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「お前、いったい何がしたいんだ?」
ケンジの問い掛けに、ボサボサの髪をかき上げるヨキは、正直にその真意を話し始めた。
「彼、等の、世界は……」
しゃべり方が面倒くさいので、要約する。
世界は、死にかけていた。学者の諸説はあるが、そのどれもが定かではなく、その理由は明らかではないが、徐々に空間が消失していくのだ。街も、木も、人も、空も、国も。
消えていく世界から逃げ出す。彼等の選択肢はそれしかなかった。
実験的に異世界への扉が開かれ、こちらの世界へ人を送った。移住できる世界かどうか調べるためだ。
しかし、大きな問題が一つ。世界と世界の間を移動する過程で、肉体を持ってはいけないということだ。精神のみが、『消えゆく世界』から抜け出せる。
すなわち、こちらの世界に来ても、肉体が無いのだ。
ここで、『消えゆく世界』の住人は二手に分かれることにした。
一方は、とにかく精神のみでもこちらの世界に来て、そこで解決策を考よう、とする人々。
もう一方は、なんとか別の移動方法を見つけ出し、その肉体ごと異世界に到達しようとする者。
前者は、この世を彷徨ううち、一人の科学者に出会い、肉体を得ることに成功する。それがアンドロイドの起源だ。
後者は、ついに肉体を持ったままこの世界に発現する方法を得、この世界に至る。こちらが、ケンジ達が怪物と呼んでいる人々だった。
ただし、この方法は、相手世界で生け贄が必要だった。しかも、もう一つ大きな制約があった。
「そ、そんな……僕たちが、彼等と同じだって事か。実際。でたらめだろ」
陰気な男から語られる世界の真実を聞き、驚愕の色を隠せないレイジ。それは、他の面々も同じようで、青ざめた顔でヨキの言葉の続きを待っている。
「そう、だな、元は同じ、世界の出身。しかし、お前達、この世界に肉体を、得た時に、それまでの、記憶、を無くしている。それ、は、そういう契約、をしたから」
この世界で始めて肉体を持ったアンドロイドは、それと引き替えに、以前の記憶を無くす。
もう一方の者達も協力者を得、この世界に顕現する事が叶う。肉体を継承しつつこの世界に到達する事ができるようになったのだ。
彼等は当然、『人間』とは異なる容姿、言語を持つ。
そして、さらに、多くの仲間をこちらの世界に移す為には、生きた『人間』が生け贄として必要になる。
このままでは、到底こちら側で受けいれられることは出来ない。そう悟った彼等は、人間と棲み分けする事を考えるようになる。
一つの木の苗を植えたのだ。
向こうの世界でも、特殊なその『樹』は、この世界でも文字通りあっという間に成長し、街を呑み込んだ。呑み込んだらその分肥大化し、さらに大きくなった。
記憶も肉体も以前の世界のままだが、彼等はこの『樹』の庇護なくしては生きられなくなってしまったのだ。
『樹』の中に取り残された人間は、仲間を連れてくる為の生け贄となった。ヨキは彼等の仮のリーダーと怪物共の首領の二重生活を送っていたのだ。
彼の立てた生産計画に則り都合よく怪物を世に送り出す為だ。
そうして、バランスを取ってその数と領土広げて行き今に至る。
「『樹』が生まれた訳は分かった、だが、お前の目的はまだ聞いてないぞ。いったい、何を考えている。お前は俺たちと同じアンドロイドだろ?」
怪物は異世界の言語を話す。レイシェルはケンジと同じだと、言っていた。彼も元はアンドロイドで、あの光を浴びて怪人となったのだろう。そんな例外を除けば、見た目に不審な点のないヨキは恐らくアンドロイドだろう。
「わた、しの目的、それは、ここに彼等の、国を作ること。そして、それを、私自身が、王に、なって経営、すること。楽、しいが、これで、難、しいん、だぞ」
「ゲーム感覚って事か、ふざけやがって」
遊びに似た心情で世界を弄んでいる彼に、ケンジのみならず、その場の全員が義憤にいきり立つ。
「それじゃあなぜ、シャルリエを必要としたんだい?」
リコは彼女がアンドロイドの始祖だと感付いたようだ。
「私には、資格、が、ない、からだ」
なんの資格だ、と問うが、彼は不敵に嗤うのみで答える気はさらさらないようだ。
「世界中に開こうとする扉を一つに統合したのは、『樹』が世界中に乱立してしまったら、自分一人で統制できなくなからだな」
ヨキの目論みを看破したのはリコだった。
「そう、だが、もう一つ、世界の危機を、救う、為でもある」
この『樹』がいくつも現れれば、確かに世界は怪物共に破滅させられていたかもしれない。
「嘘だ。お前がやったことは、一時、世界を救ったかもしれない、でも、今お前がしている事は許せることじゃない。それに、最後にはこの『樹』は世界を覆い尽くすんだろ? なら、結局この世は怪物の世界になるってことじゃねえか」
「だったら、どう、する。俺を殺す、の、か?」
そう言っていやらしく口を歪めると、シャルリエを捕まえて部屋の中央に向かって押し込んだ。そこには、これから異界の光に焼かれてしまう人々がいる。
「ヨキ、何するのよ。……放して、このぉ」
シャルリエは逃げだそうともがくが、何か暗示でもかけられているのか、人々に捕まれてしまっていた。
「さあ、どう、する?」
ケンジに向き直ったヨキは顔に不気味な笑顔をはりつけたまま、彼等に二択を迫る。
『根海』には幾万もの人間が殺到し、この『幹』も完全包囲されたことだろう。彼の計画はもはや大方頓挫したと言ってよいだろう。ここまで来ると、破れかぶれである。
「私を、殺し、世界を破滅、させるか、我が、『国民』と、なるか。ただし、私が、死ぬ、ときは、彼女も、道連れ、になる」




