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第三十二章:北の地を

バルバロッサ・ブリュッヘル男爵家の領土は朝だというのに血生臭かった。


それこそ鮮血が未だに乾いていないような臭いが漂っていたから堪らない。


ところが領民達は関係ないように作業に勤しんでいる。


彼ら領民から言わせれば血生臭いのは今に始まったからではないからだろうか?


何せ彼の男爵家は賊上がりだし、北の地に行く通り道を任されている。


ここを考えれば寧ろ血生臭くて当たり前か。


北の地は別名を「北夷」と言い、今も王国に反旗を翻す空気が立ち込めている。


そして何かと血生臭い術にも精を出しているとも聞く。


つまり戦準備に余念がないのだ


もっとも北の地以外の地方貴族達は総じて似たようなものだ。


何せサルバーナ王国は陸続きの陸国家。


こと戦になれば何処からでも敵は来るだろう。


如何に山や谷という天然の障害物があろうと、だ。


それは北の地に在る険しい山で有名な「オスカー山」を超え進軍したフォン・ベルトが証明している。


このオスカー山は別名を「剣山」とも言い、名に恥じぬ山道で知られている。


今も登山するには相当な技術と精神力で求められるが、それをフォン・ベルトは凡そ2万の大軍で登山した。


そして子息であり2代目の跡目を継いだフォーエムが最初の進軍で撃退された場所を越えたのである。


いや越えただけでなく足場まで固めてやったから大した親父にして子煩悩だ。


話が逸れてしまったが、このように如何に天然の障害物がある場所でも知恵を絞れば・・・・乗り越えられる。


それをフォン・ベルトは実施してみせたから北の地方貴族が殊の外に軍事に喧しいのも無理ない。


こんな事もあり、そして王都とは違い魑魅魍魎が跋扈する場所が豊富にあるから地方貴族達は戦準備に余念がなかったのだ。


むろん領民も言うに及ばずだが、そんな農機具の傍らに武器を置く領民の背後を・・・・一組の男女が通り過ぎた。


男の方は黒一色の鎧を着てボロボロのマントを羽織り、槍を右手に握っている。


対して女は旅装束に身を包み同じく黒いマントを羽織ってツバ広の帽子を深く被っていた。


しかし風でマントが翻ると40前後の剣が見え、帽子に隠された美しい素顔も見られた。


女の名はレイウィス・バリサグと言い、畏れ多くもサルバーナ王国の第一王女である。


だが聖教の謀叛によって王都より追い出されたばかりか・・・・両親も暗殺された。


そして屈辱に満ち溢れた行為と、女の貞操まで危うい目に遭わされた。


しかし目の前の王女は微塵も出していない。


ひとえに王国を護らんがために動こうとしている。


これこそ正に人の上に立つ者の姿だろう。


その気高い姿に髑髏の騎士は眼を細めざるを得なかった。


余りにも眩し過ぎるのだ。


鳥人の真似事をして太陽に近付き過ぎた人間は翼を溶かされ海の塵と化したと言う。


自分も近付き過ぎれば・・・・・・・・


いや・・・・例え塵と化した身であろうと魂は不滅だ。


そして塵と化すなら構わない。


肉体なんて魂を入れる容器のような物だ。


それに・・・・目の前の王女から女王になるだろう娘になら何をされても良い。


寧ろ甘んじて何でも己は受け止めるだろう。


君主の怒りや悲しみを受け止めるのも臣下の役目だ。


もっとも別の意味でも・・・・・・・・


そう髑髏の騎士が思った時・・・・馬の悲鳴がバルバロッサ・ブリュッヘル男爵の領土から聞こえてきた。

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バルバロッサ・ブリュッヘル男爵は自領の境界線に当たる地に近付いて来る集団を見た。


