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第十四章:髑髏と獅子3

大刀に手を掛けた髑髏の騎士はスラリと白刃を鞘から抜いた。


「居合を心得ているのではないのかな?」


フォルグ大公が大剣を再び頭上高く構えながら問い掛けた。


「私---俺の術は抜刀術です。座った状態はかじった程度ですよ」


「なるほど。では・・・・・どう出る?」


「こう出ます」


私から俺と名乗り素を出し始めた髑髏の騎士は切っ先をフォルグ大公の胸辺りに向けた。


つまり白刃を真っ直ぐに己が臍辺りの高さに構え左右に揺らし始める。


「・・・・・・・・」


これを見てフォルグ大公は眼を細めた。


何故なら切っ先が左右に揺れ動いているのでどちらから来るのか分からないからだ。


また臍辺りで真っ直ぐに構えたのも防御に徹した証だった。


『鶺鴒の尾の如く・・・・・・・・味な真似を』


心中でフォルグ大公は髑髏の騎士の行動に舌打ちした。


この鶺鴒の尾の如くとは書いた字の如く切っ先を左右に揺らし相手を誤魔化す技だ。


とはいえフォン・ベルトの言葉によれば「小手先の技」でしかない。


臍辺りで真っ直ぐに構えるのも防御向きだし、あれでは振り上げなくてはならない。


それでもやるとすれば小手を狙い押し切るか、突きを繰り出すか、だ。


しかし、髑髏の騎士がやる訳ないとフォルグ大公は確信していた。


『この男は、私の背後に居るレイウィス王女の為にしている』


背後から来る視線の中には心配そうな視線だったが、彼の騎士が気にしているのはレイウィス王女だけだ。


それは長年の洞察力で分かったが・・・・・・・・


『生憎と私の血が高ぶった。悪いが、本気でやってもらうぞ』


フォルグ大公は大剣を頭上から右脇にやり片足を前に出した。


一見すると突きを繰り出すように見えるが切っ先は水平にされている。


つまり・・・・・・・・左右どちらに逃げても攻撃できる訳だ。


これに対して髑髏の騎士は臍辺りに構えた剣を更に上にやり右顔部に構えた。


自分の目の高さに刃を水平にして構え切っ先はフォルグ大公の眼を狙っており、やはり真っ直ぐに伸びている。


ただし、肘は締まっていて微動だに動かない。


『あの構えは・・・・・・・・』


レイウィス王女は髑髏の騎士の構えに見覚えがあったのか、視線を無理やり9家の一人に向ける。


その視線に気付いた一人はレイウィス王女を薄紫色の双眸で見つめ返す。


ゾクッ・・・・・・・・・


ただ見つめられただけなのにレイウィス王女は寒気を覚えた。


何せ女のレイウィス王女から見ても・・・・・その女は妖艶な色気を出していたのだからな。


「あの構えを覚えておいで、だったのですか?」


女は興味深そうな口調で問いを投げてきたが、レイウィス王女は鼻を擽る淡い香水の匂いに酔いそうだった。


「え、えぇ、覚えております。何せ・・・・・・貴女の遠い先祖は、あの構えをフォン・ベルト陛下から直々に伝授されたのですよね?」


イガルゲ女侯爵・・・・・・・・・・


レイウィス王女は淡い香水を纏い、妖艶な色気を惜し気もなく醸し出す女の苗字と爵位を言い問い掛ける。


しかし、内心では苦手意識を隠すのに必死だった。


この白銀の長髪と雪みたいに白い肌を持ち、赤紫色の双眸を宿す妖艶な女はイガルゲと言い、9家の中で唯一の女当主である。


そしてレイウィス王女を始めとした王室とも・・・・・・血が繋がっている身だ。


というのも初代国王であるフォン・ベルトの寵愛を受けた上で子を身籠ったからに他ならない。


今も王室の男子と関係を持ち、血脈を絶やさないようにしているとさえ実しやかに囁かれている。


いや、この手の醜聞な噂の類は必ず貴族なら誰もが持つ。


ただ・・・・その中には父であるイプロシグ王も含まれているからレイウィス王女としては気が気でない。


王族として血筋を絶やさないのは絶対条件であるが、やはり愛する者には自分だけをと・・・・・年頃故か考えてしまう。


ただ、あろうことかリエナ后の信任も厚く自分の夜伽教育でもあるから否応なく接する。


