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付き添いという名の3

 ごくごく一般的な校門と校庭。そしてコンクリート校舎。右端には渡り廊下で繋がった第二校舎がそびえ、校舎の向こう側にはグラウンドと体育館が佇む我が学び舎でございます。


「これはなかなか立派な……しかし思ったよりも簡素な建物だな」

「簡素? ああ、確かにコンクリート校舎に飾り気はないかも。でも学校の校舎なんてだいたいこんな感じだよ?」

「そうなのか。ところでサヨはどこにいるんだ?」


 早々に興味は沙代か! この騎士様はラブな彼女のことしか考えていないのか!

 私は改めて問いたい。異世界の騎士に威厳は必要ないのかと。こんな頭ん中お花畑でもいいのかと。ギルベルト一人のせいで他の騎士様がなめられてしまわないかと心配になります。よもや他の騎士も似たり寄ったりなんてことはないですよね。


 呆れながらも校門の陰からそっと校庭を覗き見れば、幸いにも人影はなし。うん、良好良好。


「アヤノ? どうした?」


 突然こそこそと身を潜めた私に、後ろから不思議そうなギルベルトの声がかけられた。そんな彼に手で『待て』と指示をして、どのルートで沙代が練習に励む体育館へ行くかを脳内シュミレートです。


 出来ることならば知り合いに会わずに済ませたい。もっと詳しく述べるならば、知り合いの女子高生に遭遇することなく速やかにギルベルトを沙代に引き合わせて練習しているところをチョロッと覗き見てさっさととんずらして事なきを得たい。


 なぜか。それは愚問だ。

 年頃女子の目の前にこのイケメンをぶら下げてみよ。そうです。想像通りのことが起こります。十代女子の迫力を侮ってはいけないのです。同じ女子高生というカテゴリーに分類されるはずの私ですら、恐れ慄いてしまうくらいなのだから。


「あまり人に見られたくないから、どうやって沙代のところまで行こうかなって。ギルベルトだって、騒がれて万が一にでも異世界人だとばれたら困るでしょ?」

「いや? 別に」

「え!? 困ろうよ!」


 気遣う私の言葉をバッサリと切り捨てた! ていうか私が困るんですけど! 

 やばいよこの人、異世界人として忍ぶ気がないよ。お願いだから自重してくださいよ。


「私は困るの。お願いだから大人しくね」


 改めて釘を刺すように言い聞かせると、ギルベルトは神妙な顔をして頷いた。──けれど、これはたぶん神妙な顔をしただけだ。きっとよくわかっていない。ユリウスに至っては、この会話の横で面倒くさそうに突っ立っているだけだもの。


「とりあえず、一番端の第二校舎の右側からぐるっと回っていくから」


 大きく迂回することになるけれど、その方が人にも合わないだろうし、いいでしょう。


「よし、では早くブカツとやらに励むサヨを見に行こう」


 気を揉む私を横目に、一人ウキウキと歩きだすギルベルトを慌てて制する。とっとこ先に行かないででいただきたい!

 と、ちょうどそのときでした。


「あれ、綾乃? が、いるなんて珍しいな」


 よく知った声が、校門で揉める私たちの後ろから聞こえた。振り返れば予想に違わずどでかい野球バッグを肩から下げ、背中にはバッドを背負って自転車にまたがる少年。


「そっちこそ。店番はもういいの?」


 ぎっくり腰を患ったウメばぁの代わりに、部活を休んでうるストの店頭に立っているはずの公平でした。


「まあな。午前中様子見て、なんとかなりそうだからお前は部活行ってこいって叩き出された。……って、おぉ! ユリウス似合うじゃねーか!」


 上から下まで見事なヴィジュアル系となったユリウスに目を留めて、公平の瞳が輝いた。


「やっぱりなー、俺じゃこうはいかねーからなー」

「そうね。公平だと着られてる感が凄そう」


 黒髪に通った鼻筋、ほっそりとした手足に白い肌のユリウスに対して、黒髪こそ同じもののこれぞ日本人な顔立ちと日に焼けた公平の肌は、どう考えてもヴィジュアル系とは言い難い。

