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「おい、これからどうするんだ?」
「シッ、黙っててくれ」
小さな声で窘められた。
俺は研究機材として陣中に持ち込んだ箱の中に詰め込まれていた。
研究者である重田は、もし俺が見つかっても、怪物の見本だ、と言い張るつもりのようだった。無理だろそれ。
軍本体はすでに『根海』に突入している。前線では、予想以上に苦戦しているという話だった。
彼等研究員は戦闘員ではないので、本体が制圧した地域にのみ足を踏み入れる許可を与えられる。出番はずっと後になるだろう。
「そうは言ってもよ、あんまりノンビリしてられねえよ」
「いいからだまらっしゃい」
「だまらっしゃい、はないだろ、だまらっしゃいは。俺をただの箱だと思ってナメてるな」
「ナメてない、ナメてないから、空気読んでくれ、声が大きいんだよ。箱にオオカミ入ってるってバレるじゃないか。あと、端から見たら、段ボールと話してる危ない人みたいじゃないか」
「危ないのは元からだろ、押入に可愛い人形ちゃんが入ってるの知ってるんだぞ。毎日お話してんだろ、この変態」
「ば、バカ、それは言わない約束でしょ」
「や~い、変態~」
「だから、声、声、大きいって」
もはや、俺の存在が見つかることよりも、己の秘密が暴露されることの方が気になってきた重田であった。
狭い箱の中に入れられて、いい加減暑苦しい、状況が状況だけに気持ちも焦ってしょうがないのだ。朝からずっとそんなやりとりを繰り返していた。
そんな、段ボールとひそひそ話をする重田に不審をを抱いたのか、警備兵が寄ってきた。
「なにかありましたか?」
「い、いえいえいえいえいえ、まったく、全然大丈夫。何も問題ないのだ」
不意に話しかけられたので、子供が見ても不自然に感じるほど動揺してしまった。
「その段ボールに誰か入っているんですか?」
言われて、ビクッとする。
「そ、そそそ、そんな訳ないべろ、マジックショーじゃああるまいし、箱に入る物好きなんていないんだぁね。それに、私は人形と話したりはしないぞ」
完全にキャラが壊れてきている。言っていることはもう、支離滅裂だ。聞かれてもないのに何か弁明をしているのが笑える。
「ちょっと、あらためさせていただいてもよろしいですか?」
当然、ますます不審に思われた。
「い、いや。その中には大した物は入ってないんだがねえ」
「何が入っているんです?」
「あ、それは、その、『ピコちゃん人形』だよ」
とっさに出た嘘に警備兵はどん引きしたようだ。関わり合いになってはいけないと思ったようで、「それはどうも……」などと言って、その場を辞そうとする。
「私、ピコ、一緒に遊びましょうね」
もちろん、俺の声である。重田の嘘に話を合わせてやったのだ。
あまりの不気味さに、仕事熱心な警備兵は、「やはり、開けさせていただきます」と、ふたに手をかける。
しまった、裏目に出たのかっ。
箱を内側から破って思い切り飛び出した。
俺は素早く動き、テントの間を縫うようにその場を離れる。。
「い、いまのはいったい……」
驚いて尻餅をついたままの警備兵が尋ねている。一瞬のことで、はっきり俺を視認できなかったようだ。
「ピコちゃんだよ」
「はあ、ピコちゃん……ですか」




