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第一章:動き出した影

大雨が降り注ぐ森林の中を一人の騎士らしき人物が駆けていた。

 

その騎士は30代くらいで黒髪に濃紺の双眸と青白い肌を宿し、泥や錆で汚れた粗末な鎧を着ている。


見る限り特定の主人を持たず戦が起きた時に参加する傭兵騎士---逸れ騎士の類だろう。


この如何にもな渾名は彼等自身が名付けたとされている。


自分達は唯一の主人を見つけるまで特定の主人は持たないが人手が欲しい戦の折りは参加しよう。


つまり食いっぱぐれたが騎士の誇りはあるという皮肉なのだ。


恐らく何かを気にしながら走る騎士も似たような感じと見受けられたが・・・・背中のマントに誰かを繰るんでいるのが確認できた。


まさか、とうとう人攫いにも手を出したのか?


もし、そうなら騎士に非ず。


護るべき貴婦人等にも手を出せば・・・・その時点で仲間内からも嫌悪されるのだからな。


ところが騎士の口からは思わぬ言葉が出て来た。


「お寒いでしょうが暫し我慢して下さい。我が主---国王陛下様」


騎士はマントで雨風を防いでいる人物を気遣うように小声で告げる。


しかし、強い風が吹いてマントが翻った。


それによりボロ雑巾みたいなマントに隠れていた人物の姿が露わになる。


その人物は周囲を山々に囲まれた天然要塞として名高いサルバーナ王国第5代目国王である・・・・・レイウィス・バリサグその人だった。


レイウィス---強き者という名から男と思われているが正真正銘の御年18歳の王女である。


とはいえ何故に王女に男子の名で広く使われているレイウィスなのか?


そこを少し説明しよう。


レイウィス王女の父である第4代目国王であったイプロシグ王は王妃との間に3人の子を儲けた。


第一子がレイウィス王女で、その次に第一王子であるイファグ、そして第二王女のエルナーだがイファグ第一王子は生まれ付き病弱だった。


そのため成人になるか危ぶまれたのである。


これを危惧したイプロシグ王はレイウィス王女を王子として扱い危機を乗り越えようとした。


つまりレイウィス王女を男として育てイファグ王子が亡くなれば王となり、もし無事に成人となれば王女に戻す。


要は「繋ぎ役」としてレイウィス王女は男として育てられる事になったが、レイウィス王女も父の気持ちに応えたかったのか・・・・この歳で乗馬を始め武芸も一通り嗜んでいる。


おまけに政治手腕も英才教育をシッカリと受けた為か、実に非凡の才能を持っていると周囲から太鼓判を押されている程だ。


しかし、国王になれるのは男子のみ。


そのためイファグ王子が無事に成人となれば如何に才能があろうと・・・・・・レイウィス王女は退く事に決まっている。


誠に・・・・・何とも酷い話だ。


性別で王の座が決められ器は関係ないのだからな。


こういう物ほど国として大きな痛手はないが、それをイプロシグ王は解っていないのか?


もし解っていないのなら・・・・・・・・


・・・・・・話が脱線しそうなので戻そう。


現在、何故にレイウィス王女たる女子が逸れ騎士たる男に背負われているのか?


それは今から20日ほど前に遡るが先ずはサルバーナ王国という一国と、周辺国などについて語るとしよう。

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最初にサルバーナ王国について説明する。


この国を建国したのは初代国王であらせられた「フォン・ベルト」なる人物と言われている。


しかし、彼に関する書物の類は殆ど遺されていない。


ただ、彼の王がサルバーナ王国を建国し、最初の王都を東の地ヴァイガーに築いたというのは確かだ。


その王の息子---つまり2代目国王であるフォーエム王がヴァイガーを出て、更に内陸へと進み現王都であるヴァエリエを築いたとされている。


そしてフォーエム王の息子---つまり3代目国王プログレズが父であるフォーエムが併合した地を・・・・現在のサルバーナ王国の領土に確立したと言われている。


つまり建国は初代、そして2代目が拡張し、3代目で確立したのである。


ここから初代から3代目までを「3匹の獅子王」と称しているが、フォン・ベルトなる人物が本当に居るのか疑問視される面もあり・・・・・今では2代目から数えている節もあるが。


