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第四十四章:美味し過ぎる餌

さて著者の書く史書もそろそろ中間に差し掛かった事を述べさせてもらう。


ここまで読んで下さった方は既に承知の筈だろうが敢えて書かせてもらうと・・・・この出来事によってサルバーナ王国は政教分離を確立させた。


つまり近代国家への大きな一歩を踏み出した訳である。


その点に比べるとアガリスタ共和国は今もブライズン教という国教に国政を干渉されて近代化していないと言えるだろう。


しかし、我が義父に当たる第32代目エヌ・ブラウザ辺境伯爵から聞いた話では「何れ政教分離はするだろう」との事だ。


理由を問うと「何時までも宗教が政に口を出せるのを時代は認めない」からと言われたが納得した。


何故なら一連の出来事も時代が政教分離をサルバーナ王国に求めたから起きたからと著者は感じたからである。


ただし、その時代によって2人の運命が大きく変わったのは・・・・赤の他人なれど同情を禁じ得ない。


それでも書いた以上は最後まで書くので読んでいる方には今少し御付き合いしてもらえると幸いである。


さて話を2000年前に戻すとレイウィス王女は我が義父の先祖に当たる4代目エヌ・ブラウザ辺境伯爵の土地に御逗留されて5日が経過した。


その5日の間に旅の疲れを癒し、冬に備えた準備もでき後は北の地に向かい出発するだけである。


しかし数ページ前にも書いた通りユニエールはエヌ・ブラウザ辺境伯爵の土地から川を挟んで谷を越えた流刑地に居る。


そこは改めて説明するまでもなく流刑地なので脱走は容易ではなかったが、流された者達も人間故に知恵がある。


更に外部から来た者の技術も合わさって・・・・ちょっとした戦が出来る程度の戦力は持っていたらしい。


そうは言っても正規兵や貴族の私兵みたいな装備ではないし、また純粋な戦闘も望めない。


ただユニエールは承知していたので・・・・あくまでも勢子としてレイウィス王女と髑髏の騎士を狩場へ追い込む事に終始させた。


もっとも臭いを嗅ぎ付けたのだろう聖騎士団も狩場に来たのでユニエールは背後も気にしなければならくなったのが痛い所であろう。


だが・・・・彼の地においてブタマン・ジューシに従わず逆らい続けた者が居て、その者がレイウィス王女を救った。


彼の者によってレイウィス王女は九死に一生を得たと言っても良いだろうが、それは王国にとっての話でありレイウィス・バリサグという一人の女からすれば悲劇だ。


その場面は何れ書かなければならないが先に髑髏の騎士の最期を書くとしよう。

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サルバーナ王国歴1032年12月8日、エヌ・ブラウザ辺境伯爵の領土は炎に包まれていた。


