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第四十章:血生臭い地へ

サルバーナ王国の王都ヴァエリエから更に西へ進んだ場所に川が在った。


その川は旅人や動物が喉を潤すには良い場所に在り、今も動物達が喉を潤していて微笑ましいが・・・・上流から赤い血が混ざってくると逃げ出す。


ここに人間が居ても同じ動きをしただろうが・・・・その上流から新たな血が流れて来た。


いや、今度は血だけではなく音も聞こえてきた。


バシャ!


バシャ!


バシャ!


誰かが必死に走る音がリズムカルに聞こえてくるが、その数は複数だった。


『ひ、ヒィッ・・・・ヒィィィィィィィィッ!?よ、寄るな!寄るな!寄るなぁ!!』


逃げている者の悲鳴が足音と共に聞こえてくるが追う方は無言なのか声は全く聞こえてこない。


『ど、どうして私を・・・・私達を攻撃するんですか?!ど・・・・・・・・!?』


ぎゃああああああああああ!?


断末魔の悲鳴が川と森に木霊したが・・・・まだ歩く音はした。


『な・・・・ん・・・・で・・・・こんな・・・・かみ・・・・よ・・・・・・・・!?』


掠れた声は途中で途切れ・・・・柔らかい物体を鋭い刃が貫く音に変わった。


そして再び川の上流から真新しい鮮血が流れてきた。


『こんな目に何で遭うのか?教えてやるよ』


お前等と聖なる騎士団が計画を狂わせたからだ。


『だから代償に生命を頂いたのさ・・・・・・・・』


川の上流に複数の死体となった中央貴族達の一人---いや一体になった男に止めを刺した者が語り掛けた。


その者の手には剣が握られており・・・・心臓を深く貫いていたが、それを引き抜くと血を払い布で綺麗に拭う。


これにより刃が見えたが・・・・刃は片方しかない上に反りもあったのが興味深い。


しかし男は早々に鞘へ刃を納めて横から現れた仲間を見やる。


「死体をどうする?」


横から出て来た男は血を吸ったばかりのショートソードを片手に問いを投げてきたが、他の方角からも仲間が出て来て視線を向けた。


全員が血を吸った刃を握っており・・・・何をしたのかは凡その検討が出来るもリーダー格の男の心理までは判らない。


「金目の物だけ取ったら放っておけ。どうせ獣か魔物の餌になる」


「おいおい、俺達は何時から盗賊になったんだ?」


最初に出て来た男がショートソードに吸わせた血を拭いながら疑問を口にした。


「俺達は荒事を専門にしているが盗賊になった覚えはないぞ。それなのに盗賊の真似事をさせる理由は何だ?」


「簡単だ。“勢子”を用意するんだよ」


勢子・・・・・・・・?


男達はリーダーの言葉に首を傾げるが、リーダーは更に説明を続けた。


「この仕事は狩りだ。ただし貴族みたいに娯楽じゃねぇ。食うか、食われるかの命懸けの狩りさ」


「なるほど・・・・それなら勢子は必要だな。狩りに必要なのは3つだと死んだ親父も言っていた」


1に犬、2に足、3に得物・・・・・・・・


この3つが俗に狩りに必要な代物だが・・・・これ以外にも必要な物がある。


それが勢子だ。


勢子は獲物を仕留める役目の狩人が居る場所に獲物を追い込む若手狩人と、経験豊かな玄人が組んで行う。


若手は玄人のやり方を見て学ぶのだが今回は玄人だけで良い。


「そういう事だから金目の物は取っておけ」


奴等に足下を見られないように・・・・な。


そうリーダーの男は言うと死体から金目の物を早速奪い取った。

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レイウィス王女と髑髏の騎士が居るエヌ・ブラウザ辺境伯爵の領土から離れた土地からは血の臭いが漂っていた。


しかも辺りを見れば無尽に放り込んで土を被せたであろう「土饅頭」が所狭しと在るではないか。


「酷い・・・・所だな」


馬に乗りながら土饅頭を左右に見るユニエールは嫌な気持ちになった。


ここまで血と土の臭いが強烈な場所に来るのは初めてだったが先頭を進む男は違っていた。


「ここは複数の地方貴族が治める領土の間ですから仕方ないんですよ」


「随分と詳しいな?」


「荒事を専門にしていると・・・・こう言う場所の存在が嫌でも耳に入って来るんです」


何処ぞの地は王国が築かれて早1000年になるというのに今も下らん「喧嘩」をしていると・・・・・・・・


敢えて戦ではなく喧嘩と称する男にユニエールは直ぐ察した。


「なるほど・・・・それで何処に向かっているのだ?」


「ここで勢子を大量に雇い・・・・仕事を完遂させます」


「・・・・奴の墓場には打って付けだな。一時は計画を最初から練り直すのかと焦ったが」


ユニエールは土饅頭を見て薄らと笑みを浮かべた。


何せ敵は髑髏だ。


髑髏なら土に還るべきだから・・・・ちょうど良い場所である。


そんな気持ちを抱いた時・・・・貧相な男が現れたので馬を止める。


「あんた等・・・・誰だい?」


貧相な男はボロ雑巾みたいな衣服を纏い、そして凄まじい異臭を放ちながらユニエール達に問い掛けた。


「ヴァエリエから来たんだが・・・・ここにブタマンという男が居るだろ?会わせてくれねぇか?」


「ブタマン様に何の用だ?」


見る限り正規の騎士団じゃないだろと問う男に・・・・金の短剣を先頭に居る男は投げた。


「そいつは案内料であり前金だが文句あるか?」


「いいや・・・・こっちへ」


素早く短剣を懐に仕舞った男はユニエール達に背を向けると歩き出し、その後をユニエール達は追い掛けた。


しかし・・・・ここに綺麗な場所はないのか?


そう問いたい気持ちにユニエールはなったが、こうも思わずにはいられなかった。


『まさか・・・・私が来るとは、な』


心中で苦笑するユニエールだが人生なんて何があるのか判らない。


だからユニエールが王国の領土内ながらも治外法権地とも言える彼の地に足を踏み入れたとしても不思議じゃない。


ただ生命を落とす事も十分に考えられる。


では、そういう時には何と言って割り切れば良いか?


こんな言葉が良い筈だ。


『災難だったと諦めな』


聞き方によっては理不尽かもしれないが・・・・それが世の中と言えなくもない。


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