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第二十八章:豚の耳に念仏

レイウィス王女が聖教の手によりエスカータ城の門前で早3日が経過した。


その間にエスカータ城に棲み出した豚は途方にくれていた。


何せイファグ王子の居場所が掴めず、レイウィス女王も一向に負けを認めようとしないのだから無理もない。


豚としては直ぐにレイウィス王女は負けを認め、イファグ王子に助けを求めると踏んでいたのだろうが宛が外れた形になった訳だ。


しかも9家の1家であるザウレグ家が「我こそ王国の支配者なり!聖教如きが出しゃばるな!!」と突っかかってきたので問題が増えた。


豚から言わせればザウレグ家など一侯爵家でしかないが、中央貴族から言わせれば違う。


ザウレグ家は9家の1家であり、初代ザウレグ家当主はフォン・ベルトに謀叛を働こうとした過去もある。


つまり・・・・それだけ実力があったという訳だ。


現当主に果たして王の器があるのかは不明だが、横槍を入れてきたのは明確だ。


だからと言って殺すなんて安易には出来ない。


もし手を出せば忽ち9家は怒りイファグ王子を大将に仇討ちを仕掛けるだろう。


9家でさえ厄介なのに西で地方貴族が戦の出で立ちでヴァエリエに向かっていると言うではないか。


これを聞いた豚は最初こそ鼻で笑った。


何故なら西は聖教の信者も居り、領主にも信者が居るから出任せと思ったのである。


ただ念には念をとばかりに偵察の者を行かせたが、その偵察の者は幾ら待っても帰って来なかった。


代わりに近付いて来たのは西を治める地方貴族達で豚は顔面蒼白になったのは容易に想像できるだろう。


しかし相手が女領主---マルーン辺境伯爵と知るや討伐軍を差し向ける辺り実に浅はかだ。


案の定・・・・討伐軍は返り討ちになり、這々の体で逃げ帰って来た。


だが、聖教の信者であり「護教の聖騎士」たる渾名を持つロンギネス辺境子爵が居る事を報告したのは僥倖である。


このロンギヌス辺境子爵は聖教が世に産声を上げた折に信者となった子息の末裔で地方にも聖教を広めており、また話が解る人物とヴァエリエにも伝わっていた。


直ぐ豚はロンギヌス辺境子爵に使者を送り、今回の騒動の原因と地方に居る聖教信者の保護に勤しめと命じた。


ところが・・・・使者は手紙を口に銜えた首だけで帰って来た。


そして手紙にはこう書かれていたので豚は面食らった。


『国王夫妻を謀殺した豚と聖教は滅びるべし』


こう書かれており豚は困惑し再度、使者を遣わした。


今度は無事に戻って来たかと思いきや・・・・額に「豚」と彫られ帰って来て手紙を持たされていた。


その手紙には以下の言葉が書かれていたらしい。


『私を始め聖教の信者は地方にも居る。しかし、勘違いしないでもらいたい。我々が忠節を誓うは国王陛下であり断じて聖教に非ず。

 それは領民にも言える事である。

 今件は明らかに聖教による謀叛と見受けられ到底・・・・許容できるものではなく、断じて罪人は死ぬべし。

 また、うら若きレイウィス王女を辱めた者には死より重い罰を与えた後に死ぬべし』


このように書かれており・・・・とてもじゃないが地方を大人しくさせるのは不可能と豚は思い知らされた。


しかし既に賽は投げられ最早・・・・どちらかが倒れるまで決着はつかない。


それを思い知らされた豚は何とかしようと対応に追われたが9家の問題も残っていたのが悩みの種だった。


何せ9家の住まいや兵力も分からず仕舞いなので下手に手を出せない訳だ。


そんな問題の上に・・・・民草達が逆らい始めたのである。


今日もレイウィス王女の前に民草の数名が赴き毛布と食糧等を提供し、それを聖騎士団が咎めたのだが・・・・彼等はこう言った。


『このように寒い時にバスタオル一枚では酷過ぎる。いや、一王女に対して余りにも無礼千万なり!!』


まさか民草に噛み付かれるとは聖騎士団も思っていなかったのか・・・・言われるがままに帰って来たというから情けない。


いや、民草相手に乱暴狼藉を働く聖騎士団など所詮その程度の騎士団だと改めて豚に思い知らせたと言えるだろう。


