表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/67

第二十二章:捕らわれる王女

廊下を歩いていたレイウィス王女は生臭い血の臭いに眉を顰めた。


『この臭いは・・・・血だわ』


何ゆえ血の臭いが中庭からする?


厨房からはするが中庭からは遠いのに・・・・


何か良からぬ事が行ったのでは?


ここ最近になって聖教の動きに不振を感じたレイウィス王女は中庭に急いだ。


中庭は自分を始め王室の人間が通る散歩道だ。


『お父様・・・・お母様・・・・』


レイウィス王女は両親の身を案じながら急ぐと・・・・中庭の前で足を止める。


いや止めざるを得なかった。


何故なら・・・・・・・・


「お、父様・・・・お母様・・・・」


レイウィス王女の眼前には血の池に沈んだ2人の男女が映っていた。


その傍らには青年も転がっていたが、レイウィス王女の眼には2人しか映っていなかった。


「お父様!?お母様!!」


もつれそうになった足を叱咤しレイウィス王女は2人に駆け寄る。


そして抱き起こすが、2人は既に事切れており身体は青白く冷たい。


それでもレイウィス王女は言葉を投げ続けた。


「イプロシグお父様!リエルお母様!目を覚まして下さい!!」


何度も名を呼び祈ったが・・・・2人が目覚める事はなかった。


「・・・・お父様・・・・お母様・・・・!!」


レイウィス王女は事切れた両親の胸に顔を埋めて泣いた。


突然すぎる両親の死を受け入れろと言う方が酷である。


しかし、事態は彼の王女を悲しませ続けさせなかった。


レイウィス王女は事切れている両親を暗殺した者を見た。


その者は青年だったが、身形からして・・・・貴族だ。


証拠として青年の手から離れた剣の鍔を見れば紋章が彫られているではないか。


『この紋章を持つ貴族は・・・・子爵!?』


レイウィス王女は直ぐに紋章の貴族を思い出すが、愕然とした。


何せ彼の子爵家の現当主---即ち事切れている青年は聖教を厚く信仰している。


何かある度に聖教の肩を持ち、自分や両親にも押し付けがましい持論を展開した事もある。


その度に叱咤あるいは説得したが、それをされる事に聖教に泣きついていた。


『今回は・・・・しゃれこうべ様をヴァエリエに来賓で招いた』


これに加えて国教にして力を削ごうとした王室の態度が子爵を駆り立てたのか?


いや後一手が欠けている。


後一手とは・・・・・・・・


「偉大にして聖なる神よ。この哀れな罪人の魂を御救い下さい・・・・・・・・」


背後から聖教が死者に捧げる祈りを聞いてレイウィス王女は鋭い眼差しを向けた。


祈りを捧げたのは大司教の服を纏い、神の威を借りた豚だった。


この豚だ。


目の前に立つ豚が子爵を誑かしイプロシグ王とリエル后を暗殺させた黒幕だ!!


