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こんぽーざー! 変態と美少女がボカロP目指してみた。  作者: らい
第四章 変態×願い=伝えたいキモチ
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第四章 変態×願い=伝えたいキモチ3

【????パート】

 あーもしもし、聞こえるー?

 あっははは、それ皮肉ー? 治る見込みまだ無しよー。そんな心配すんなって、私は気長に待つわよー

 うん、日曜日だけはけーたい使えるんだー

 それより今日、ダブルデートだったんでしょ? え、男一人と女二人じゃそれはダブルデート違いだって? あっははははははー! あんたも上手い事言う様になったじゃない!

 あーそうそう、今日はちょっとお願いがあってねー。うん。

 いやたいした事じゃ…………いや、ちょーとばかしたいした事かも。

 ……お、あったりー! にっひひーバレてたかー!

 そうそう、それでね、準備して欲しい事が一つあるの。

 ビビ動生放送。

 三月のボカロ祭りで使った機材が部室の本棚の上に入ってると思うの。

 そうそーう! そこの!

 そんでね、多分明日、あのガキが何かやらかすから、うん。そん時にそこに在る機材持ってって————……

 えー私には無理だって? 出来る出来るー! 私の活躍を側でずっと見て来たのは誰だー?

 よし良い子だ! うん、絶対あいつのためになるから!

 うん。そんでねーそれが始まったらネットに放送して欲しいの! あ、始まる前にSNSで情報拡散すると尚良し!

 そうすれば、あの子だけじゃなくて、あいつも色々気付いてくれると思うから!

 へっへへ! 私の手の中でせいぜい踊らされてりゃ良いのよ子供は!

 頼みますよー巨乳のお姉さん!

 あ——うそうそうそ! 今のなし! えー! 頼むよー! えぇーケチーケチー!


 ………………

 ………………………………

 ………………………………………………………



 日下部シンフォニックホール。

 東京郊外に位置する収容人数二千人規模の大ホール。日本屈指の収容人数を誇っており、日本作曲コンクールの本選も行なわれた国内最大級のコンサートホール。

 都立八川芸術総合高校管弦楽団。

 八芸が保有するオーケストラ。そのメンバーは元々レベルの高い八芸生の中からさらに厳しい選抜によって選ばれるまさに日本最高峰の高校生オーケストラ。その実力はそこら辺のプロを遥かに凌ぎ、定期演奏会を開けば高校生の演奏とは思えぬ程高額なチケットにも関わらず毎度満席だ。

 その二つが————橘輝と云う名の下集まった。


「いやぁ本校期待の優秀な生徒である橘くんの新作をこんなに素晴らしいホールで演奏出来るなんて、団員の生徒にとっても良い勉強になるよ!」

「こちらこそ! あの橘輝の新作初演を収録したホールとなれば、十分ホールの名売りになる! 是非存分にうちのホールを使って下さい!」

「何を仰るんですか! 突然のお願いにも関わらず、お二方とも快く引き受けて下さり、こちらこそ感謝してもしきれません!」

 最初に話したのはうちのオケの指揮者兼顧問。二人目はここのホールの館長だ。二人とも女の子じゃない。そりゃそうか。

 あーあ。日本の社交辞令縦社会はこれだから嫌いだ。俺は煽てるというのが本当に嫌いでな。

 煽てなんて美化であり嘘である、が俺の持論。煽てる時には誇張表現や嘘が必ず介在するんだ。「素晴らしい巨乳ですね!」と言いながら心の中では『いや八十三って巨乳じゃないだろ!』とか実は思ってたりね! はぁー社会面倒くさ。もう一生学生がいいよ!

「しかし橘くんがポップスとはね……少々驚きですよ。どんな風の吹き回しで?」

「あぁ、これはポップスじゃありません。ボカロです」

「はぁ、ボカロと…………?」

「ボカロ、新種の楽器でしょうか…………?」

 ……この様子じゃ知らないみたいだな、ボカロ。

 あれっ、何か少しデジャヴ………………? ちょっと前にもこの台詞聞いた様な…………

 ……ああ、そうだ。

 あの日か————————

 ……………………

『この部——電子音楽研究部はボーカロイドを使った楽曲をアップロードする事が活動目的の部活なの』

 ボーカロイド?

 何だそれは? 使った、と云うからには新種の楽器とかだろうか?

『……その様子やっぱだと知らないみたいね、ボカロ』


 ……はっは。まさかあの日の朱翼と同じ思いをする事になろうとは。

「パソコンで作ったヴォーカル音声と生のオーケストラのフュージョンを狙ったんです。正に現代音楽! これが私の研究するボカロ——新しいサウンドなのですよ!」

 ふっ————まあ、こう言っておけば納得する筈だ。

 すると先程迄二名が飼い馴らしていた疑問符が綺麗さっぱり消え去り、

「それは素晴らしい! ではこのスコアに書かれたヴォーカルパートは、歌手を呼ぶのではなくて機械の音声になるんですか!」

「ほほう! それは斬新ですね! 従来には無い新時代の音楽だ!」

「ありがとうございます!」

 マジかよ、朱翼や芽衣先輩と違ってちょろいな。新時代の音楽って……ビビ動に行けば腐る程あるわんなもん!

