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「三番隊全滅、救護班はF地点に向かってくれ。十番隊は、十四番隊の援護に回れ、遅れるな」


 無線からは次々と悲報や急報、指示命令が聞こえてくる。

 午前九時、各国軍隊は、『根海』に一斉突入を開始。そして、彼等は、すぐさま敵の迎撃を受けることになる。

 待ち伏せである。


 全方位から一斉突撃を行った多国籍軍だったが、作戦開始早々に、予想以上の部隊が、撤退、または全滅した。


 彼等は、相手がたかが怪物だ、と油断していたのだ。知恵も無ければ統率力もない。そう、勝手に思いこんでいた。


 そして、怪物には、銃器の類が効かない。いや、完全に無効、という訳ではない。が、なぜか、弾が当たりにくいのだ。


 彼等について研究している重田は、異世界の住人である彼等は、身体の周囲になんらかの独自の力場を形勢しており、それがこちらの世界の住人である人間の攻撃を阻害するのだ、と考えている。それは、彼等が故意に作りだしたものではなく、ただ、『そういうもの』なのだという。


 人間の攻撃が通じにくいのは、ドナーズにも同じで、彼等も、同じ不思議空間を作り出しているという。

 そのせいか、ドナーズの攻撃は普通に通用する。彼等の攻撃は、怪物が発生させる不思議空間を易々と切り裂き、相手に打撃を与えることができる。


 怪物とこの世界の間には空間的な段差があり、その段差が攻撃力を減少させるのだ。同じように段差を持つドナーズとは段差がないので、攻撃が普通に通じる訳だ。


 これが、彼等、ドナーズが『根海』の任務に専任させられている大きな理由である。


 事前情報では、ちゃんと彼等には一定の知能のある者がいて、集団を統率している、という事、銃器が効きにくい事が分かっていた。

 にもかかわらず、人間は、長い間自分が地上で一番優れていた、ということに慢心し、他の生物を支配した気になっていた。己が一番優れた生き物。他者が同じ地位に昇ってくるなどということは認められない。

 そんな気持ちに足下を掬われたのだろう。


 各地で苦戦している情報が届けられた。


 それにしても、予想以上の反撃だった。


 しかも、こちらの侵攻ルートを掴んで、若しくは、予測していたとしか思えない配置だった。全ての人類の予想を覆した返礼だった。


 もし、怪物に情報が流れていたのだとすると、彼等は、人語を解することになる。

 そして、人間側の誰かとコミュニケーションをとったという事になるのだ。それも、軍人、若しくはその関係者と。


 軍部、政府はこの一事で、この、『樹』に対する。認識を変えることになったはずだ。


 これは、大阪、という、一地方の災害ではない、世界規模の大災厄になりうるのだ、と。


「ここは、制圧した。他の部隊の救援に向かうで」


 普段はリコ達の教官であるミヤケも指揮官としてもちろん参戦している。

 早くも戦線は膠着状態に入っている。『根海』外縁部では、各所で激しい戦闘が繰り広げられていた。


 前述したように、怪物には、なぜか銃器の類が効きにくい。かといって、生身の人間が肉弾戦を挑んで敵う相手でもない。活躍するのは専ら刀剣で武装したアンドロイド――ドナーズだ。


 中でも、リコ等が所属する白方駐屯基地部隊は、かなり善戦していた。

 化け物との戦闘経験が豊富なのである。


 待ち伏せが予想外であったにしろ、遭遇時の混乱は最小で、被害もほとんど受けなかった。全方位攻撃による敵の陣容の薄さも幸いした。


「中隊長殿、お言葉ですが、ここは、先行して『樹』を目指すべきではないでしょうか?」


 味方の援護に向かおうとする部隊の先頭に対して慇懃に意見をぶつける者があった。


「ん、お前は……誰だっけ?」


 ミヤケは目を細めて返答する。


「…………レイジです」


「ああ、そうやったな、で?」


「我々の最優先事項は、『樹』への到達、及び調査、ですよ。今ならば怪物共も外縁部に戦力を集中していて釘付け状態、内部は手薄なはず。一刻も早く前に進むべきです、実際」


「味方を囮にして、おいしいとこ獲ろうって話やな。お前は功を焦っている」


 もっともらしく注進してくるレイジの本心を見抜いたようだ。


「わ、私は……そんなつもりでは……、実際」


 図星を指されたのだが、他の隊員の前で醜態を晒すことはできない。躍起になって反駁しようとする。


「外縁部に的が集中している、という説の根拠はなんや。俺達の予想を遙かに上回る数の化け物がここにいたんやとしたらどうする。それに、先行して行って、もし外縁部が先に撤退したらどうする」


「そ、それは……」


「まあええわ、お前の部隊は先行しろ。かまわん。あいつらも先に行きたがっているみたいやしな」


 レイジの稚拙な反論を遮り、ミヤケは後方を振り返る。見ると、そこには、すでに『樹』に向かって歩いていく彼の隊員の姿があった。


「わ、私は一応、止めましたよ……」


 と、元からレイジ隊所属の女性隊員が弁解している。


「言っておくが、怪物共の総数は不明や、お前の言うように、内部に敵がおらんかどうかはわからん。俺は戦術上、動ける味方の増強を図るつもりや。まだ、死にたくないからな。ま、気にせず行ってくれ。勇者よ」


 無謀だ、中隊単位でなら、勇んで行くつもりでいたが、たった一部隊で敵本拠地に乗り込むなんて、蛮勇の極みである。

 もちろん、レイジにそんなつもりはない。しかし、命令違反で、『樹』に向かう彼等は、仮にも、部下である。そして中隊長の許可も下りてしまった。


 困ってミヤケを見る。その眼は、『見捨てるつもりか?』と言っているようだ。独り残った隊員も、『どうするんですか?』と、眼で問い掛ける。

 プライドと命のかかった決断を迫られ、泣き出しそうな顔になる。正に進退窮まった。


「ま~て~、君たち~。勝手な行動は慎めと言っただろう、実際」


 意を決した彼は、リコ、マール、ゴウを隊に戻るよう説得するために追いかけることにしたのだった。

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