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 今日は、どこかで集会でもあったのだろうか。俺たち一行は、怪物に一度も遭遇することなく俺達は『根海』の深部を歩いていた。


 こんなに根の奥深くまで来たのは初めてだ。


「こっちは、めっちゃめちゃ気合い入りまくってるってのに、肩すかしだよ~。逆に気味がわっるいよ~」


「そうだな、確かに拍子抜けだ。早く暴れたいぞう」


「何言ってんの、化け物なんか出なくていいのよ。私達は『樹』の中心に行きたいだけなんだから。暴れたいなら、どっかよそでやってよね、ゴウ。囮になってくれたら先に進ませてもらうわ」


 相変わらずきつい返しのシャルリエ。


「それにしてもどうしたんだろうな。昼寝の時間か?」


 なるべくなら、不要な戦闘は避けたい。相手の総数は不明なのだ。それに、闘いになれば、シャルリエ、という足手纏いがいる。


いつもなら、侵入すると、どこからともなく、湧いて出て来る奴らは、一向に姿を見せない。マールの言葉に真剣さはないが、本気で不気味に思っているようだ。


「そうだな、こういうのを諺で、ぬかにきび、っていうよな」


 また、ゴウが意味不明な語録を持ち出した。


「…………」


 これは、無視をされた訳ではない。俺を含め誰も語源が分からなかったよのだ。リコがいないとバカにツッコミを入れることすらできない。


「ぬかにきび、ってな~に?」


「おう、たしか、ニキビが治って喜んだけど、またニキビができた残念な人の諺だったかな?」


 そんな、なんの教訓にもならない諺はいらない。


「それって、もしかして、糠に釘、のこと?」


 たぶん当たり。手応えのない様を表す。さすがはシャルリエ。学校一の才女の名は伊達じゃない。あの筋肉バカの脳内すら理解した。


「いや、やっぱりぬかにきび、だったと思うけどな」


 もういいよ、てか、なんで今その諺が浮かんだんだ?ニキビ、今の状況と関係ないだろ。


 こんな風に警戒心もなく馬鹿話をしていても、襲ってくるモノはなく。予想以上に順調な道のりだった。もう小一時間はこんな調子なので一行はもはやハイキング気分になりつつあった。


 中心に向かえば向かう程、根は太くなる。だが、中は意外と空間が開けており、道が狭くて困るという事はなかった。


 大阪市。ここは、以前そう呼ばれる大都市だった。近郊に住む俺等も、何度となくここを訪れたことはあった。


 今は廃墟と化した建造物群の中には、見覚えのあるものもあった。天王寺の駅の辺りだっただろうか、百貨店に挟まれた道路に路面電車の線路が根っこの合間から見え隠れしている。大破したバスの骸も腹を見せて呻いているようだ。


「あと、どれくらいだ?」


 シャルリエは小型のノートパソコン弄くっている。


「そうね、あれが、たぶん環状線の駅舎だから……。今で半分くらいね」


 ネットには繋げないので、地図データを参照しているようだ。

 ここでは、どういう訳か、あらゆる電波は通じにくくなる。完全に遮断されている訳ではないようだが、通信状態はすこぶる悪い。それは、軍事用のものでも同様である。


「携帯はやっぱ通じないようね。メールぐらいはなんとか飛ばせるかな」


 シャルリエは携帯電話を取り出して何やら操作している。


「いいな~、携帯、マールも持ちたいっ」


 シャルリエの手元を見ながら、羨ましそうに指をくわえて見ている。小さな子供のようだ。


「だめよ」


「っえぇーっ、なーんで?シャルリエちんばっかりずっるい~、けっちんぼ」


「当たり前でしょ、あんたバカみたいに使いすぎるからよ。ゴウも、マールに貸すから駄目」


 この中で、携帯電話を持っているのは一人。彼等の通信手段としては、軍から無線を渡されている。これなら無料だ。ちなみに、残念だが私用は厳禁だ。


 たまに生存者が見つかる事があるため、市内のライフラインは生きている。まだ電線が繋がっている信号機などは、未だに車一台通らない道の交通整理を続けている。断線している電線は漏電し、危険な火花を散らしている。


 茫漠とした風景に生き物の動く気配はなく、気の弱い者がここを訪れれば、それだけで気分が滅入ってしまうことだろう。あまりに寂しく、見る者を不安にさせる景色だった。

 化け物なんかいなくたって、普通ならこんなところに一秒だって居たくはないだろう。


「なんか、ハイキングみたいで、たっのしーね」


 前言を取り消したくなるような陽気なマールの台詞だ。緊張感の欠片もないのだろうか、彼女には。それとも俺の方が暗いのか。


「そうだな、俺は、マールちゃんといれればどこだって楽しいぞ」


 さりげなくコクりやがった。

 さすがに勇気がいったのか、少し頬を染めて、モジモジと巨体を蠢かせているのが気持ち悪い。


 俺とシャルリエはこの二人のあまりに状況を鑑みない会話に困惑して顔を見合わせる。


「うん、リコちんがいないのは残念だけど、みんなと一緒でどこかにおでかけするのってあんましないもんね」


 ゴウの告白はサラッと流された。


「そうだな、五人で出かけたのって、あの時が最後だったかな」


 昔を懐かしむ老婆のような顔でしみじみと思い出す。


「そうそう、あの時も、シャルリエちんが、『世界の果てが見たい』って、言って無理矢理連れ出されたんだよね」


「ああ、その時のことか、俺はてっきり、『この世の全てを手に入れたい』の、時かと思った」


「それもひどい目にあったな」


 しみじみとゴウ。


「……」


「あん時は、ゴウ君、お尻が三倍くらいに腫れ上がってたもんね~、笑えたよ~。たっのしかったね~」


 俺達四人はよく、シャルリエに連れられて、危険な遊びを繰り返していた。しかし、この記憶は何年前のものだったろうか。


「世界の果てが府内の山中になんかあるわけないのにな」


「う、うるさいわね。あそこから世界の果てに通じている、て聞いたのよ。知らない人に」


 知らない人の言葉を真に受けるな。


「なんでもよかったんだよ~、どこだって。みんなでいられれば、私は楽しかった」


 少し切なげに、マールが呟く。


「マールちゃんといれればどこだって楽しいぞ」


 また言った。どれだけ、空気読めねえんだ。


「ふざける俺たちにしびれを切らして、一人別行動をとった奴がいたなあ」


 クックック、と嫌みな忍び笑いを洩らす俺。


「シャルリエちんったら、山の中で迷子になって……」


「あの時のことは言わないでちょうだい。思い出すだけで腹が立つんだから」


 それまで黙って聞いていたお嬢様は、ぴしゃりと遮り、ずかずかと先を急ぐ。


「おいおい、一人で行くなって。また俺に助けられてビービー泣くことになんぞ」


 行きかけた少女は、ツカツカと早足で戻ってくると、調子に乗って口を滑らせた俺の股間を思いっきり蹴り上げた。


「むごーーーーーーーーーーーっ」


 絶句、昏倒。かわいそうな俺は、ブルブルと震えて地面に蹲ることしか出来なくなってしまった。


「さあ、さっさと行くわよ」


 そして、危険地帯で置いて行かれた。

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