どいつもこいつも身形は綺麗だが、心中は汚れ切っている。


中でも汚いのは・・・・先頭に出て来た若造である。


「ほぉ・・・・これはこれは、ユニエール侯爵様じゃありませんか」


「バルバロッサ・ブリュッヘル男爵、何の真似ですか?」


ユニエール侯爵は馬に跨がったままバルバロッサ男爵に問いを投げた。


「何の真似だぁ?見て判らねぇのか」


グリッ・・・・


バルバロッサ男爵が足を捻ると下で踏まれていた愚民は悲鳴を上げた。


見れば彼の足下には大量出血した愚民共が山のように居るではないか。


「・・・・流石は、赤髭と言われるだけありますね」


「褒め言葉として受け取ってやるが、まぁ何とも青二才の言いそうな台詞だな?」


ユニエール侯爵の言葉を素直に受け取ったに見えたが、やはりブリュッヘル男爵家の現当主だけあって手厳しい。


そうユニエール侯爵は思いつつ新たな言葉を発した。


「バルバロッサ男爵。貴方の勇猛さと忠誠心には敬意を評します。しかし、如何に貴方でも我々には勝てません」


寛大な処置で済むように大司教に願うから降伏してくれませんか?


ユニエール侯爵は言い終わると答えを待ったが、バルバロッサ男爵は高笑いを上げた。


「ははははははは!?降伏?寛大な処置?おいおい、笑わせるなよ・・・・あんな豚と愚教が逆らった奴にするかよ」


建国とほぼ同時に聖教は産声を上げたが、今までの所行は王国と正反対ではないか。


「かしずく者には祝福と加護を与え、逆らう者は皆殺し・・・・そんな所行を今までしてきた輩が今さら寛大なんて有り得ねぇよ」


バルバロッサ男爵の言葉にユニエール侯爵は何も言えなかった。


確かに聖教の所行は言葉通りだ。


しかし・・・・・・・・


「貴方様と隠居達・・・・そして少数の民草で何が出来ますか?」


こちらはヴァエリエ一帯を手中に納め、そして現中央貴族当主と聖騎士団・・・・更には民草と地方貴族も傘下にしている。


そうユニエールは言うが、これすらバルバロッサ男爵は鼻で嘲笑した。


「地方貴族が傘下?おいおい、余り俺様を笑わせるなよ」


笑い死になんてしたくないとバルバロッサ男爵は語りユニエールは眉を顰める。


それは目の前の規格外で自分には理解なんて永遠に出来ない男爵の言葉が引っ掛かったからだ。


何せ大司教からは地方貴族も味方したと聞いている。


にも係わらずバルバロッサ男爵の言葉を鵜呑みにすると地方貴族は・・・・・・・・


『まさか・・・・地方貴族は味方になっていないのか?』


ユニエールの脳裏に嫌な展開が浮かんだ。


そりゃそうだ。


何せ地方貴族が味方になっていなければレイウィス王女を包囲できない。


それどころか自分達が逆に包囲される恐れがあるのだからな。


とはいえ確認のしようがない。


何せ大司教からは下手に詮索するなと釘を刺されたのだ。


何より・・・・目の前の男が素直に自分達を帰すつもりはないだろう。


いや、それ以前に・・・・・・・・


『レイウィス王女を一刻も早く我が胸に!!』


あの王女を我が胸の中に閉じ込めてしまいたい衝動がユニエールの心中を占めていた。


部下からの報告でバルバロッサ男爵の領土にレイウィス王女が居るのは知っている。


その情報がユニエールに冷静な思考を妨げていた。


「・・・・バルバロッサ男爵、最後通告だ」


今すぐレイウィス王女と髑髏の騎士を差し出せ。


「素直に差し出せば貴殿の領土と家族の身の安全は保証しよう」


先ほどの態度と口調を一変させてユニエールはバルバロッサ男爵に命じた。


そう「命令」したのだ。


この強気な態度に愚民と中央貴族は流石だと感心したが、対照的にバルバロッサ男爵の領民は呆れた。


何せバルバロッサ男爵に命令できるのは国王一家のみである。


若しくは彼が認めた者しか居ない。


そのどちらにも当てはまらない奴が命令した所で彼の男爵が素直に聞く訳ないのに・・・・・・・・


「小僧・・・・てめぇ、舐めてんなよ?」


バルバロッサ男爵の気が一気に強大となりユニエール達が乗る馬は怯えた。


いやユニエール達を振り落として今すぐ逃げたかった。


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