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付き添いという名の2

 ギルベルトとユリウスのお昼と着替えを待ってから、千鳥も一緒に四人で家を出ることにします。

 袴姿で学校へ行くのも目立つので、ギルベルトには兄が置いていったシャツとチノパンを着てもらいました。……が、様になりすぎていて、もはやカッコ良いを通り越してイラッとくるのはなぜでしょう。

 どうだ! と言わんばかりの、輝くような笑顔を浮かべる本人にもその一因があることは間違いないけれど。はいはい大丈夫ですよ似合ってますよ。


 日本人にしてはわりかし高身長な兄と背丈が同じだったこともあり、ならちょうどいいねと着てもらったらチノパンの丈が若干足りなかったという残酷な事実は、兄が帰省しても言わないでおきましょう。足の長さからして違うんだから、もう参ったってなもんですね。


「ところでアヤノ、学校へは徒歩なのか?」

「ううん。徒歩だとちょっと遠いから……あ、ユリウスも準備できた?」


 一応学校へ行くわけなので、私も制服に着替えてギルベルトと玄関前で待っていると、ようやくユリウスが出てきました。

 その格好は、言うまでもなく公平から譲り受けたTシャツにパンツ。即ちまごうことなきヴィジュアル系。

 ──しかしこっちも嫌んなるくらい似合うわぁー。

 思わずふっと遠くを見つめてしまった私を誰が責められるでしょうか。


 Vネックの襟口から肩までは黒と白の斑模様、そしてそこからグラデーションで黒くなっているお腹部分には見事な血飛沫。本人はどでかい髑髏と薔薇と血飛沫が前面に入ったTシャツをご所望でしたが、そんな三拍子揃ったもの学校で悪目立ちもいいとこなので、なんとかかんとか言いくるめてこれですよ。これでも私頑張った。


 下の黒いパンツは公平仕様だったものを裾を折り曲げ七分丈にしてみました。しかし、こういう服ってどうしてこんなにベルトがくっついてるんでしょうね。特に太もも部分のベルトなんて、本当にただの飾りにしか見えないけれど、何か私では分かり得ない使用用途があるのだろうか。うん、この界隈のセンスは難しい。

 

 とはいえユリウスが満足そうなので、良しとしますか。頬が紅潮している様を見るに、静かにテンションが上がっているらしい。彼の見目も相まってまさに王道のヴィジュアル系少年です。うん、違和感無いにもほどがある。

 そんな少年に続いて、パンパンに膨れたリュックを背負った千鳥も出てきました。


「綾乃、しっかり頼むぞ」


 あと父も。あれ、その台詞だと私はもはや完全に疑う余地なくお守り要因なんですが。

 行く前から疲労感がどっとくるなぁ……遠足に出かけるときの保母さんってこんな気持ちなのでしょうかね。はしゃいで面倒を起こさないでほしいと切に願う。


「千鳥は夕方の稽古に遅れないようにな」

「うん、大丈夫!」


 父の言葉に千鳥は溌剌とした返事とともに頷いた。

 うちの道場は夕方から子供向けの教室を開いているので、普段は千鳥もそこに混じって頑張っています。千鳥は元々素直な分なんでも吸収してしまううえに、兄と沙代に違わず運動神経もこれまた凄いものを持っているので将来有望ってなもんですよ。

 ……すでに私は、千鳥にすら腕っぷしでは負けてしまうんだろうな。

 結局、兄妹の中で劣っていたのは私だけでした。でもこの子は歳が離れている分、頑張る姿は素直に嬉しい。


「じゃあ、いってきます」

「おう、気ぃつけてな」


 父に見送られながら、私たちは家の門扉(もんぴ)を出ました。


「で、アヤノ。私たちはなにで行くんだ?」


 早々に金髪の彼が途切れた会話を再開させる。


「ひと駅だけどバスで行くよ。暑いもの」


 私と沙代の通う高校は、なんとも微妙な位置にあるのです。自転車ならば十五分くらい。バスならひと駅。歩くとなるとちょっと遠い。

 そして電車なんて論外です。我が家からの最寄り駅が高校からの最寄り駅と同じなんだもの。しかも、その駅がまた三十分に電車が一本くるかこないかの使いづらさ。これぞ田舎あるある。


「それよりも千鳥……そのリュックはなんなの?」


 やたら大荷物の妹に尋ねてみれば、これでもかと小さな肩が跳ねた。


「えと……宿題。ゆまちゃんと一緒にするの……」

「そうなの。二人ともえらいね」

「う、うん……」


 いやはや。千鳥が素直な子に育っているようでお姉ちゃんは嬉しいよ。

 ──なんて嘘が下手な子なんでしょう!


 これでもかと視線を彷徨わせる様はいっそ微笑ましいくらいですね。そうですか、そのリュックの中身は宿題ではない何かなのね。これ以上突っ込むのはなんだか可哀相なのでやめておこう。


「ならバス停まで千鳥も一緒に行こうか」


 あっさりと追及を諦めて、バスというものに首を傾げている異世界人二人を引き連れてようやく歩き出します。我が家から徒歩ほんの数分のところに佇むさびれたバス停で千鳥とは別れて、やってきたバスに慄く二人を追い立てて乗り込んだ──が、私の予想以上に彼らにとって初バスは興奮材料となったようです。


「クルマとやらにも驚いたが、こんなに大きな箱までこのスピードとは……! あとで原理を教えてくれないか!?」

「……いや申し訳ないんだけど、私も原理まではちょっと……車に興味ないし」

「おい、このスピードでこの巨体は曲がれるのか? 次は曲がり角だぞ大丈夫なんだろうな……っ!?」

「やめて、ユリウス立たないで! 大丈夫だから大人しく座ってて!」

「素晴らしいな! これではサヨが馬車を『効率が悪い』と吐き捨てたのも頷ける!」

「沙代ってばそんな失礼なことまで!? なんかすみませんうちの妹が!」


 大変です。すでに息切れを起こしてしまいそうです。窓にへばりつくギルベルトと座席から立ち上がろうとするユリウスを同時に抑えるのはさすがにキツイ。

 さらに付け加えるなら、そんな私たちを微笑ましく見つめてくる他の利用者様方の視線も大変キツイ!


 ギルベルトをべりべりと音がしそうなほどの力で窓から引きはがし座らせてから、私はユリウスが立ち上がって転がらないようにその隣に腰を下ろします。と、何やらくいっと引っ張られるような感覚に視線を落とせば。

 私のシャツをぎゅっと握るユリウスの手があった。

 彼自身は自分の手が何を握っているのか気付いていないようです。無意識に服握られちゃいました。……ふおぉっ! と叫び声をあげてしまいそうになる己を律するのに、私は全神経を注ぐ!


 可愛いことしてくれるじゃないユリウス。

 妹は二人もいるけれど、弟はいないからなぁ。うん、これはちょっとあれですね。

 萌えるわ。


 内心こっそりと身悶えていたら、自分が何を握っているのか気付いたらしいユリウスが、そっ……と私に悟られないようゆっくりと手を離していく様子に、なおさら悶えちゃったりなんだりしてたら目的地へ着きました。

 バスを降りてほんの少し歩けば、もう到着です。

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