では次に隣国について説明しよう。


サルバーナ王国は天然要塞として名高く周囲を険しい山々と渓谷等に囲まれており攻めるのは至難であるが、そんな王国は陸続きで2ヶ国の隣国と接している。


先ず草の国と言われるクリーズ皇国。


この国は異名の通り草原が何処までも広がっており牧畜が極めて盛んな国として知られているが、建国者はフォン・ベルトの弟が建国したと言われている。


つまり2ヶ国は「兄弟国」とも言えるのだ。


そしてもう1国は砂の国と言われるアガリスタ共和国。


こちらはブライズン教なる宗教の教祖であるムザーが建国した国とされており、クリーズ皇国とは違い国土の8割近くが砂漠地帯で知られている。


この2ヶ国とサルバーナ王国は陸続きで接しているので戦になれば大事だが、渓谷等が行く手を阻んでいるから傍から見れば国家は安泰と思うだろう。


しかし・・・・・・決して安泰ではない。


ある古代の武将は以下の言葉を残した。


『どんな大国も長期に渡り安泰は維持できない。それは内部に敵が出来るからだ。

 人間で例えるなら頑強な肉体は如何なる攻撃も寄せ付けないが、内部を犯されては一溜まりもない。

 これは内部疾患に非常に似ている・・・・・・』


このような言葉を残した古代の武将が祖国は戦いに敗れ滅び去った。


しかし、彼の国を破った国は戦いにこそ勝利したが、その後は国内に出来た敵により内部を蝕まれ混乱時代になったと言われている。


正に言い得て妙とは言ったものだ。


これをサルバーナ王国に例えると頑強な肉体とは即ち周辺の山や渓谷である。


つまり山や渓谷によって外敵からは身を護れるが、その内部---即ち国内に敵は出来る。


現に・・・・・既に国内には敵が居た。


それは古今東西を問わず為政者が頭を悩ます存在である宗教組織だ。


もっとも2ヶ国も同じような敵を国内に宿しているが、今回はサルバーナ王国について語るとしよう。


サルバーナ王国には「聖教」なる宗教が在る。


何時、何処で、誰が起こしたのか?


その正確な情報は判らないが、著者の調べではフォン・ベルト陛下がサルバーナ王国を建国したと同時に産声を上げたのではないかと思われる。


ただし、あくまでも著者の推測である事を留意してもらいたいが、一神教という事と瞬く間に信者を大量に集めたのは確かである。


この宗教の教えは平たく言えば唯一絶対の神を祈り、他者と平和を愛する事だ。


この点に関して言えば他の宗教と何ら変わらず人々を正しい道へ誘う・・・・という宗教の本筋から外れていない。


しかし、どの宗教にもある問題と言えるのか・・・・自分達の信じる神こそ本物と思い、他宗教を排除せんとする者が居た。


俗に言う「過激派」なる奴等だが、その手の奴等は大抵が同宗からも異端視されている。


だが、その過激派に・・・・・聖教の長とも言える大司教が居るとなれば話は別だ。


悪い事にレイウィス王女の生存前から聖教には過激派が存在しており・・・・・最悪にも時の大司教は過激派に属していたのである。


ここが上記に書いたイプロシグ王がレイウィス王女を正式に跡継ぎとしてではなく、あくまで繋ぎ役として育てた理由である。


というのも聖教で女性は高い地位に向かないと説いており、それを推し進める動きが当時は見受けられた。


つまり・・・・レイウィス王女を聖教の手から護る意味もあったのである。


しかし、聖教は繋ぎ役も認めないのか・・・・ある動きを始めた。


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