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第三十九章:一夜宿の伯爵

ここで傭兵の国盗り物語に出て来たエヌ・ブラウザの先祖---同名ですが、先祖を出します。

聖教が内部争いを始めた間にレイウィス王女は地道ながらも着実に北の地へ近付いていたが、そこへ追っ手が追い付き・・・・足止めを食っていた。


追っ手は中央貴族達で早馬を駆り、そして魔術師を同伴させた事で瞬く間にレイウィス王女と髑髏の騎士を取り囲んだ。


「レイウィス王女、潔く諦めて私共とヴァエリエに帰りましょう」


「今すぐ帰れば大司教の怒りは静まり軽い罰で済みますから」


口々に甘言を囁いてくる中央貴族は悪魔みたいに映ったがレイウィス王女の決意は既に決まり切っていた。


「私がヴァエリエに帰る時は女王として奸臣共を罰する時です」


これを聞き追っ手は仕方ないとばかりに剣を抜く。


しかし髑髏の騎士がレイウィス王女の前に立った。


「来るなら来やがれ。この糞共が。レイウィス王女には指一本・・・・触れさせねぇぞ」


この言葉に中央貴族達は顔を険しくさせたが仲間を倒した腕前には警戒しているのだろう。


誰か居ないか探している魔術師に眼をやり呪文を唱えさせようとしが・・・・その魔術師は呪文を唱える前に事切れた。


それは喉に1本の矢が突き刺さったからだ。


『なっ!?』


中央貴族は突然の出来事に眼を見張り、早くも手札の一枚が無くなった事に焦った。


何せ自分達の実力では髑髏の騎士には敵わないと判断したからこそ魔術師を連れて来たのだから無理もない。


しかし、そこが甘い。


魔術師は確かに常人にはない魔術を使い、そして膨大な知識を兼ね備えているが代償に体力がない。


そして呪文を唱えて魔法を発動させるまでは完全な無防備状態だから護衛を付けなければいけないというコストもある。


このコストは高いが出し惜しみはしない方が良いのに・・・・・専属の護衛を付けなかったのは減点1にして致命的だ。


お陰で魔術師は死んでしまい唖然とする間に背後へ回った見知らぬ者達が一斉に矢を射て中央貴族は成す術なく死んだ。


あっという間の出来事にレイウィス王女と髑髏の騎士は驚きを隠せなかったが改めて見れば・・・・誰一人として中央貴族は息をしていない。


一体・・・・誰が?


「・・・・レイウィス王女、御無事ですか?」


ここで抜き身の大刀を持った男が茂みから現れてレイウィス王女に近付くが、数歩手前で止まると大刀を背中にやって隠すと片膝をついた。


その仕草が自然であり尚且つ洗練されている所を見れば一目瞭然だが、レイウィス王女は相手が誰なのか判っていた。


「エヌ・ブラウザ辺境伯爵・・・・・・・・」


「御久し振りです。王女」


片膝をついたまま男は立派な髭をレイウィス王女に見せながらも壮年の顔立ちに合う笑みを浮かべた。


彼はヴァエリエから離れた北西の地を治めるエヌ・ブラウザと言い、別名を「一夜宿」の辺境伯爵と言われている。


この異名は初代国王フォン・ベルト夫妻を泊めた所から来ており、また地方にあるフォン・ベルトの足跡の「一つ」だ。


ここで話が逸れてしまうが敢えて書かせてもらう。


著者がヴァエリエに居た時もそうだが、この時代においても初代国王フォン・ベルト陛下の存在を否定する者は居た。


しかも歴史を飯の種にしている歴史家なら相応の知識などを持っているから一応の論としては通じる。


だが、これが常日頃から直参を鼻に掛ける中央貴族が言うとなれば話は別だ。


彼等は自分達の家に伝わっている筈の史書を読んでいないのか?


もし、読んでいないのなら直ぐに読め。


読めばフォン・ベルト陛下は生きていたと判る筈だ。


それでも疑うなら地方に来て調べれば良い。


調べれば確かな足跡が幾つもあり、その足跡---伝承や逸話、そして伝わった物は今も生きている。


これを知らず・・・・調べもしないで存在しなかったと言い張るのは余りにも理不尽だし王国の臣民として恥ずべき行為だ。


ただし・・・・いや、これ以上の事を書くのは止めよう。


著者の思いを書き記すのはあくまでも日記に留め置き、この書物には著者が調べる限りで調べた結果を書き記す物だ。


ゆえに話が逸れたので改めて戻るとしよう。

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ヴァエリエから来た追っ手から助けられたレイウィス王女と髑髏の騎士はエヌ・ブラウザ辺境伯爵に礼を述べた。