 ……けど、きっと。

 数日前の——朱翼と出会う前の俺も、同じ事を考えていたんだろうな。

「では、あと三十分程しましたらリハーサルを始めますので、オーケストラの皆様は響きの確認とチューニング、ホール関係者の皆様は反響板と照明の準備をお願いします」

「分かりました。宜しくお願いしますね!」

「承知致しました。演奏楽しみにしています!」

「こちらこそ、宜しくお願いします。」

 俺と二人は順番に握手を交わした。おっさんのべっとりした手なんて握りたくねえが仕方が無い。

 それから俺は深々と頭を下げ二人がこの場を立ち去るのを待つ。くっそ、アイツの為に俺がここ迄してやったんだから後で責任取らせてやる!

 ふぅー。やっと行ったようだ。ったく肩凝っちまったぜ。

 ……さーてここいらで目の保養の為、舞台に上がって来た可愛いオケ団員JKでも見つけるか! 美少女測定機、起動!

 と、そんなことを考えていた時…………

「め、芽衣先輩!? そんな所で何をやっているんですか!?」

 オーケストラ団員が続々と舞台上に押し寄せる中、舞台中央の指揮台付近で馬跳びの馬みたいな格好で何やらビデオカメラらしきものを触る芽衣先輩の姿を見た。今舞台で一番BPが高いのは言うまでもなく芽衣先輩だし。

「あっ! 輝くんー? なんか私も手伝える事ないかなーって思って今、録画のお手伝いしてるのー」

「あっ芽衣先輩カメラ得意なんでしたっけー?」

「得意って程じゃないけどちょっとわかるのー」

 ホールの残響の無駄遣い。無駄に良い響きを伴って俺達はそんな言葉を交わしていた。

 そっか、芽衣先輩は去年迄ビビ動生放送の時カメラ係だったんだっけか。

「すみませーん! じゃあお手数おかけしますが宜しくお願いしまーす!」

 てか今日の演奏、録画すんのか。聞いてないぞ。恐らく大方、ホール側がこのホールで橘くんの新作録音会がありました!、みたいなプロモーションに使うんだろうが一応作曲者に許可とれっつーの。まータダでホール借りてるんだし、そんくらい良いけど。

 芽衣先輩はグッジョブサインを俺に向けた。了解って意味だろう。

 さて、俺も大事な準備に掛かるか。

 俺は二枚の分厚い防音扉を抜け、廊下へ出る。巨大なガラス張りの向こうには駅ビルやら巨大家電量販店やらが見える。すっかり夜もふけ、街は色とりどりのライトで照らされている。

「さて、と。」

 ポケットに手を突っ込みスマホを取りだす。

 そう————アイツに電話をかけるため。

 良く分からないけど俺の中に、もしここ迄準備してアイツが来なかったらどうしよう、なんて不安は無かった。根拠の無い自信が、そこにあった。

『……もしもし』

「お、朱翼か。レッスン終わった?」

『…………えぇ、まぁ————……。』

「その声——途中で追い出されて帰ってきたな」

 西園寺先生はスパルタだ。朱翼みたいなやる気の無い生徒にも熱心に教育しようとするタイプじゃないのは分かってる。

『……はぁー? んなわけっ————』

「ほーら図星だろ?」

『……………………』

 ぐぬぬ、と子猫の様に縮こまる朱翼の姿が電話越しだが目に浮かぶ。分かり易い奴。

「今家か?」

『……あとちょい』

「そりゃ丁度いいや。今から日下部ホールに来い」

『は!? ちょっとなに言ってるか分からないんだけど』

「お前も音楽家の端くれなら日下部ホールくらい知ってんだろー?」

『そ、そうじゃなくてっ! 何でそんなとこに行かなくちゃ行けないの!? それに私今バカおやっ…………お父様の車の中だから……』

「なら尚更丁度いい。お前のバカ親父にも言ってやれ。十五歳の神童、橘輝作曲によるオーケストラ曲の新作世界初演が今からタダで聞けるから来いやってな」

 源三郎が父親なら絶対食いつく。自分の娘の良い刺激になるとか的外れな事ほざきながらな。

『…………あんた、何か変なもんでも食べたの?』

「いいからさっさと源三郎にそう言ってやれ!」

『はぁっ!? どっ、どこでその名前を!?』

「んな事どうでも良いから言えよ!」

『…………ちょっと待ってなさい』

 そう言うと『お父様…………』という小声の後、空気音だけが届くのだった。

 ——待つ事凡そ三十秒。

『……何時開演?』

「アンタらが到着したら、だ」

『…………冗談はよして』

 そりゃ普通信じないだろうなぁ。

 ——俺様が朱翼の為だけにホールを抑えて、朱翼の為だけにオーケストラを呼んで、朱翼の為だけに演奏会をやるなんて。

「あとどれくらいで着くんだ?」

『……今高円寺辺りだから……まぁ大きく見積もって四十分ってトコ?』

「じゃあ一時間後だ。余裕もって安全運転で来い」

 ……椿の事もあるしまた交通事故なんてシャレにならん。それにこっちは本当に何時開演でも良いんだよ。客はあんただけだからな。

『……分かった。意味分かんないけど分かった』

「今は分かんなくてもいいよ、別に。こっちくりゃ直ぐ分かる——いや分からしてやる」

 真の音楽の面白さをな。

 ——ピッ!

 朱翼が何か言いかけたが、俺はそこで電話を切った。今更来るのやめたとか言われたらやだしな。ホールの中は電波遮断だ。これで否応にも朱翼とその親父はここへ来る。

 よし————これでチェックメイト。

 全てのピースはここに揃った。


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