そんな度重なるように出て来た問題を豚は外見に似合わず順序よく処理していった。


先ず自分の手元に居るレイウィス王女の待遇を改善する。


これは民草の怒りを沈めレイウィス王女を飼い慣らす為に急務だからだ。


次にイファグ王子の身代わりを立てた。


もっとも現中央貴族をベッドに潜り込ませ顔は出さない。


声色を変えさせ病気と偽らせた。


そしてザウレグ侯爵にだが、これが一番の問題だ。


ザウレグ侯爵はイファグ王子の顔も声も知っており身代わりは役に立たない。


しかも民草を先導しようともしているし、自分の私兵を招き寄せ始めたのだからな。


ここを如何に処理するか・・・・見物なのだが所詮は豚だ。


故に歴史の分かれ目なのに・・・・客室を見てみると既に結末が分かってしまっていた。

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「ほぉ・・・・この私に共同統治を?」


客室で如何にも不快そうな声を出す男が居た。


その男は中肉中背で右眼が潰れており、左眼は底が見えない黒だった。


傍らには屈強な男が4人いて変な真似をしようものなら即座に・・・・抜刀する気だ。


「えぇ・・・・どうですか?」


豚は脂汗をハンカチで拭きながら愛想笑いを浮かべた。


しかし手から脂汗は流れて止まらない。


何せ目の前の男こそザウレグ侯爵なのだからな。


「くっ・・・・舐められたものだな。この私も」


ザウレグ侯爵は喉で乾いた笑い声を上げた。


それだけで豚は心臓を抉られた気持ちに襲われた。


目の前の男は、まさにフォン・ベルトに牙を一時は剥けた男の末裔だ。


「私の先祖が何故にフォン・ベルト陛下より鴉と蛇の紋章を拝領したのか・・・・知っているか?」


大司教・・・・・・・・


「さ、さぁ?私如き一宗教家には皆目見当も」


「だろうな?こんな後先考えないで謀叛などいう愚挙を起こし、あまつさえ私に共同統治を持ち掛ける辺り、な」


ザウレグ侯爵がニヤリと口端を上げ笑った。


それを見て豚は更に引き吊った笑みを浮かべた。


「我が先祖は強欲だったとされている。何せ臣下の身ながらフォン・ベルト陛下に成り代わろうとしたのだからな」


しかしフォン・ベルトは一代でサルバーナ王国を築き上げた稀代の男。


「私の先祖の企みなど最初から見通していた」


そして残忍にして嫉妬深き強欲な化身たる蛇を紋章にした。


「だが蛇は強欲ゆえに全てを飲み込む。だから時には己を滅ぼしかねん」


故に空を飛び賢き鴉も紋章に加えたのだ。


「これが何を意味するか解るか?」


「さ、さぁ・・・・・・・・?」


「なら教えてやろう」


ザウレグ侯爵が立ち上がったのを見て豚は耐え切れず身体を仰け反らせ椅子から転倒した。


「我が先祖は謀叛を未遂だが考えた。それをフォン・ベルト陛下は認め・・・・こう命じた」


『その洞察力と全てを飲み込む強欲で誠に国家に仇と害を成す敵を見つけ・・・・始末しろ』


「この命令は我が家にのみ与えられた密命。地方貴族達が別の密命を与えられたように、な」


そして貴様達---聖教は国王夫妻を謀殺し、この国を我が物にせんとしている。


「断じて赦すまじ行為。今この場で断罪したい所なれど・・・・その始末は、新たな王が行う」


いや新たな王がやる事で如何に王という地位が重い席が知るべきなのだ。


「だから貴様達の命は・・・・奪わん。せいぜい残る少ない時間を噛み締めるが良い」


死神は鎌を研いでいるからな・・・・・・・・


それだけ言うとザウレグ侯爵は部下を連れ豚達を置いて去った。


途中で聖騎士団や中央貴族が出会うも誰一人としてザウレグ侯爵を取り抑えなかった。


それだけザウレグ侯爵が堂々としており、また覇気に満ちていたからだろう。


しかし、それから間もなくレイウィス王女が逃亡したと知るや慌てて追い掛ける辺り・・・・・・・・


誠に馬の耳に念仏ならぬ「豚の耳に念仏」と言えるだろう。


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