その日は風が強く日の扱いは注意するように触れ書きを出したばかりだった上に嫌な情報も入っていた。


悪い知らせとは聖教の飼い犬こと聖騎士団が来た事である。


人数は今までの中でも最も多く50人だったが、その程度なら十分にエヌ・ブラウザ辺境伯爵の兵力だけで対処できた。


しかし・・・・ほぼ同時に流刑地で流人達が動いたと潜入させていた三つ目からの報告を受け事態は急変した。


三つ目によると流刑地の4~5割を支配しているブタマン・ジューシを先頭に各方面で暴れ出したらしい。


もっとも流刑地から出て来れたのは少数で後は流刑地から矢などを射る程度であり大した事じゃない。


普通ならそう思うが、一度に各方面で暴れ出すなんて事は今まで一度たりともなかった。


そして今回の火事も考えてみると変な話だ。


火元は特に何もない所で起きた。


いわゆる「自然発火」と思われたが・・・・流刑地から出て来た少数の流人の存在がエヌ・ブラウザ辺境伯爵の脳裏に過ったのは言うまでもない。


『奴等はレイウィス王女を流刑地に追い込むつもりか!?』


流刑地は罪人を閉じ込める場所だけあって険しい山や谷で周囲を囲んだ上に看守が付く。


もっとも看守役は流刑地を囲むように暮らす地方貴族達だ。


つまり何か事が起これば直ぐに地方貴族が動いて流人達を取り締まる仕組みになっていたが、レイウィス王女を人質にされたら手も足も出ない。


おまけに少人数の流人達は今も何処かに潜んでおり・・・・放っておく事は不味い。


そいつ等を見つける者を振り分け、そして風で煽られ勢いを増す炎を消火する者などを振り分けると・・・・・・・・


「た、大変です!!」


エヌ・ブラウザ辺境伯爵の所へ武装した民草が駆け寄って来た。


「れ、レイウィス王女が流刑地の方へ行かれました!流人が我々を偽り誘導したんです!!」


『やられたっ!!』


エヌ・ブラウザ辺境伯爵は自分の行動が遅かった事に憤りを覚えたが、それは一瞬の事で直ぐに命令した。


「そなた等は10人前後を連れて流刑地に行け!他の地方貴族にも連絡を怠るな!奴等にレイウィス王女を近付けさせるな!!」


「御意!!」


民草はエヌ・ブラウザ辺境伯爵の命令に頷くと急いで仲間を連れて流刑地へと赴き、エヌ・ブラウザ辺境伯爵自身は炎を消火する方の指揮を執った。


「急ぎ消火せよ!魔石を使っても構わん!木を斬れ!建物も破壊し、これ以上の被害を食い止めろ!!」


エヌ・ブラウザ辺境伯爵は迫り来る炎を物ともせず指示を素早く出す事で被害を最小限に抑えようと試みた。


しかし、そんな彼を狙うように矢が飛んできた。


「ぬっ!!」


半身となりエヌ・ブラウザ辺境伯爵は腰の大刀を抜くと矢に当て軌道を逸らせた。


いや軌道を逸らせるだけでなく途中で捩じ切ってみせた。


いわゆる「矢切りの術」と称される術で代々エヌ家に伝わる物だが、それを見事に行ったエヌ・ブラウザ辺境伯爵は飛んで来た矢の方角に・・・・流人が居るのを見つけた。


「曲者だ!奴を捕えよ!!」


命じると直ぐに民草の一人が流人を捕えた。


流人は貧相な男で目の前に引き摺り出されても怖気づかない。


「貴様か・・・・我が領土に火を点けたのは?」


「あぁ、そうさ・・・・ユニエール侯爵様から爵位を授与されたブタマン・ジューシ中央子爵様からな」


「愚かな・・・・」


それだけ言ってエヌ・ブラウザ辺境伯爵は流人の首に刃を当てた。


「仲間は何人だ?言えば楽にしてやるが、断るなら・・・・苦しみながら死ぬぞ」


「さぁ?何人か・・・・ぎゃあ!?」


流人が悲鳴を上げた。


エヌ・ブラウザ辺境伯爵が耳を削ぎ落したのである。


「言え・・・・あと何人だ?言わないと次は手を切り落とすぞ」


「じ、10人・・・・だ」


「本当だな?」


「あぁ・・・・2人ずつ別れて火を点けてレイウィス王女を流刑地に誘導したら好きにしろと命じられたんだよ」


「そうか・・・・御苦労だった」


流人の首が静かに地面に落ちたが、その首をエヌ・ブラウザ辺境伯爵は炎の中に蹴り入れた。


「首は燃やしたが死体は土に埋めてやれ。消火はそなたに任せる。3人は私と共に流人狩りを行うぞ」


エヌ・ブラウザ辺境伯爵は血を吸った大刀を握りながら民草に指示を出すと残る流人を狩る事に急いだ。


しかし他の地方貴族に関しても同じような事を流人達はやったと言うのだから・・・・敵も中々の腕と認めざるを得ない。


そんな気持ちにエヌ・ブラウザ辺境伯爵はなったが、それも一瞬の事であった。


だが、エヌ・ブラウザ辺境伯爵は知らないだろうがブタマン・ジューシは大きな過ちを犯した。


それは目の前に釣り下げられた貴族と言う餌に飛び付いた軽率である。


ユニエールなら確かに子爵の爵位まで与える事が出来るし、また約束を違えるような真似はせず守っただろう。


しかし考えてみれば現状は明らかに不利だ。


仮にレイウィス王女を捕えても9家は直ぐにでも取り返すし、地方貴族も三つ目を使い奪還した暁には皆殺しにした事だろう。


ところがブタマンもユニエールも「美味し過ぎる餌」を前にして我を忘れて冷静な思考が出来なかった。


もっとも男の意地を通した点もまた・・・・・・・・


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