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第五十章:面倒臭い男

ここも三つ目視点ですが、今度はブロウベ・ヴァルディシュ辺境子爵の先祖を出します。

12月19日・・・・私とレイウィス王女は追っ手を撒いた奥深く逃げたが、それでも追っ手の気配は近付いている。


しかし、今も雨は降り続けており先日よりも烈しさを増したので体力温存を図り木の下で休んだ。


といっても火は起こせないので互いに身体を密着させる事で暖を取り互いに僅かな時間だが眠った。


いつ追っ手が来るか判らないし、また不安なレイウィス王女の心情もあり会話も出来るだけした。


生い立ちから全て違う私と王女だが・・・・妙な縁で話が合った。


ただ・・・・髑髏の騎士について王女は何一つ尋ねてはこなかった。


同時に私も話す事を意図して避けた。


恐らく・・・・感づいてはいるだろうが敢えて触れない事で希望に縋り続けたいのかもしれない。


それは女の身だから痛いほど・・・・解った。


両親は居ないし好きな男も居ない私でもレイウィス王女の気持ちは察する事が出来たのに・・・・あの騎士はなんて真似をしたのか。


男と女の心理は根本的に違うが、あの男は感情的に我慢できない。


もし、生きて目の前に現れたら思い切り殴りたい。


それくらいの事をしなければ私の腹の虫が治まらないし、またレイウィス王女にも無礼の筈だ。


だから殴ろうと思っている内に私とレイウィス王女は眠った。


でも暫くすると足音がして・・・・私は目を覚ました。


足音は全部で10人前後・・・・そして流人独特の臭いから追っ手と直ぐに判り私はレイウィス王女を起こした。


レイウィス王女は直ぐに追っ手が来たと悟り短剣を手にするが、私は抑えて静かに木の穴から出て様子を見る。


雨の中でも光る剥き出しの刃物は間違いなく・・・・殺した奴から奪い取った代物だ。


着ている甲冑もそうだ。


棒で叩き過ぎたのか、鈍い音を発しているのが良い証拠である。


私は静かに糸を左手に巻き付け、右手にダガーを持った。


ただし私のダガーは敢えて刃を黒く塗り光が反射しないように工夫している。


だから・・・・背後から回り込めば出来る。


レイウィス王女に目線で背後から攻撃すると告げ私は流人達の背後に回り込んだ。


流人達は私に気付かないがレイウィス王女には気付いたのか・・・・足音を殺した。


馬鹿が・・・・もっと早く足音とは殺すものだ!!


私は一気に距離を縮めると背後から流人達に襲い掛かったが、レイウィス王女も前から躍り出たので挟み撃ちとなった。


流人達は私達の逆襲に面食らい数で勝っているのに・・・・倒れた。


しかし、次の者は直ぐに来て私とレイウィス王女は逃げる事も出来ず背中を合わせて戦った。


それによって第一波は何とかなったが・・・・続く第二波で私は不覚にも矢を受けてしまった。


ただし肉を貫いただけで骨は無事なのが幸いと言えるだろう。


レイウィス王女は私を木陰まで連れて行ってくれたが・・・・覚悟を決めていた。


それは私も同じだが王女には生きて欲しかった。


だから祈った。


ただの一度も祈った事など無い神に心の底から初めて・・・・祈った。


・・・・この祈りが届いたのか、私と王女に近付いて来た流人達は何処からともなく飛んで来た矢によって死んだ。


雨も風も強い上に暗いのに・・・・正確に流人達を射止めた矢の射主と思われる者達が松明を片手に近付いて来る所で私は意識を失った。

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12月22日・・・・目を覚ました私の前にレイウィス王女と一人の男が現れた。


男は賊の頭と言われても信じる出で立ちをしていた。


年齢は20代後半で体格もガッチリしておりツルツルの禿げた頭と獣の皮で出来た袖無しの上着が妙に合っている。


しかし、やはり目を引くのは体格でレイウィス王女が少女のように見えてしまった。


そんな男の名を私が問うと「ゲッツ」と答えてくれた。


3日間ほど私は寝ていた事、その間はレイウィス王女がずっと看病していたとゲッツは告げた。


これに関して私は直ぐレイウィス王女に礼を述べたが・・・・その間にレイウィス王女の身分などを尋ねなかった事には疑問を抱いた。


するとゲッツは「大の男が数人がかりで女を追う姿は同じ男として情けなく見てられなかった」と答えた。


それが理由かと更に食い下がると・・・・・・・・


『紳士は何時だって婦女子の味方だ。お嬢さん』


こう言ったが・・・・どう頑張っても似合わないし臭すぎる台詞だと私は思わずにはいられなかった。


いや違う・・・・髑髏の騎士とは違う意味で「面倒臭い男」と思った。


だが、その態度もレイウィス王女と私の命を助けてくれたと思えば・・・・怒る気持ちも静まる。


そして「この雷雨は冬の到来の前触れ」と判り切った事を言いつつ私達を理由も問わずに泊めてくれた。


ただレイウィス王女は泊めてもらう事に恩を覚えたのか・・・・慣れない手付きで料理を始めようとしたので私が慌ててやると進言した。


ところがレイウィス王女は断固として自分がやると言って聞かない。


ならば私も病み上がりですが手伝うと言う事で・・・・やっと折れてくれたのは幸いと言う他ない。


とはいえ・・・・ゲッツの土地では殆ど野菜や穀物と言った類の物が採れないので大変だった。


その理由は土地が枯れている訳ではないが、かと言って穀物を植えるのに適している訳でもない。


最大の理由は兎などの小動物だ。


兎を筆頭とした動物が穀物を食べてしまい、そして鼠も最近は出始めたというから食うに困っているようだ。


これによって主食は動物の肉が基本となるが、その動物が確実に狩れる訳ではないから女は何時も大変らしい。


『何とか兎などを狩れる画期的な方法があれば良いのですが・・・・・・・・』


レイウィス王女は困り切った顔でゲッツの縄張りに住む女達と話し合うが、やはり品の良さが身から滲み出ている。


だからだろうか?


女達は本能的に「この娘を無碍に出来ない」と悟ったのか・・・・やたら恐縮しているが決して自分を卑下にはしていない。


つまり取り入る感はあるが、だからと言って自分を卑下するような真似はしないで自分の姿を見せている訳だ。


ここ等辺は女の誇りがそうさせているのだろうと同性からしても思いつつ私は情報収集を仕事上・・・・行った。


それで判った事はゲッツの性格はブタマン・ジューシ等を始めとした者達と、ここに住む者達も含めて・・・・同じく「外見に似合わない臭い台詞を連発する恰好付けたがり屋」との事だ。


だが筋を通す性格で仁義にも厚い事から皆には慕われており、私が寝ている間にレイウィス王女の身の回りの世話をするエルフィとシャノアという娘の親代わりでもあるらしい。


それ等の情報を纏めた私のゲッツに対する評価はこうだ。


『外見が賊の頭なのに臭すぎる台詞と、恰好付けたがる性格が合わさった非常に面倒くさい男』


しかし、筋と仁義を大事にする点は高評価を下しているが・・・・・・・・


とはいえ・・・・ここに何時まで居られるかは判らない。


ただし・・・・レイウィス王女には民草の生活を知る事が出来たし・・・・ほんの一時でも重圧から解放されて良かったと思っている。


後は私の傷が癒え次第・・・・去るべきだが・・・・その日を迎える前に敵が来た。


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