「よくも、お父様と・・・・お母様を!?」


「何を言われるか・・・・そこの惨めな死体は愚王と后です。神に逆らった大罪人ですよ」


そして貴女は・・・・・・・・


「卑しい女の身で政を行い、あまつさえ淫らな術を用いて悪魔の手先を招き入れ己が両親を殺した大罪人」


親が親なら娘も娘だと豚は語り・・・・さぁっと手を掲げた。


すると中央貴族達が現れレイウィス王女を拘束する。


「は、放しなさい!私は貴方達の主人ですよ?!」


「申し訳ありません・・・・レイウィス王女」


「私達は聖教の臣下であります・・・・」


「国王夫妻は・・・・天罰で死んだのですっ」


「貴女様にも罰は下りますが、神は慈悲深いので命までは取らぬ・・・・と大司教様は言われました」


中央貴族達は口々にレイウィス王女に語り掛ける。


ところが誰一人としてレイウィス王女を見ようとしない。


それは罪悪感を抱いている証拠だが、臣下としては失格だ。


「貴方達!仮にもフォン・ベルト陛下に仕えた直参の子孫なのに王を貶める片棒を担ぐのですか?!」


『神の御前では王も跪きます・・・・・・・・』


中央貴族達は口を揃えて言うとレイウィス王女を引きずりながら何処かに向かう。


「放しなさい!お父様!お母様!!」


レイウィス王女は力いっぱい暴れたが、数人以上の男達が相手では歯が立たない。


あっという間にレイウィス王女は何処かに連れて行かれ、残されたのは豚と3体の死体だけだった。

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

「・・・・貴方のお陰で聖教は助かったよ」


豚は一匹になると事切れている子爵に話し掛けた。


「まさか、ここまで事が巧く運ぶとは思っていなかったが・・・・全て君の力だ」


事切れる子爵は黙して語らないが、それこそ豚には良かった。


もし先日の事が露見すれば間違いなく自分は殺されるからな。


何せ目の前の子爵に暗殺をやれと神の名を出して実行させた黒幕なのだ。


それを知るのは自分と子爵のみだが、子爵は見ての通り事切れている。


つまり死人に口なしだから自分さえ口を閉じていれば問題ない。


笑いが止まらないとはこの事だな・・・・・・・・


豚は思い切り高笑いしたくなったが、新たな中央貴族達が来たので笑みを消す。


「大司教様っ!御無事ですか?!」


中央貴族達は事切れている国王夫妻には眼も向けず豚の安否を尋ねた。


「大丈夫です。ただ、私を護る為に若者が一人死にました」


如何にもとばかりに豚は憐れみの眼差しを子爵に向ける。 


「・・・・死体を晒しましょう」


一人の中央貴族が口走ると他の中央貴族達も同意した。


これを豚は内心で計算通りと笑った。


今まで煮え湯を飲まされた報いを受けさせる好機と捉えたのだが・・・・それを止める者が現れた。


それはユニエール侯爵だった。


「馬鹿な真似は止めろ」


ユニエール侯爵の言葉に中央貴族達は眉を顰める。


「何故ですか?この2人は畏れ多くも神の都に悪魔の手先を入れた不届き者!!」


「そんな輩は晒し者にして後世に汚名を刻みつけるべきです!!」


「神も許可なさいます!!」


口々にユニエール侯爵に意見を叫ぶ中央貴族達とは対照的にユニエール侯爵は沈黙していた。


それは目の前の者達に下手な事を言えば殺されると理解していたからだ。


ならば奴らが黙るまで口を閉じようと判断したのであるが、これは正解だった。


中央貴族達はユニエール侯爵が沈黙しているので思いをぶちまけた。


しかし、ぶちまけると一気に静かになった。


「そなた等の言葉は理解できたが行えば・・・・9家は黙っていないぞ」


9家と言われた中央貴族達は一斉に顔を強ばらせた。


彼の貴族は自分達とは一線を引いており、その実力は計り知れない。


「加えて地方貴族達も黙っていない。あの者達の中にも聖教を信仰する者は居るが、我々が国王夫妻を晒し者にしたとしれば・・・・・・・・」


少なからず嫌悪感や警戒心を抱くだろう。


「隣国も同じだ。特にクリーズ皇国の現皇帝ジンバグレ様はイプロシグ王とも懇意にしておられた」


大切な友人を晒し者にしたと知れば・・・・きっと仇討ちに立ち上がるだろう。


そうなれば内政干渉する機会を自分達で与える事になる。


「それは避けなければならん。もし、やるなら相応の覚悟をせねばならんぞ」


何せ彼の皇国はフォン・ベルトの義弟が建国し、騎馬戦においては無類の強さを誇る。


「我々みたいな一部の特権階級者が乗る騎士の集まりではない。全員が騎馬に慣れている」


「で、ですが!彼の国の騎馬隊は草原のような開けた場所でこそ真価を発揮します!!」


この山国でならと尚も一人は食い下がるが・・・・・・・・


「それでも内政干渉の機会を与える口実には変わらない。その責任を貴様が取ると言うのなら・・・・好きにしろ」


ユニエール侯爵の冷たいが、現実的な言葉に・・・・その者も黙り、結局は折れる形となった。


では死体をどうするか・・・・振り出しに戻ったが、生憎と彼等の心配は見事に打ち砕かれた。


それは・・・・突如として白煙が彼等を包み込み、白煙が消えると国王夫妻の亡骸は綺麗に消えていたからである。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