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第三章:髑髏の名前

レイウィス王女は何か温かい感触を肌に感じて目を覚ました。


寝かされていたのか、身体が横になっており起き上がろうとした。


「ん・・・・んんっ・・・・・・・・ッ!?」


しかし、肩に鈍い痛みを覚えて片手で抑えるが、自分の身体に包帯が巻かれている事に気付き、また額に濡れた布が置いてあった事にも気付くが・・・・・・・


「誰が・・・・・?」


辺りを見るが、姿は見えず愛馬が横に居るだけだ。


愛馬はレイウィス王女を見ると気遣うように鼻を近付ける。


「大丈夫よ。貴方も手当てされたのね?」


優しく愛馬を撫でながら見ると愛馬にも手当てがされていた。


「いったい誰が助けてくれたの?」


愛馬にレイウィス王女は問いを投げるが、愛馬は首を傾げるだけだった。


ただ、レイウィス王女は自分に掛けられていたボロ雑巾みたいなマントが・・・・焚火以上に温かく感じられた。


ここまでボロボロで継ぎ接ぎだらけのマントも珍しいが・・・・・誰だろうか?


改めて思った時に茂みから音が聞こえてきて反射的に剣を構える。


「目が覚めましたか?」


茂みから一人の騎士が出て来て声を掛けてきたが、レイウィス王女は眼を見開いた。


何せ茂みから出て来た騎士は・・・・・髑髏だったのだから無理もない。


髑髏は死を司る神として聖教では忌み嫌われているし、そうでなくても恐怖を先に覚えるものだ。


ところが髑髏の騎士は茂みから出て来たと思えばレイウィス王女と向き合うように・・・・・腰を下ろした。


「なにを驚いて・・・・あ、そうか。申し訳ない」


髑髏の騎士は低い声で問い掛けるが、途中で何を思ったのか謝罪した。


「こんな仮面をしていれば淑女は怯えますよね?いや、申し訳なかった」


そう言って騎士は髑髏の仮面を外そうとしたが、それは兜だとレイウィス王女は改めて知った。


何せ本物そっくりに出来ていたのだから無理もない。


「・・・・珍しい兜、ですね」


「いや、いま外そうとしているのは“面頬”という物です」


騎士はレイウィス王女の言葉を訂正しながら仮面こと面頬を外して素顔を見せる。


年齢は20代後半で如何にも腕っ節で稼いでいる印象を受けるが、顔立ちも些か粗く無数の傷痕が至る所にあり、荒っぽさを更に強調していた。


乱暴に切り揃えた黒髪も同じ印象を受けるが紫色の瞳は・・・・・綺麗だった。


鎧もボロボロで、大小の剣も同じだが、初めて見る鎧と剣にレイウィス王女は眼を引かれて、傍らにある槍を見るが・・・・・・


「その槍は・・・・・・・・」


レイウィス王女の眼に映った槍は伸縮式なのか、ある程度の長さに沿って線が入っていた。


柄は黒で穂先は真っ直ぐに伸びているが、正三角形の刃を持っており斬撃にも向いていそうだ。


あの槍は・・・・・・・・・・


「あぁ、こいつで先ほど貴女を助けました」


騎士は何でもないように言ったが、レイウィス王女は自分を助けた者だと知った瞬間だった。


「危ない所を助けて下さり感謝します・・・・・・」


痛む肩を抑えつつレイウィス王女は頭を下げる。


「いいえ、礼の言葉は要りません。“はぐれ騎士”ですが、見ず知らずの者が襲われているのに助けぬ道理はありませんから」


レイウィス王女は男の言った単語に眼を細めた。


はぐれ騎士・・・・・・・・


その単語は数年前から広まった主人を持たぬ騎士の呼び名だ。


王国が建国されてから大きな戦はないが、貴族同士や山賊退治で人手が足りない時がある。


そういう時に何処からともなく現れ手を貸すのが目の前の男が名乗った・・・・・はぐれ騎士だ。


彼等は何らかの理由で主人を持たず、その場限りの主従関係を結び、用が済むと契約は解除される。


つまり傭兵と何ら変わらないが、彼等自身の言い分は唯一の主人を見つけたいのだ。