「エヌ・ブラウザ、助けて下さりありがとうございます」


「何を言われます。王の危機に駆け付けるのは臣下の務めです。それに我が領土に貴女様が来たという事は直ぐに知れましたので」


ならば逸早く駆け付けるまでの事とエヌ・ブラウザ辺境伯爵は謙虚に答えた。


「そう言ってもらえると助かります。ですが、どうして北西の地を治める貴方が・・・・まさか」


レイウィス王女はエヌ・ブラウザ辺境伯爵に訳を尋こうとしたが、直ぐに何かを悟ったのか顔を強張らせる。


それは髑髏の騎士も同じでエヌ・ブラウザ辺境伯爵も・・・・神妙な顔で答えた。


「恐らく魔術師が幻影術を使い貴女様の足を・・・・北から逸らし、この北西に向けさせたのでしょう」


ここで少し魔術について触れさせてもらう。


魔術師の操る術は後世では九大元素と称される「火」、「水」、「木」、「金」、「土」、「風」、「雷」、「光」、「闇」だが、この時代はまだ五大元素しかない。


ただし、著者がヴァエリエで読んだ宮廷魔術師マリーン・シュヴァルツヴァルトの著作である「黒い森の魔術論」では以下のように書かれている。


『九大元素が増えたのは古の時代に生きた遠き先祖達が試行錯誤の研究の末に見つけた至宝の宝である。

 しかし、私から言わせるなら4つの元素が増えたに過ぎない。

 その証拠に弟子が風の魔術で新たな術を創造したと言ってきて見たが・・・・風でなくても出来る術だった。

 つまり元素は増えても術の内容は変わっていない。

 要は使い手である我々の創意工夫が成長しなければ新たな道へは行けないのだが、我々も軍に属する身。

 ここを考えれば恐らくは・・・・今までの術に磨きを掛ける事に費やし、新たな術を考えるのは後回しになるだろう』


・・・・という具合に書かれており改めて著者も調べてみたが・・・・やはり魔術師の使う術は大体が似たような感じだった。


話を戻すと幻想術も魔術師が得意とする術の一つで・・・・どの元素でも出来る。


そのため恐らく死んだ魔術師は木の元素を使いレイウィス王女に幻想術を仕掛けたのだろうと推測できた。


「幻想術・・・・そんな・・・・・・・・」


自分の予想が当たった事にレイウィス王女は愕然とし、そして焦りを募らせた。


こうしている間にも王国は存亡の危機に晒されているのに!!


「ですが王女、悲観されるのは早過ぎます。まだ敵はイファグ王子達を見つけておりませんし、何人かの地方貴族が攻撃を始めました」


その攻撃とは先に書いたようにヴァエリエを包囲した上での兵糧攻めで飢えた敵は打って出て現状打破を狙うも・・・・所詮は烏合の衆でしかない。


そのため勇んで出撃しても直ぐに追い返される事を何度も繰り返し返って自分達の首を絞めている


「ここに加えてヴァエリエに残った老将と義民たちも戦いを続けております。要は内外から聖教は攻められているのです」


そこへ貴女が戻れば・・・・詰みだ。


「ですから悲観するのは早過ぎます。ですが焦ってもいけません」


聖教は敵であるが実力は雑兵以下でしかない。


しかし・・・・・・・・


「ユニエール侯爵は危険です。これは別の貴族から聞いた情報ですが・・・・あの男は精鋭を連れてヴァエリエを出たそうです」


「・・・・・・・・」


髑髏の騎士はバルバロッサ男爵の地を出る際に感じた気が奴等と悟った。


そして地方貴族の領土から離れた場所で襲い・・・・レイウィス王女を連れ戻す計画と予想する。


とはいえ・・・・同じ穴の狢である中央貴族によって当初の計画を恐らくは狂わされただろうから「敵の敵は味方」とは言ったものだ。


「レイウィス王女、一先ずエヌ・ブラウザ辺境伯爵殿の地で休みましょう」


髑髏の騎士はレイウィス王女の肩を叩いて讒言した。


「ですが・・・・・・・・」


「貴女様の怒りも悲しみも俺には想像できませんが、貴女は身体を休ませないと倒れるとは想像できます」


「私も騎士殿に賛成です。王女、ここは我が地で御身体を休められて下さい」


2人に頭を下げられてレイウィス王女は暫し沈黙したが・・・・少し経つと小さく頷いた。


「では、これより我が領土へ御連れします。皆の者、帰るぞ」


エヌ・ブラウザ辺境伯爵は部下に周辺を護らせつつレイウィス王女と髑髏の騎士を連れて領土へと帰った。


これについては著者の新しい家となった屋敷に伝わる史書にも書かれているので書き記しておく。


『サルバーナ王国歴1032年12月3日。我が領土に初代国王フォン・ベルト陛下に続きレイウィス王女も御泊りになられた』


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