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『樹』の中を一通り探索したら、また暇になっちゃった。
最後に行き着いたのはここ。
薄暗い部屋。なんだか、気になる部屋。
なんにも置いてないのに、変な圧迫感を感じるのはなんでかしら。そして、どこか懐かしい気持ちになるの。そんな不思議な部屋。
扉を開けると、真っ暗だった空間に僅かな明かりが差し込む。
そこに見えるのは、プカプカと天井辺りに浮いている黒くて大きな石。それだけ。あとは、地面に見たこともないヘンテコな絵が描いてあるの。
私はここにいた。昨日のお昼過ぎだったわね。その時は、暗くて不気味で変な臭いもするし、この部屋が嫌いだった。
今でも好きにはなれないけど。ここには来ないでおこうと思ったのに、来てしまった。嫌なのに無視できない、そんな場所。
黒い石は、何かで吊っている訳でもないのに、宙に浮かんでいる。
「あれは、世界の扉ですのう」
あれは何かと尋ねた、レイシェルの返答はこうだったわ。彼はこうも言ってた。
「ワシや国民は、ここで生まれたんじょのう」
私は、自分がどこで生まれたのか、どうやって生まれたのか知らない。
彼がそう言うのだから、そういうものなのだろう、と思うしかないわ。それならば、私もここで生まれたのかしら?
広い室内を見渡すと、向かいの扉が開いたままになっている。行儀の悪い誰かが閉め忘れて行っちゃったのね。
お利口な私はそれを閉めに行くことにするわ。
それにしてもここは暗いわね。こんなに暗くちゃ下に何か置いてあっても気づかずに転んじゃうわ。どうしてもっと明るくしないのかしら。
ぐに。
言ってるそばから何か踏んづけちゃったみたいね。
柔らかい感触。うどんでもこぼしたのかしら。だとしたら結構な厚みがあるわね。大量にこぼしたのかしら。それともお餅?鏡餅だったら納得のいく感触ね。多分当たり。
眼を皿にして何かのあった所を見てみる。思ったよりもずいぶん大きな鏡餅みたい。
ちょうど人一人分くらいね。今夜の祝賀会用の巨大鏡餅だわ。いえ、やっぱり人ね。コレ。現実を見ます。ここに倒れているのは人です。これでいいんでしょ。例えが食べ物ばかりだったのは、きっとお腹が空いてるせいよ、ほっといてちょうだい。って、誰に向かって私は怒ってるのよ。
気が動転して、おかしな事を考えてるわ。深呼吸、深呼吸。
すぅ、はぁ。すぅ、はぁ。
…………、ちょっと落ち着いたわ。
でも、ドキドキドキドキ。まだ胸がドキドキしてる。目の前に死んでるっぽい人がいるんだもん、ふつービックリするわよね。
やっぱりこの人、死んでるのかしら?
全然動かないわ。思いっきり踏んづけたのに無反応。
どうしよう。
私が踏んづけたから死んじゃったのかしら。
そうだ、レイシェルを連れて来よう。
「ぐ、……ぐぅ……」
駆け出そうとしたら、死体から声。飛び上がっちゃったじゃない。生きてるなら、生きてるっていってよね。
あなた、大丈夫?
暗くて声の主がどんな顔をしているのか、はっきりとどこにいるのかもよく分からない。手探りで声の上がった方へ歩み寄る。
「み……みず、……あと、……い」
え、水が欲しいの、あと何?
聞こえないわ。おっきい声でしっかりとしゃべりなさいよね。口元に耳を寄せる。
「あ……足、ふ、踏んでる」
はうっ、すみませんっ。思いっきり爪先の上に立ってたわ。
み、水だけでいいのね、わかった、もらってくるわ。
足踏んで気まずかったから、逃げたんじゃないわよ。私は優しさに後押しされて急いで水を汲みに行ったの。




