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こんぽーざー! 変態と美少女がボカロP目指してみた。  作者: らい
第一章 変態x変態=混沌
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第一章 変態X変態=混沌4

「……専属コンポーザー?」

 コンポーザー。即ち作曲家。曲を作る人。

「そ。よーするにアンタはこの部の曲を作る奴隷なのよ————変態さん♡」

 ——先程迄とはまるで別人の朱翼先輩は汚物を見る様に俺を見下した。

 一体どうしたのだろうか? この雰囲気、絶対Sプレイとかそんな生易しいもんじゃない。

「……ちょっ、ちょっと待ってください! わ、私はただ仮入部届けをこの部に提出しただけで……それ以外は何も…………」

「だーかーら! アンタ仮入部すんでしょ? この部に」

 朱翼先輩が俺の言葉を否定する様にそう言った。俺の提出した仮入部届けをヒラヒラちらつかせながら。

 下品な言葉に下品な素振り。まるで悪魔が朱翼先輩に取り憑いたかのようだ。清楚で可愛らしい彼女は何処へ…………?

 またしても生ゴミを嫌々見る様な薄目を朱翼先輩は俺へ向ける。

「仮入部する=この部の奴隷。この部の奴隷=仮入部員」

 すると朱翼先輩は俺を指差し、

「アンダスタン?」

 ……も——————っの凄く馬鹿にする様なジト目で俺を罵った。

「いやいや朱翼……たかだか仮入部員をそんな風に扱う権利、いくら部長でもないよ。仮入部って言うのはただの部活動体験なんだから」

 すると芽衣先輩が後ろから割って入る。そして朱翼先輩の右肩を叩き、諭す様にそう言った。


「…………へ、そうなの………………?」


 えー何それ知らなかった、みたいな目をした。フリーズした様にぽけん、と停止する朱翼先輩。

「うん。だから猫かぶり辞めるのはちょーと早かったかなぁー?」

 すると絶望する朱翼先輩はみるみる色を失い灰になって逝くのだ。

 専属コンポーザー? 猫かぶり? そして息絶える朱翼先輩? 一体どういう状況なんだ…………

「……そ、そ、それって私…………ひょ、ひょっとして……しくじった、って、こと………………!?」

 死んだ魚の様な目で芽衣先輩へ訴える。

 ……それに優しくVサインで答える芽衣先輩の表情は同情している様に見えた。


「——わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああ!!」


 突然、朱翼先輩はそんな泣き声と共に両目から滝の様な水しぶきを上げた。

「私……私! おねぇーちゃんに言われたとーり、私、一生懸命演技して、変態に付き合って、変態に良い顔して、変態にめげずに、私、とってもとっても頑張ったのにぃぃぃぃいいいいいい——————!!」

 赤ん坊の様にだだこね、コンセントが横行する床を埃など気にせずゴロゴロのたうち回る。

「よーしよし! 朱翼ちゃんは頑張ったよー! だから泣かないでー!」

 それをなだめる芽衣先輩。保育園の先生さながらだ。

 端から見ると芽衣先輩の方が背も低く幼そうで妹の様なのになんだか変な光景だ。



 …………………………

 ——それから暫くの後。

「……あの————……」

 俺は今ひとつ掴めていない状況を確認するため声をかけた。

「…………何?」

 ……何だろう、親猫が敵を威嚇するみたいな姿勢で朱翼先輩は俺を睨んだ。

 なんだかんだあり朱翼先輩は芽衣先輩に丸め込まれ落ち着いた。いや、正確にはお菓子で買収されてたのか……口にはチョコレートの跡。

「専属コンポーザーって何なんですか…………?」

 すると朱翼先輩はめちゃくちゃ興味なさそうに、手にしたチョコバットをぼんやり見つめて口を開いた。


「この部——電子音楽研究部はボーカロイドを使った楽曲をアップロードする事が活動目的の部活なの」

 ボーカロイド?

 何だそれは? 使った、と云うからには新種の楽器とかだろうか?

「……その様子やっぱだと知らないみたいね、ボカロ」

 ぎくっ、読まれた。

 それからあーあこいつやっぱ使えねーや、みたいな目つき。

 手には無惨に溶けたチョコの跡。何なのこの女子力の無さは! 一体どうしたのだろう?

「ボーカロイドって云うのは歌詞とメロディを入力するだけで手軽にボーカルパートを作れるソフトの総称。その人気は今や絶大で世界各国で視聴及び作曲されてるし、国内外各地でボカロだけの演奏会まで開かれた事もあるわ。そんなのも知らないの変態さんは?」


 はて、説明されても全く思い当たる節がない。あと変態さんって誰の事だろう。

 俺は自分で言うのもなんだが幼い頃から音楽を専門に勉強していて、音楽に関してはそれなりに知識もある。ましてやそのボーカロイドとか云う奴、話を聞く限りは俺の専門分野である『作曲』に大きく関わっている物のようだが、名前すら聞いた事が無い。

「……そのボーカロイドとやらと私がこの部に仮入部したこと。これにどんな関連性があるのでしょう?」

 残り少なくなったチョコバットを口に押し込んだ(この動作が若干エロかった)朱翼先輩は指に付いたチョコをぺろっと舐めると立ち上り、ようやく俺の目を見て下さった。

「……あんた、割と曲書けるんでしょ?」

 えー何この冷徹な上から目線。さっき迄めっちゃ清楚で上目遣いの可愛らしい感じだったのに!

