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幕間:白銀の女狐

四方を天然の山々に囲まれたサルバーナ王国は典型的な内陸国だった。


東西南北の四方の西を軸に王国は成り立っており、四方に散らばる地方貴族が領土を治めている。


ただし北とは東は西の地に築かれたヴァエリエに住む民草達は・・・・興味を示さない。


というのも東の地は王国を築いた初代国王フォン・ベルトが崩御すると瞬く間に朽ちた。


それも三方より山や谷が多く住むには向いていないからだ。


だから今も東の地は手付かずのままであり、今後も手は入らないと言われている。


何より聖教の教えに染まり切っているヴァエリエではフォン・ベルトの存在は・・・・認められていない。


ゆえに彼らの頭の中では東の地=辺境の辺境なのだ。


逆に北の地は地方貴族が居り、独自の文化も展開されるなどしたが・・・・民草達は嫌悪していた。


こちらはハガク・フォー・ナベシグ辺境伯爵が筆頭に見られているが、彼の者の先祖は当主の座には居なかった。


当主の義弟にして補佐役だったが、当主亡き後に一族から推挙され当主子息を押し退け・・・・当主になった変わり種だ。


これが聖教からは良く見られていない理由の一つだ。


聖教の教えでは当主に子息が居れば子息が跡を継ぐ教えを取っている。


つまりハガク・フォー・ナベシグ辺境伯爵は当主子息を蔑ろにしたと見られているのだ。


しかし、彼の地はサルバーナ王国に最後まで逆らい、そして血で血を洗う争いが耐えない土地柄だった。


ここを考えれば力なき前当主の子息より・・・・力ある義弟に当主になってもらおうと考える。


お陰で彼の地は他の貴族に攻められず、今の領土を治めるように王国から認められた。


ただし彼の辺境伯爵は敵対者を意味するフォーの名を王国から貰い、その上で聖教の土地を奪った過去がある。


もっとも聖教が治めていた土地は無く、王国と争っていた間ーーーどさくさに居座っただけだ。


それを彼の辺境伯爵は力で奪い返し、自領で怪しい行動を取るいかがわしい存在を排除したに過ぎない。 


これは他の地方貴族も同じだが、彼の辺境伯爵が他の地方貴族に比べ苛烈だっただけだ。


そして王国から敵対者と認識されているから「ちょうど良かった」に過ぎないのが真実である。


とはいえ・・・・それこそ敵対者の名を与えられたフォー・ナベシグ家の思惑とは知る由もあるまい。


何せ彼の家はフォン・ベルトの時代から仕えていた側近中の側近である9家からも高く評されている。


同時に他の地方貴族とは違う密命をフォン・ベルトより与えられているのだからな。


では、その密命とは何なのか?


ヴァエリエから遠く離れた北の地に答えはあるので行ってみるとしよう。


・・・・真紅の花を咥え九つの尾を持つ白銀の狐と共に。

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北の地は山国であるサルバーナ王国の領土だけあり、見渡せど山に囲まれていた。


