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プロローグ

 まずは、我が家と妹について語らせていただこうと思います。

 なぜかって? それは、彼女という前提がないことには話が進まない。そういうことです。



 私は、母が座卓に並べた人数分の湯呑をひとつ手に取り、ずずっと一口すすってから心を落ち着かせる。

 やはり緑茶は良いですね。ここは日本なのだと、改めて感じることができます。この状況ではこれ以上ありがたいことはありません。無意識に「ふう」と小さな吐息までこぼれる。


 ──しかし、一体なんだろうこの状況は。

 顔を上げるのが憂鬱で、意味も無く湯呑の中を凝視した。

 あ、茶柱立った。良いことが起きそうな予感なんて、皆無だというのに。茶柱貴様、嘘を付く気か。



 *****



 私、浦都 綾乃(うらと あやの)が生まれた浦都家は、この辺ではちょっと知られた家です。


 周囲を山と田畑に囲まれたこののどかな田舎で、代々剣道の道場を営んでいる生粋の武道一家。

 生徒さんは子供からご近所さんまで幅広く、細々とではありますが昔からのお馴染みさんのほか、子供の情操教育やら格闘技ダイエットやら、世間が賑わうたびに我が家の道場も生徒さんで賑わい、なんとかやらせていただいている感じですかね。マスメディア様々ってやつですよ。


 当然ながら兄・私・後々述べさせていただく妹、そしてまだ八歳である末の妹までも、幼い頃から父と今は亡き祖父の指導を受けていました。

 ──が、兄妹ばかりでなく祖父母・父母揃って武闘派が集う一家の中、唯一人、私だけはビックリするほど才能がなかったようで。それはもう、母の腹に運動神経ってものを置き忘れてきたんじゃないかってほどに。


 つまり、早々にドロップアウトしましたよね。うん、まあ、己の力は己が良く知るといいますか……なんだか言い訳がましいけど。


 だって、道場の剣道だけでは飽き足らず、高校では柔道部の主将を務めて、インターハイ優勝を成し遂げた兄。その兄の卒業と入れ替わって入学し、早々に剣道部のエースとして期待されている妹。そしてその間に挟まれている私……。嫌でも自分の才能の無さを痛感するというものです。


 そんな妹、浦都 沙代(うらと さよ)。強いです。その細腕の一体どこから。と、びっくりするほど強いです。柔道部だった兄の自主練にも付き合っていたようなので、柔道だってできちゃう。彼女のアグレッシブさと逞しさに、姉はもはや敵う気がしません。

 小学生の頃、最後に妹と手合わせた際、これでもかとボコボコにされたことは今となっては良い思い出──いえ、正直に言うと思い出したくもないトラウマです。

 ということで、大変お待たせしました。本題もここからです。


 高校一年生の妹は、夏のインターハイに向けて朝早くから夜遅くまで、連日練習に励んでいたけれど……練習に励み過ぎてしまったのか、直前に足を痛めてしまいました。結果は残念ながら準優勝。

 とはいえ、一年生で準優勝なんて大したものです。とうとう兄に次いで妹まで遠い存在に。と、ちょっぴり感傷的になったりもしたのですが、妹にとって『準』と付く称号など不服だったのでしょう。


 大会が終わった昨日から今日までまるまる一晩、あの子は行方知れずとなってしまったのです。


 私は、さすがの妹とはいえ女の子。今まで無断で外泊なんてこともなかったし心配したのですが、対する家族は呑気なもので。「たかだか一晩で。どうせすぐ帰ってくるだろ」「たまには気晴らしも必要でしょ」とはまぎれもなく両親のお言葉です。

 ……しかし、まあ、あの子の逞しさを毎日目の当たりにしていたら、この台詞も致し方ないのかもしれませんが。それに何かと規格外な兄という前例もあったし……いや、これは今は関係ない。

 とにかく、ある意味これも信頼されている。ということなのかな。


 そんな妹が、今日の夕方突然ふらりと帰って来たのです。いつもの調子で「ただいまー」と間延びした声を上げながら。

 けれど、ただ一ついつもと違ったのは、妹の後ろには金髪の青年と黒髪の少年が立っていたということ。


 なんということでしょう。

 妹は、異世界で勇者となり魔王と騎士を引き連れて帰ってきたのです。

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