第五十四章:母なる大地の為に3
1月5日の朝・・・・自分は木を削って先端を鋭くし、その先端を軽く火で炙り強度を増した手槍を持った。
これを投げたら次の槍を投げ、それも投げたら別の槍を投げる。
矢の数も少なくなってきた事もあるが、槍を投げる事で障害物とする面もある。
そこを敵が抜けようとしたら石を投げて・・・・それすら無くなったらダガーで殺す。
頭の中では簡単な感じだが実際にやれるかは別問題だ。
しかし大丈夫だ・・・・猪を狩る時と同じと考えれば良い。
猪は突進力があり、牙は鋭くて肉を大きく抉られるが・・・・ちゃんと頭を使えば狩れる。
敵も同じだ。
何より・・・・あのような欲の皮が張った奴等にレイウィス王女を汚されて堪るか!!
あの方は女王になる御人・・・・その為なら如何なる屈辱にも耐えられる。
『私は・・・・女王となり王国を守護するんです・・・・それが私の義務です』
初めて会った時・・・・そう言って三つ目を護るように自分達の前に立ったレイウィス王女。
あの瞳と声・・・・そして気迫に自分は震えた。
そして決意した。
あの娘の為なら何でもしてやる!!
害なす者が居れば誰だろうと容赦しない!!
その害なす者が再び・・・・懲りずに来た。
先日と同じように来たが先日よりも積もった雪の為・・・・足を取られているので狙うには十分だ!!
自分は一番槍を投げたが・・・・見事に敵を貫いた。
これに仲間達も続いて槍を投げては敵を攻撃するが、右側の敵が我々の所に来たという情報が狼煙で伝わり驚いたが・・・・そいつ等に矢が突き刺さったので冷笑する。
馬鹿が・・・・獲物を逃がすんじゃねぇ!!
そう心中で怒鳴ったが・・・・それから暫く経つと自分が受け持つ真ん中の敵は全滅し、左側の敵も倒せたと連絡はきたが・・・・右は今も手古摺っているらしいと情報が入ってきた。
どうやら敵も三手に分かれるよりは一ヶ所に集中して突っ込んだ方が良いと判断したのが理由のようだ。
ならば・・・・そこを奴等の墓にするまでだ。
弓矢を手にした自分は部下を数名ほど連れて右側の敵を狙える岩陰に向かった。
そして様子を見てみると・・・・奴等は盾を手にして少しずつ進んでいる。
なるほど・・・・盾を持って来るとは考えたものだ。
おまけに鎧を着る事で早々に手傷を負わないようにする点も見直すべきだが・・・・その先にある落とし穴には気付かないか。
自分は右側を担当する者に目線で「落とし穴まで誘導しろ」と言った。
それに担当者は頷くと敵を落とし穴まで誘い込むように弱音を吐いたりした。
これに敵は容易く引っ掛かり・・・・落とし穴まで行き見事に落ちたから笑いが止まらない。
しかし、それも直ぐに止めて矢を番えると岩陰から身を乗り出して引き絞る。
敵は落とし穴から我々の姿を認めると急ぎ立ち上がろうとしたが鎧のせいで思うように動けないでいる。
そんなに・・・・そこに居たいのか?
なら・・・・永遠に居ろ!!
一斉に矢を放った。
敵は盾で防ごうとしたが狭い落とし穴に鎧を着た者が数人も入っているので思うように動けず・・・・針鼠と化した。
しかし、そこへ敵の増援が来たので・・・・谷の途中にある岩陰に隠れていた仲間に手で合図して岩を落とさせる。
それによって増援は退路を断たれる形となり袋の鼠と化したが・・・・我々は手を緩めない。
手を緩めれば必ず噛まれるのは同じ流人同士だから骨の髄まで理解している。
それだけじゃない。
こいつ等は何度もゲッツ様の縄張りを荒らしたばかりかレイウィス王女にまで手を出した愚か者だ!!
そんな奴等は死んで良い!!
死にたくなくても自分達が殺してやる!!
あの方に手を出す者は・・・・・・・・
『皆殺しだ!!』
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・・・・ここまでが赤い冬の実情を書いた書物だが、実際はまだ続きがあるのだがページの制限もあり申し訳ないが省略させてもらう。
さてゲッツ・ヴァルディッシュの助けを借りレイウィス王女は北の地を目指し続けた末に・・・・2月3日に到着したとの事だ。
つまり約一ヶ月の空間があり、その空間は・・・・北の地にある。
北の地は何度も書いたがフォン・ベルト陛下の子息たるフォーエム王が手古摺り、そして最後に併合した地。
そして歴代の国王陛下に何度も噛み付いた非常に癖の強い貴族が住んでいる土地だ。
著者も継父であるエヌ・ブラウザ辺境伯爵に連れられて訪れたが・・・・まさに別世界と言っても過言ではない体験をした。
だが、決してヴァエリエで今も語られるような未開の地ではない。
同時に北の地を治める3人の辺境貴族は皆、著者に様々な事を教えてくれたしやらしてくれた。
だから是非とも・・・・いや、ここからが重要な北の地を書くべきだが・・・・残念ながら書く事は出来ない。
北の地の三雄の一角を担うハガク・フォー・ナベシグ辺境伯爵の子孫であるハガク・フォー・ナベシグル様の頼みだ。
『我が地の事は申し訳ないが書かないで欲しい。それは、まだ君が幼いから見せられない場面も多々あるからだ。
また我が地に何れは訪れるであろう“然る方”の為にも敢えて北の地については何も書かないでもらいたい』
髑髏の騎士が語った兵の道とは・・・・という言葉は王室の史書から載せたので仕方ないと彼の辺境伯爵は言われたが、著者としては納得できない面があった。
これを書いたのは少なくとも著者の体験し、学んだ事をヴァエリエに住む者達にも教えたい面があったからだ。
それなのに敢えて自分達を悪者のようにしたままで良い事に・・・・納得できない。
そこを言うと辺境伯爵は微苦笑された。
『君は誠に誠実で心優しいな・・・・エヌ・ブラウザ辺境伯爵殿が可愛がるのも無理はないし、その心遣いは感謝する。
しかし、これで良いのだ。
少なくともヴァエリエに住む者達は我が地を今も未開の地と蔑むだろうが、それで良いのだよ。
酷い事を言うが・・・・彼の地に住む愚民共に我々が初代国王陛下から受けた密命を知られたら何を言い出すか判らない。
だから敢えて未開の地に住む蛮人という事で済ませておけば良い。
ただ・・・・君が大人となり改めて書きたいという時は・・・・その時は書いてもらって構わない』
この言葉を言われた著者は自分の幼さに怒りを覚えたが、彼の辺境伯爵は次の言葉で諭された。
『誰もが最初は幼いものだ。これから君は大人になって行き、ゆくゆくは継父であるエヌ・ブラウザ辺境伯爵殿の後を継ぐだろう。だから焦る事も急ぐ事もない。
時の流れは死と同様に・・・・皆に平等に訪れるのだからね』
こう言われて著者は何も言えなかった。
そして受け入れたので書かないが、それでも読んで下さった方には謝罪したい。
誠に申し訳ない・・・・・・・・
ただ北の地は掛けないが、その後レイウィス王女がヴァエリエに帰った後の展開は書けるので今しばらく付き合って頂けると幸いである。