これがレイウィス王女にとっては多大な精神的疲労を与えているのだが、あの妖艶な雰囲気と何処か退廃的で厭世主義的な性格が今も苦手だった。


今だってそうだ。


大きな扇を取り出したと思えば何をする訳でもないのに弄び、それを弄りながら見つめてくる。


およそ臣下の態度ではないが、歳も離れ浮世離れもした姉的な存在でも・・・・・あるから何とも。


「その御様子ですと・・・・・髑髏の騎士様が勝つか、不安なのですね?」


「・・・・・だって、フォルグ大公は、強いではありませんか」


フォルグ大公は王国でも指折りの剣士でもあり、優れた戦人でもある。


故に生半可な相手では勝つどころか手傷すら負わせられない。


そんなフォルグ大公が本気を出した事を示す、あの構えをした・・・・・・・・・・・


『幾ら刺客達を倒した、しゃれこうべ様でも・・・・・・・・・』


「大丈夫ですわ。王女様」


イガルゲ侯爵は妖艶な笑みを消し、安堵させるような笑みを浮かべた。


「あの騎士はフォルグ大公に勝ちます。いえ、相打ちに持ち越します」


相打ち・・・・・・・・・


「それでも傷つく事に・・・・・・・・・」


「なりましょう。ですが、そういう所も利用してこそ女ですわよ?」


意味あり気な言葉だが、それの意味がレイウィス王女には解った。


リエル后もイプロシグ王と・・・・・そうやって愛を育んだのは、耳に胼胝が出来るほど聞かされたからだ。


「お解り頂けて幸いです。ただ、もう少し言わせてもらえるなら・・・・・宜しいでしょうか?」


イガルゲ侯爵は扇を半分ほど広げてレイウィス王女に問い掛ける。


これを彼女がやるという事は男には聞かせたくない話だ。


「良いでしょう。来て下さい」


レイウィス王女はイガルゲ侯爵の問い掛けに頷いて傍に引き寄せる。


「女は魔性の者と言われております。その側面は確かにあります」


男を虜にし生かす事も殺す事も出来るのだからな。


「それを私の遠い先祖は行い、フォン・ベルト陛下を助けました」


確かにイガルゲ侯爵の言う通りだとレイウィス王女は肯定した。


フォン・ベルトの寵愛を受け子まで儲けた初代イガルゲ侯爵は元山賊の頭だった。


しかし、類い希なる美貌と妖術で近隣の村などを襲い討伐隊も返り討ちにしたらしい。


そこにフォン・ベルトが現れ彼の女狐は恋をし、盟約を結んでいた兄弟山賊を・・・・・寝首を掻き切った。


その前に兄弟山賊の仲を裂くなどしたらしいから女の嫌な所をやってのけたらしい。


こんな芸当を何度もやったから初代イガルゲ侯爵の覚えはフォン・ベルト以外からは最悪だった。


「ですが、フォン・ベルト陛下は高く評価し領土を与えたのです・・・・・赤い葉が咲く場所まで」


またしても意味あり気な言葉を口にしたが、そこには触れず・・・・・こう言った。


「自分の為に戦う殿方が居る・・・・・ここを女として誇りに思い、悦に浸る位の気持ちは持って下さい」


女というだけで蔑まされたり、侮られたりするのが世の中・・・・・・・・・


「それにメゲて泣けば更に侮られてしまいます。そうなれば自身はおろか・・・・家臣も可哀想です」


ならば・・・・・・・・・


「常に誇り高く、そして悦に浸る位の余裕を持ち相手に見せ付けるのです」


女が高い贅を凝らして着るドレス等は、その為にあるのだ。


「それを着て美しく化粧する事で殿方に軽い皮肉と挑発を投げれば最高です」


「でも内心では相手の心中を読み取り、手玉に取る訳・・・・ですね?」


イガルゲ侯爵の言葉に付け足し---大事な所をレイウィス王女は言った。


「その通りです。これさえ出来れば生涯を独り身で過ごしても大丈夫ですわ」


「・・・・・・・・・」


イガルゲ侯爵が何で女の身でありながら侯爵になれたのか、そしてフォン・ベルトの寵愛を先祖が受けたのか何となく・・・・・レイウィス王女は理解できた。


しかし、会話は、そこで終わった。


何故ならフォルグ大公と髑髏の騎士が・・・・・互いの撃剣の間合いに入ったからだ。


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