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「さて、何からぶっ壊すんだ?」
ポキポキと不敵に指を鳴らしてリコに許可を求める。
「待って、まだ勝手に壊さないで。少し解析してみる」
ゴチャゴチャと配線が床を伝う部屋。壁際には数台の機械が並んでいる。
「こんな機械を使うなんて、見かけ通りのただの怪物の群れではなさそうだね、実際」
さすがにもう服を着ているレイジが部屋の中を見回して感心している。
テーブルにはパソコンが数台、壁にはモニターが一面に並んでいる。コピー機やファッククスまである。まるで厳戒な警備を敷いた施設の管理室のようだ。小規模な軍司令室のようでもある。
こうしたオフィス機器自体はそこらの廃墟に売るほどあるのだが、この怪物共の本拠と見られる『樹』の幹にあるのは予想外だった。
「くぅ~、や~るねえ、彼等も。な~んせ、リコっちときたら、機械はちんぷんかんぷんだからね」
マールはしてやられた、という顔で悔しがっている。おつむで怪物達に負けてしまった。
「ここは、やっぱり彼等の司令室みたい。今回の作戦内容をプリントしていた形跡がある。でも、これ、日本語じゃない。というより、世界中のどこにもこんな言語はない」
と、机に置かれたパソコンを調べていたリコ。
「ほんとかい?」
レイジが後ろから声をかける。
「僕は間違えない」
お決まりの台詞。少し不機嫌になった声色にレイジはたじろぐ。
「え、気に障ったかい。ごめんよ、実際」
すこぶる情けない。
「いいよ……ん、ここからリモートしているパソコンが一台あるみたいだ」
「それを持っている奴が親玉って事かい?」
「分からない、でもここでアクセスした事は知られたかもしれない」
マールとゴウも聞いてはいたが、二人が何をいっているのか分からないので、遊んでいることにしたようだ。分かりもしないのに空いているパソコンを起動させている。
壁のモニターが一斉に光を持った。
「なんだ、急に光ったぞ」
「すごーっ、ゴウ君、何したの今、何何、マールッちにも教えてくれ~」
遊んでいるうちにモニターの電源を入れたようだ。
そこには、今、『根海』で行われている戦闘の様子が映し出されている。
戦況は依然として、膠着しているようだ。
軍は一時の混乱からは立ち直ったものの、怪物の樹の根を利用したゲリラ戦術に苦戦している。
「マールッちだってこんなの見つけたも~ん」
そう言って、彼女は四角いマイクのようなものを取り出す。
「ワッ」
マイクに向かって一言。何がしたいのだろう。
「マイクじゃないのか~、カラオケセットかと思ったのに~。つまんねい~」
ポイっと、それを投げ出した。
「コラ、君たち、勝手に弄くるんじゃないよ、実際」
しかし、その様子を見ていたリコがあることに、気が付いた。
「マール、もう一度、やってみて」
「え、う、うん、わっ、……何か分かった?」
もう、マイクには興味を失ってしまったようで、つまらなそうにマールが尋ねる。
「マールの言葉に怪物達が反応しているみたい」
「えっ、ほんと?」
「お、俺もやるぞ」
「コラ、止めたまえ」
「なんだ、お前もやりたいのか?」
変わりばんこに発声しては、キャッキャとはしゃいでいる。
大きなモニターをジッと見ていたリコは再びパソコンに向かい、何かを調べだした。
「何をする気だい?」
レイジの問いかけは無視された。というより、彼女の耳には入らなかったようだ。一心不乱に思考に没頭している。
「ね~、リコちん~。まだここになくちゃなんない?マールッち、飽きたよ~」
机に座り込んでだらしない格好になっているのは、ひとしきり遊んだマールとゴウ。
「ちょっとは、落ち着きたまえよ、君たち。リコさんが考え事をしているぞ。まあ、僕としては、その姿を眺めているだけで、心が満たされるんだがね。素敵な時間、ありがとう」
リコは彼等の行動も無視し、一心不乱に手元のモニターを凝視し、キーボードを叩いていたが、やがて何かをひらめいた様子で呼びかける。
「わかった、マール、そのマイクで、『$%(#=&』と言ってみて」
「え、『$%(#=&』、なにそれ?」
マイクに繋がってるコードで遊んでいたマールは言われたままをマイクで放送する。
部屋の扉が乱暴に開かれる。
「:(’%$#==%$」
リコがマールにマイクで話させたのと似たような言葉で何やらわめき上げる怪物が乱入してきた。
さすがに軍人である、だらけていたマール、ゴウは反応し、先頭の一体を迎え撃つ。
入り口は二つ、もう一方からも怪物が雪崩れ込んでくる。
レイジ、マールが向かう。
廊下にも怪物は、犇めいていて、総数は不明。
「こんな時になんだけど、リコ君、さっき、マール君に何をさせていたんだい?」
鉄の棒を振り回す怪物の腕を切り落としてレイジ。
「怪物達に『撤退』しろ、と命令したんだ。これで前線は有利に戦えるはず」
「おお、それは、よくあの短時間で怪物達の言語を理解できたね。やっぱり君は素晴らしいよ、実際」
「解読したのは、私じゃない。誰かが翻訳していたんだ。そのデータが残っていたから、そこから文字を探し出して、発声の仕方を理解しただけ」
「でも、怪物が撤退してきたら、今度はこっちにもっと集まってくるんじゃないかい。実際?」
確かに、自分達の身がさらに危険になる訳だ。
「それはないよ。リーダーがまた、あらたに命令を伝えればいいだけだからね。ただ、一瞬、怪物は混乱に陥る。そこをうまく突いてくれればいいんだけど」
壊れたラジカセが頭部についた怪人が木でできた槍を突き出してくる。かわして反対に突き返す。
胸を貫通した槍は、それを握ったまま倒れようとするラジカセ怪人に持って行かれてしまった。
そこを狙った別の怪人の攻撃は、レイジに阻まれる。
『幹』の外で出会った怪人達に比べると弱い。が、数が多くてきりがない。このままでは、遠からずこちらが力尽きることになる。
「マール、一分、そっちの扉を閉められるかな?」
ラジカセ怪人の身体から引き抜いた槍で、次の相手に正対するリコ。
「うん、やってみるよ」
さすがの彼女にも余裕は感じられない。あまり自身はないようだ。
「マールが扉を閉めたら、ゴウはこっちに」
「お、おう」
マールの方を心配そうに顧みて返事を返す。
「何をする気なんだい?」
「一点突破。ここで戦っても勝機はない。逃げよう」
と、言ってもこれは賭けだった。こちらから来る来る敵があちらより少ないかどうかは分からない。マールが持ちこたえられるかどうかも微妙だろう。
三人で打開できないほど、こちらの敵が多くてもアウト。最悪、彼女だけが逃げ遅れてしまう可能性もある。分の悪い賭け。
しかし、彼女の状況分析は、この手しか出せなかった。考え得る一番生き残る可能性の高い作戦。
「じゃあ、行くよ」
マールは、自分が一番危険な仕事をする事を理解していた。そして、リコが間違った作戦を立てない事も信じていた。
例えそれで、自分が犠牲になるとしても。
「ああ、お願い」
ここに、ケンジがいたら、どうしたであろう。レイジを除く三人はここにはいない彼を思った。




