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喉が潤うと俺は、少し元気を取り戻した。
気が付いたのは、二日前に倒れたあの部屋だった。その時と変わらず。真っ暗だった。
疲労の極みにあり、手足は痺れてどうにもならなかったが、横になっていたせいか、いくらか回復したようだ。
なんとか座れるようになった。
「君は誰?」
隣に同じく座っている誰かに尋ねた。
「私?私は…………、王……女?」
王女。世界には、王国がある。従って王女はいても不思議はない。だが、こんなところには多分来ない。
「王女。どこの国の王女?」
「う~ん、よく知らないわ。私、記憶喪失なの」
記憶がないのに、自分のことを王女だと言うのは、ずいぶん前向きな記憶喪失だ。
「なんで、王女かって思ってるわよね? 私に使えていた執事っていうのがそう言っていたの。それ以外の事は、自分の名前も知らないわ。昨日、気が付いたら、ここにいたの」
「ふーん、そうか、災難だったな。俺はケンジ。自衛軍の軍人だ」
それを聞いて、後じさる王女。
「て、敵?」
「て、敵が来たのか、どこだ?」
「そうじゃあ、なくて、あなたが敵…………じゃないの?」
「……?、……ああ、そうか、俺、オオカミだもんな。怪物だもんな、敵だよな」
会話がかみ合ってない?
そこへ、暗黒に光明が差した。と、言っても、ライトを持った者が入ってきたというだけの事だったが。大型の懐中電灯を持った怪物が二体現れた。
意味不明な言語でこちらに呼びかけているようだ。
「くっ、現れやがったか」
ケンジは残った力を振り絞って立ち上がると、まだこちらを知覚できていない怪物に飛びかかった。
怪物の方では、こんな所に敵がいるなどとは思ってもみなかっただろう。気持ちは弛みきっていたようで、それぞれ一撃で昏倒させる。
「な、なに、やっぱり敵じゃない。この嘘つき」
ケンジは一言も味方だとは言っていない。王女は自分の国民を有無も言わせず、殴り倒したケンジに警戒の眼を向けている。距離を置こうと逃げ出すが、その途中で、コップを踏んで転んでしまう。
「い、いや、違う。俺はこんな姿だけど人間で……」
彼女が自分を怖れている理由が全く掴めない。その姿は怪物達のライトにはっきりと照らし出されている。
「あなた、『人間』……、なの?」
「俺の姿が人間に見えるのか?」
床に転がった懐中電灯を拾う。ドジな少女の足下を照らす為にそちらに明かりをかざしてやる。
「まさか…………、シャルリエ……か」
そこには、シャルリエがいた。
ここに這ってでも来たかった理由がそこにいた。