「まぁ、それなりには。」

 俺もそれとなく投げやりに、適当に返す。


「——それなりじゃないわよっ!!」


 ——予期せぬ唐突な怒鳴り声。その高音ノイズに危うく鼓膜がブッつぶれそうになった。

「第三十五回東京オーケストラ作曲賞一位なし二位、第五十四回赤塚作曲賞一位及び聴衆賞、そして第八十四回日本作曲コンクール最年少一位————中学の頃の貴方、国内最大級の作曲コンクールを総嘗めじゃないっ! 二十一世紀作曲界一の神童! 世界の注目する若き天才作曲家! 私達、作曲を学ぶ若者の憧れじゃないっ!!

 そんな奴が…………そんな奴が——っ!!


 それなりなんて言うなよ——————————っ!!」


 顔を真っ赤にした朱翼先輩は息を切らし、その場で俯いていた。


 ……これは、怒られた、のだろうか————

 だとしたら何に?

 俺が自分を卑下した事にか?

 そんな事何故他人に怒られなくてはならない?

 ——そうだ、違う。

 これは単なる、

 彼女の————嫉妬だ。


「……それじゃあ答えになってねえな————」

 小声でそう呟く。


「俺の質問に答えろ——朱翼!!」


「——っ!! ちょっとアンタ、何勝手に呼び捨てにして————ッ」

 俺は朱翼の言葉を無視して顎を右手で掴み、顔を近付けた。

 彼女の目を間近でじっと睨む。


「俺の過去の作曲成績なんて、今はどうだっていい。俺があんたに今要求してる事はただ一つ————あんたらの目論みは一体何なのかってことだっ!」

 小声で、しかししっかりとした言葉を朱翼へぶつけた。


 ああそうだ。才能への嫉妬なんて話はずっとあった事なんだ。


 朱翼の言う通り、俺は中学の頃——大学生や殆どプロみたいな連中も沢山応募してくる国内大手クラシック音楽作曲コンクールを弱冠十五歳で総嘗めにした。

 恐らく国内で作曲やってて俺を知らない奴は居ない。

 その中でも日本作曲コンクール。

 これは一位を受賞すると賞金五百万円とヨーロッパへの四年間の留学を団体が補助してくれる副賞付きだった。

 見事一位を俺は十五歳にしてヨーロッパへの大学に進学すると云う道が開かれたのだ。

 じゃあ何故こんな高校に進学したかって?


 ————そーりゃ制服JK毎日拝める青春過ごしたかったからに決まってんだろっ!!


 知ってるか? ヨーロッパの高校って制服無いんだぜ!? 勿論若干あるとこもあるが日本の制服みたいに可愛くねえ!

 しかも高校すっ飛ばして飛び級で大学とか!

 確かにヨーロッパの天然金髪美少女は魅力的だ。だが正直そんなのいつでも拝める。

 ——しかしっ!

 制服JKと同じ屋根の下で勉学(意味深)を共に出来るのはこの十五歳から十八歳の三年間しかないのだっ!!

 階段の下から見えるパンチラも!

 廊下ですれ違った時の美少女の残り香も!

 水泳の時間のスク水も!

 夏場の透けブラも!

『きゃっ!!』

『あっ! ご、ごめんっ!! ……着替え中だった…………?』

『……ううん…………輝くんになら………………見られても良いから………………』

 ……みたいなキャッキャムフフな淡い青春の思い出も!

 これを直ぐ側で味わえるのは今しかねえんだぞ!

 これをみすみす捨てる男がいるか?

 いや居ねえ! そんな奴は男じゃねえ! 居たらゾウさん切っちまえ!


 だが、こんな俺だ。

 同年代の作曲やってる奴らからは嫉妬されて当然。怒られて当然。

 誰もが手に入れたかった切符をあっさり手に入れておいて、それをただエロスの為だけに捨てたのだ。

 ——同じく作曲専攻の朱翼がああなるのは当然の事なんだ。



「……離して————」

 朱翼は俺の手を力強く振り払い一歩下がった。

 泣いて怒って疲れ果て、やつれた少女。

 そんな彼女が再び顔を上げた時、その表情は冷静さを取り戻していた。


「そうね。じゃあまず去年の活動内容から紹介しようかしら」

 冷たい目と共にそう言った。

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