくも愛情を持って育てた我が子を殺すのだから・・・・・・・・


それでも自分達の手で責任を隠居達は果たしたのである。


この斬首により中央貴族の大粛清とも言える罪滅ぼしは・・・・終わった。


それを見届けてからレイウィス女王は自身を助けてくれた民草達に礼を述べ・・・・醜悪の権化である大聖堂へ兵を向けた。


大聖堂の前では黒豚のミサで別れた民草の一部が今も聖教を支持する民草と争っていたがレイウィス女王が来ると・・・・動きを停止して目の前に現れた騎士団を見た。


騎士団は全員が黒い鎧を着て髑髏の仮面を付けた近衛兵騎士団たる「死の騎士団」だった。


彼の騎士団を見て一斉に争いを止めた民草達だが・・・・死の騎士団に攻撃を開始した。


本能的に共通の敵と感じたのだろうが死の騎士団は蚊にでも刺された様子で反撃を始めたとされている。


横一列に並んで槍衾を築くと民草を囲むように前進し・・・・あっという間に全員を大聖堂へ押し込んだ。


そして完全に大聖堂を包囲すると用意した大量の薪を周囲に置いたので何をするのか民草達には直ぐ解り罵声を浴びせた。


悪魔の手先!!


死の化身!!


北の蛮人!!


地獄へ帰れ!!


背教の王に仕える背教の騎士め!!


有らん限りの罵声を死の騎士団は浴びたが黙々と薪を置き続け後は松明を用意し、薪に火を点ければ良いだけとなったが・・・・裏口を囲んでいた騎士が誰かを捕えた。


捕えられた者は直ぐにレイウィス女王の前に引き摺り出されたが、その者の姿を見てレイウィス女王は眼を細める。


その人物は身形を変えているが・・・・聖教の大司教こと黒豚に他ならなかった。


黒豚は皮袋を背負っていたので中身を見てみると・・・・金銀宝石で一杯だった。


つまり黒豚は宝を持って一人だけ逃亡しようとしたのである。


ここまで来ると呆れて物が言えない。


だがレイウィス女王は違う。


両親を殺し、自身に辱めをした憎き敵だ。


無言で麻縄を持ったレイウィス女王は黒豚に近付くが、黒豚は後退りし・・・・そして背を向けた。


その首にレイウィス女王は走り寄ると麻縄で絞め上げた。


黒豚は両手で麻縄を振り解こうとしたがレイウィス女王は片足で豚を踏み付けると有らん限りの力で首を絞め続けた。


この間に黒豚は汚物と糞尿を撒き散らしレイウィス女王を罵倒しようとしたが・・・・その前に事切れた。


しかしレイウィス女王は黒豚が着ていた衣服を全て剥ぎ取り首に下げていた十字架も取った。


そして黒豚から大司教の地位を剥奪し、聖教からも破門すると断言した上で火刑を言い渡した。


死の騎士団が渡した松明で黒豚に火を点けると・・・・その死体を大聖堂の中に放り込む。


見る見る内に黒豚の死体は燃えて大聖堂も炎に包まれ・・・・中に閉じ込められた民草は蒸し焼きにされた。


まさに阿鼻叫喚の地獄絵図だが、それをレイウィス女王は無言で・・・・ジッと見つめ続けたと言われている。


それは・・・・女王としての責任と義務を・・・・両親の仇と自分の屈辱を確かに果たしたと見届ける為に他ならない。


かくしてレイウィス女王の名の下に・・・・春の政変は終わりを遂げた。


しかし、まだ・・・・やる事があるのかレイウィス女王は直ぐにエスカータ城へと入城すると玉座に腰掛け臣下達に命じたのである。

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正式に王となったレイウィス女王が最初に下した命令は聖教の処罰だった。


とはいえ大司教を始めとした謀叛の首謀者達は尽く死去しているが、それはあくまで春の政変の話だ。


レイウィス女王は抜本的な処罰をしたかったのか・・・・いや、歴代国王の意思を叶える為に聖教の司祭達を招集した。


司祭達は何ら抵抗もせずレイウィス女王の前に行くと今回の件を詫びた。


何せ自分達の長が犯した罪は大罪と言ってもおかしくない。


この国を築いたのは間違いなくフォン・ベルト王であり聖教は少し遅れて出来たのに神が築いたと・・・・黒豚を始めとした歴代の大司教たちは言い張った。


おまけに他宗教を罵倒し、力付くで聖教の信者を増やす始末は同宗とはいえ酷い所業である。


極め付けに金銀宝石をふんだんに使った大聖堂は何だ?


清貧を旨とする教えから大きく逸脱しているではないか。


ここだけでも罪深いのに死んだ黒豚は欲深くて執念深かった。


それを示す例が謀叛を起こす2年前に起きた「聖ワレンティヌの処刑」である。


このワレンティヌは教会でしか結婚式を挙げられないのはおかしいと考え、無断で結婚式を挙げた過度で処刑された一地方の司祭である。


しかし、彼を大司教に推した者は多く、その早すぎる死は今も惜しまれている。


現にイプロシグ王は王の権限で彼を「守護聖人」にした。


つまり王が聖教に口を出した訳だが、それを言うなら聖教の方が圧倒的に酷い。


ここを司祭達は苦々しく思いつつ我が身を優先し・・・・見て見ぬ振りをした。


その結果とんでもない展開を招いた事を彼等は後悔しており死を望んだ。


それこそ黒豚と同じく絞首刑にして火刑を・・・・・・・・


聖教では自殺を禁じられているから自分達で死ぬ事は許されない。


また彼等も・・・・聖教も王国の臣下だと宣言したのだ。


これを護教の聖騎士と言われたロンギヌス辺境子爵は指示した。


それによると「時には死を持って忠義に報いるのも臣下の務め」とレイウィス女王に讒言したらしい。


またハガク・フォー・ナベシグ辺境伯爵も「死を与えるのも王の役目」と説き指示したがレイウィス女王は2人の讒言を退けた。


理由はこうだ。


『今回の首謀者は大司教。そして奴は死んだので不問とする』


しかし、司祭達が自覚している通り罪はある。


『よって死する時まで謀叛を起こさせないようにし本来・・・・教えるべき事を説き続けよ』


これは王の命令である。


そう言ってレイウィス女王は司祭達に死を与えず・・・・司祭達も命令に従った。


この時こそサルバーナ王国の政教分離が確立したと言っても過言ではないだろう。


政教分離を確立させたレイウィス女王は後に亡き両親の葬式を盛大に行い、そして助けてくれた地方貴族達に厚く礼を述べた後に中央集権を更に強化した。


そして法なども改め、聖教を国教としながらも政には口を出させないようにした。


この他にも様々な業績を上げた後に・・・・ある土地へ使者を向かわせた。


その地こそゲッツ・ヴァルディッシュが居る流刑地である。


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