そして命を助けてくれた者を蔑視するような性格の持ち主ではないレイウィス王女は・・・・・・・・


「助けて頂いた礼を・・・・・・・・」


「いや、何も要りません。うら若き淑女の肌を治療の為とはいえ、私は触りました」


本来なら無礼千万であると騎士は言い、やんわりとレイウィス王女の言葉を断った上で自分の要求もとい願いを言った。


「ですから、私の事を言わないだけで結構です。それに貴女を探しに供回りが何れは来るでしょう」


その時まで火に当たらせてもらえればと騎士は言い、何処までも謙虚さを失わせない。


ここら辺から察するに何処ぞの名のある家柄の出かとレイウィス王女は思った。


そして騎士が謙虚に申し出ると意地でも礼がしたくなった。


「貴方は、実に謙虚な方ですね。ですが、私は意固地な性格でして・・・・どうしても礼がしたいです」


両親も恩は必ず恩で返せと口酸っぱく教えているとレイウィス王女は言い、騎士を真っ直ぐ見つめる。


「困りましたね・・・・・あまり女性の扱いは上手くないので」


「でしたら私で学んで下さい。それに供回りは来ません。何せ一人で来たのですからね」


「何と・・・・・・」


騎士はレイウィス王女の言葉に眼を見張るが、何かを感じ取ったのか「そうですか」と相槌を打った。


「分かりました・・・・では、暫し休んだら貴女様を送り届けましょう」


「ありがとうございます。それはそうと名前を聞いても宜しいでしょうか?」


「名前、ですか・・・・残念ですが、私に名前はありません。ただ、周りからは“しゃれこうべ”と呼ばれております」


しゃれこうべ・・・・・・・・・


「髑髏、ですか」


「えぇ。私の生まれ育った土地を治める貴族の家紋が髑髏なので」


だから出身地に因んだ通り名らしいが・・・・・・・


「どうして、髑髏なのですか?」


そんな貴族が居たかとレイウィス王女は思い出そうとしながら問う。


「私の生まれ育った土地に伝わる話ですが、髑髏は死を連想させるも同時に人間の未熟さを表しているんです」


その上で生と死は一心同体であり、常に傍に居る意味もあるらしい。


「死は“眠りの兄弟”なんて言われるほど私の生まれ育った土地では普遍的なんです」


「そうですか。ですが、どうして髑髏の仮面を付けた上で骨も銅当てに描くのですか?」


彼の土地で死は普遍的に捉えられている事は理解しつつレイウィス王女は更に問い掛ける。


それは目の前の騎士と何でも良いから話したいという純粋な欲求だった。


とはいえ実に可愛らしく聖教が目くじらを立てようと知った事じゃない。


「貴女は見た目とは違い好奇心旺盛のようだ」


この格好を見れば大概は蔑視すると騎士は言いつつレイウィス王女の問いに答えてくれた。


「先ほども話した通り髑髏は死と未熟を表していますが、私みたいな戦う者には・・・・・こちらの理由で使われております」


骨と化しても国の為に主人の為に戦い続ける。


「なるほど、髑髏にそのような意味があるとは知りませんでした・・・・・・」


「知らなくて当たり前ですよ。 こちらの意味は私達みたいな者にしか気に入られてないんですから」


それに・・・・・・・・


「地方は別名を”辺境”と呼ばれていますからね」


この言葉にレイウィス王女は少しムッとした。


確かに・・・・・地方の別名は辺境だ。


辺境・・・・・つまり異なる土地にして中央に平定された場所とヴァエリエでは言われている。


そして聖教から言わせれば異なる神を崇める異教徒の巣窟だ。


「まぁ、これも歴史の波としか言えませんが、歴代国王が地方を訪れたのも歴史の一ページです」


私の生まれ育った土地にも初代国王が伝えた書物があり、私の教科書だと騎士は言い焚き火に枝をくべた。


それをレイウィス王女は見ながら・・・・髑髏の紋章を持つ貴族の名を思い出したのである。


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