ただし彼の地は岩山の類が多く、まるで島のような形の物がある事から民草達は山を「島」と称している。


そして岩山を建屋にするなどして暮らし、山野を駆けては動物を狩る生活を送っていた。


これをヴァエリエの者達は未だに文明の域に達していないと称するが、ヴァエリエの外ではない狩猟は当たり前だ。


タンパク質を得る為でもあり、山野を駆ける事で足腰を鍛え戦に備えるのだ。


それを理解できないのはヴァエリエという場所が極めて良い地形に在り、王都だからに他ならない。


王都だから人も物も自然と集まり苦労せずとも得られるのだ。


これすら理解できず他方を愚弄し、自分達が正しいと思う辺り・・・・聖教もヴァエリエも底が浅い。


浅すぎて見える程だ。


しかし、北の地はヴァエリエには比べられない程に底が深い。


それは彼の地を治める地方貴族の一人にして王室から敵対者の名を与えられ、今なお嫌悪を一心に背負うハガク・フォー・ナベシグ辺境伯爵の部屋を見れば・・・・解る。


「・・・・なるほど。そうですか」


ハガク・フォー・ナベシグ辺境伯爵は武骨ながらも座り心地が「そこそこ」良い椅子に座り、目の前で対峙するように座る女を見た。


女は白銀の長髪に陶器のような透き通った肌とは対照的に目立つ赤紫色の双眸で・・・・辺境伯爵を見る。


どちらも見た目の年齢以上に落ち着いており、貫禄もあるが、それは2人の立場を鑑みれば当然だった。


何せ女の身分は側近中の側近である9家の1家ながらも距離を置かれ、そして性別で中央貴族から蔑まされている。


ハガク・フォー・ナベシグ辺境伯爵の方は初代当主が間接的に前当主の子息から・・・・当主の座を奪った過去がある。


その上で王室から敵対者の名を与えられた。


つまり・・・・どちらも本来なら味方の筈である同胞からも忌み嫌われているのだ。


もっとも・・・・それは表向きであり、本当は唯一の主人---即ち国王から信頼されている。


要は似た者同士なのだ。


「お話は解りました。イガルゲ侯爵様」


ハガク・フォー・ナベシグ辺境伯爵は剃り落ちた頬と一文字に伸びた唇を動かし、目の前に座る9家の1家当主のイガルゲ侯爵に言った。


「やはり、あの醜悪な豚と陪臣の陪臣共は・・・・謀叛を考えていますか」


「えぇ。あの者達にとって王室は都合の良い傀儡でなくてはなりません」


だから・・・・・・・・


「イファグ王子を国王にし、レイウィス王女とエルナー王女は・・・・慰み物にする腹ですか?」


「ただ、その前に邪魔なイプロシグ王とリエル后を亡き者にするらしいですわ」


イガルゲ侯爵の淡々とした説明にハガク・フォー・ナベシグ辺境伯爵は眉間を痙攣させた。


「誠に・・・・聖教は変わりませんな。王国が建国されてから何も変わらない」


「宗教に進化を求めても無意味ですわ。まだ、彼の宗教が世に産声を上げてから数百年ですもの」


この程度の年月では進化しないのが組織であり団体だ。


いや時を経るほど硬化する。


その硬化した組織または団体を変えるには荒っぽい事をするしかない。


しかも内部からやるのが望ましい。


ただ生憎とイガルゲ侯爵は聖教から出て来るとは思えなかった・・・・・・・・


少なくとも後1000年は掛かると見ていた。


「では我々が?」


「そうです。イプロシグ王も・・・・考えております」


イガルゲ侯爵は懐から丸まれた手紙を取り出すとハガク・フォー・ナベシグ辺境伯爵に渡した。


それを広げてみると以下の言葉が掛かれていた。


『万が一・・・・王国に危機が迫った時はフォン・ベルト陛下が与えた密命を遂行せよ』


「・・・・やはりイプロシグ王はフォン・ベルト陛下の血を継いでおられますな」


この地に来た時と何ら変わらぬ実直な気が文字の端から端まで出ている。


そうハガク・フォー・ナベシグ辺境伯爵は言い、手紙を破り底が深い皿に放り込んだ。


そして懐から細長く先っぽが凸になった代物をくわえると火を点けた。


かなり年季が入っているのか、痛んでいたが細長い部分には文字が彫られていた。


「忠臣中の忠臣ハガク・フォー・ナベシグ辺境伯爵・・・・イプロシグ王が与えた物でしたか」


イガルゲ侯爵が文字を読むとハガク・フォー・ナベシグ辺境伯爵は笑った。


悪人面だが、その時の笑みは誇らし気だった。


「まだ御幼少の頃に・・・・しかし、これを差し出した時は、誠に国王の才覚を見せておりましたよ」


「でしたら資料が来るまで話してもらえませんか?」


「良いですとも。年老いた頑固爺の惚気話になりますが」


そう言ってハガク・フォー・ナベシグ辺境伯爵は話し始めた。


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