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「あなた、大丈夫?」
ずいぶん遠くで誰かの声が聞こえる。
天使か。ついにお迎えが来たようだ。
朝から何も食べていなかったので、腹も減っていたが、喉の渇きの方が深刻だった。粘膜が乾いて張り付いてしまっている。ただでさえ、体質が変わって発声が困難なのだ、しゃべりにくいことこの上ない。
天使は俺の足を踏んづけていた。ドジな天使なんだな。
水を所望すると、彼女はどこかへ駆けていってしまった。天使なら魔法とかなんかで、出しそうなものだが。
しばらく待つと、彼女が戻って来たようだ。
この世で最期の願いを叶えてくれたのだな。
天使はコップを手に寄ってくると、また俺の足を踏んだ。その拍子に手から離れたコップは地面に落ちて粉々になってしまう。当然入っていた水もこぼれて、冷たい石床に水たまりをを作る。本当にドジな天使さんだ。
恥ずかしそうに頭を掻くと、
「ここ、暗すぎるのよ。待ってて、今度こそあなたにお水を飲ませてあげるから」
ビシッと人差し指を突きつけて去っていった。何もない地面に。
その声はどこか懐かしいものに思えた。