 ……由真ちゃん、手あたり次第にもほどがあるよ……。きっと妥協に妥協を重ねて辿り着いたのが公平だったのね。


「いいじゃんユリウス。なんか魔王様みてーじゃん! いや、どっちかっていうと魔王子か?」

「何を言う。当然だろう」

「あー、ははは……」


 みたいっていうか、本物なんですけどね。『なにを当たり前のことを言っているのか』と鼻で嗤うユリウスの横で、私はもう乾いた笑いしか出ませんよ。


「ってか、つーことはこっちが沙代のダンナか?」

「ダ、ダンナ!?」


 金髪の青年を見て、公平は噂の人物と確信したらしい。突然のダンナ発言に当のギルベルトが面白い声をあげました。……って、あれ、ギルベルトったらなに顔を赤らめてもじもじしてるの?


「あの親父さんに沙代をくれって頭下げたんだろ? すげーよなー。しかも噂よりカッコ良いじゃん……えーと、ギル……いや、悪い名前は?」

「ギ、ギルベルトだ」

「俺は公平ね。ユリウスはこの前来たんだけどさ、俺の家綾乃んちの近所で店やってんだ。暇だったらギルベルトも来てくれよ」

「あ、ああ……それよりコーヘイ」


 返事もそぞろにギルベルトは公平の両肩をがっしりと掴む。頬を赤く染めたまま。


「もう一度言ってくれないか」

「は? 何を?」

「私がサヨの、だ、だだ」

「ダンナ?」


 その瞬間、ギルベルトが右手に拳を作ってガッツポーズをした。


「……なに、どうした」

「……なんか嬉しいみたい。放っておいてあげて」


 そういえば我が家ではすっかりただの居候って感じで、あんまり沙代の旦那っていうか、彼氏としてすら扱っていなかった気がするなぁ。沙代自身の態度も原因だろうけど。ギルベルトってば実は不満だったのね。


「それより三人揃って何してんだよ」

「あー……」

「沙代でも見に来たのか?」

「そうなんだ! サヨはいつも一人でブカツに行ってしまうからな。今日はユリウスと学び舎見学も兼ねてアヤノに案内を頼んだ」


 適当に話を濁そうとした私の気持ちを押しのけて、ギルベルトが清々しいくらい全部ゲロった。


「なんだ。なら俺もグラウンドの方に行くから一緒に行こうぜ。ちょっと待っててくれ」

「公平──!?」


 そして危惧した通りの展開に!

 制止する間もなくシャーッと駐輪場へ自転車を飛ばしたかと思えば、駆け足で荷物だけを手にして戻ってくる。相変わらず勝手に話を進めるこの強引さが憎い。


「よっしゃ行くぞギルベルト! こっちこっち!」


 そう言って公平は、渡り廊下を横切る中庭の方へギルベルトを促した。……ええー! ちょっと待ってよそんな人通りの多いところ!


「こちらから行ってもいいのか? アヤノがあまり人に見られない方がと──」

「なんだよ、そんなの気にすんなよ。沙代のダンナだろ? もっと胸張れって」

「そうか! そうだな!」


 公平の馬鹿野郎!

 無駄に自信を付けたギルベルトが公平と並んでずんずんと中庭に向かって行く様を、私はどうすることも出来ずに見届けることしかできない。


「おい。結局どうするんだ。あいつらと行くのか?」


 項垂れた私に、うんざりしたようなユリウスの声がかけられました。私だってもううんざりですよ。


「いいよ。仕方ないから二人に着いて行こうか」

「……はっ、しっかり頼まれたのではなかったのか」


 ──おだまり!


「お願いだからユリウスは私から離れないでね」


 ユリウスくらいは大人しくしていてね。と言葉の裏に本音を忍ばせる。

 もはや懇願にも諦めにも似た、なんていうのでしょうか悟り? のような心境で『おててを繋ぎましょう』の微笑みを浮かべ手を伸ばしたけれど、顔を赤くして弾かれた挙句、背を向けられてしまいました。悲しい。

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