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 軍陣地は風のように駆け抜けた。


 この姿になってから、自分でも信じられない程の力が出せるようになった。


 『根海』に入った。四日前にシャルリエ達と通った道。ここは比較的、軍も手薄で、誰にも見られなかったようだ。


 戦局は一進一退、不毛な消耗戦が始まっているようだ。


 この獣の姿では早く戦闘地域を抜け出さなければ、味方に銃を向けられることになる。道が分かるかどうか不安だったが、とにかく、記憶を頼りに『樹』を目指した。


「クソッ、やはり銃は効かないのか?」


 交戦中の部隊がいた。こちらには気が付いていない。軍服を見る限り、関東の部隊だろう。銃を主体に扱っているので、人間が多い編成だろうか。


 苦戦しているようだ。怪物には銃器は効きにくい。だが、今は助けに出ることはできない。健闘を祈り、見つからないように先を急ぐことにする。


「百歩神拳」


「何っ」


 脇腹に鈍痛が走り足が止まる。


「ほう、敵の隠密か?怪物にもスパイってのがおるんやな」


 聞き慣れた声に邪魔された。

 そこにいたのはミヤケだった。一番遭いたくない人物に見つかってしまった。


 ミヤケの声に振り向いた関東兵は、自分達の背後に回っていた黒いオオカミ、こと俺を発見したようだ。


 このままでは、ミヤケと関東兵まで相手にしなければならない。ミヤケも単独行動ではないだろうし、モタモタしていては基地の仲間まで来てしまうかもしれない。

 ほんとに間の悪いマユゲだ。


 一刻も早く先を急ぎたい焦りを目の前の暑苦しい男にぶつけることにした。


 右拳で顔面をねらった。


 いつもとは比べ物にならない威力だろう。旋風が巻き起こった。が、単純な動作のそれは、簡単にかわされる。


 お返しとばかりに、避けて腰を屈めた体制から左の回し蹴り。これは、すぐさま引き戻した右手で受けた。


 右足を垂直に蹴り上げ、ミヤケの胴に当てる。

 ミヤケは吹っ飛んだが、無様に倒れたりはしなかった。四肢で着地し、俊敏な動作で不適に立ち上がる。足で受けていたようだ。


「おもしろいやん、けっ」


 最後の言葉と共に、猛スピードで突っ込んできた。当然、迎撃体制をとる。

 だが、ミヤケの姿が一瞬、ブレた。そして、視界から消える。


 左、パンチは受けた。しかし、フェイントだった。がら空きの左脇に膝を叩き込まれる。


 さすがは実戦教官。軍でも最強クラスの男だ。半端ではない痛みが、左半身を襲う。だが、このまま倒れる訳にはいかない。


 大きくなった身体を突進させ、ぶつけてやった。よろめいたところにアッパーカットをお見舞いする。浅い。


 右の掌底付きは右手でいなされ、俺の身体は流れた。


 そこへ、身体を一回転させた、猛烈な蹴りを側頭部に喰らって視界が回転した。


「早いし、強い。すげえ身体能力や、でもな、それだけじゃあ、このミヤケ様にゃ勝てへんで」


 倒れ込んだ俺に右足を振り下ろす。回転してギリギリで回避したが、さっきの衝撃で軽い目眩を起こしたのか、意識がボンヤリする。


 このままでは勝てないかもしれない。自信過剰な俺でもそう思えてきた。得意とする剣もない。スピードや破壊力が上がっても、相手を捕らえることが出来なければ勝ち目はない。


 根っこに半ば埋もれていた二メートル程のガードレールを引っ張り出す。扱いにくいが武器になるだろう。


 回転させてミヤケに叩き付ける。

 左に逃れたので、そのまま横凪に振るった。

 これも跳んでかわされる。


「ハハハハハハハハ、これでもくらえ~、それそれそれ~」


 ミヤケは駒のように回転しながら蹴りを放ってくる。

 でたらめな攻撃ではない。急所を的確に狙っていて。まともにもらえば、相当なダメージを受ける。


 何度か有効打を受けて、駒と距離をとる。


 そこへ、横合いから、銃撃の雨が降りかかる。関東兵だ。彼等が苦戦していた敵は倒されたようだ。


 もちろん、いくら身体能力が上がったからといっても弾丸を一つ一つを確認して避けることなど不可能だ。横っ飛びに跳びすさるが、肩と脇腹をかすった。痛みはない。


 怪物同様、アンドロイドにも銃撃は効きにくいが、不幸にも当たり所が悪ければダメージは受ける。


 這い蹲った俺に蹴りが迫る。まともに顔で受け、仰向けに仰け反り、ゆっくり後ろへ倒れる。


「これで終わりや、怪物め、正義の拳を受けよ」


 彼の足下でダウンしているのは、オオカミに似た怪物である。さすがのミヤケも笑顔で教え子兼、部下に留めを刺そうとしているとは思わないだろう。


「……めん」


 変質した声帯のせいか、受けた怪我のせいか、声もうまく出せない。

 本当はこう言いたかったのだ。


「みんな、ごめん」

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