第一章 変態X変態=混沌2
第一章 変態×変態=混沌
四月六日月曜日。時刻午前十時三十分————楽しい入学式が始まる。
何故そんな時に校門の裏に隠れ、築地を訪れた寿司屋の大将の如く真剣な眼差しで双眼鏡を手に女の子の観察しているのか————俺の持論を知っていれば分かるだろう。
「……24…………33…………34……19………………うっほありゃ40!! 入学初日なのに自分のバスト及びウエストに対して最も適切なスカート丈を把握してやがるすげー!」
ああ——ありゃ、デザイン専攻だな。
東京の郊外に位置する都立八川芸術総合高校——通称『八芸』
一応日本トップと言って良い芸術総合高校だ。美術科、音楽科の大きく二つに別れておりそれぞれの中でまた専攻別に細分化されている。
美術科専攻の一つ、デザイン専攻はポスターや家具、文房具なんかは勿論、CGからアニメキャラまで、まあ要は将来世の中にある何かのデザインを作りたいっていう高校生連中が集まる専攻だ。つまり勉強だと自分に言い訳してエッチなデッサンしてる奴らだ、たぶん。『BP40』を獲得したあの少女もあらゆる項目を計算し、それが最も美しくなるバランスをずっと探求して来たのだろう。主にエッチなデッサンしながら。
——だが甘いッ!
制服と髪色のバランスは絶妙だったが、髪色とリボンの色の配色がめちゃくちゃだ。赤リボンだったが俺なら黄色リボンを着用させた。それから折角細身で峰○子もびっくりなナイスくびれラインを持っているのにそれを活かそうと云う気のない太くてボダボダしたセーターを着込むのもNG。更に欲を言えばあと三センチヒップが大きければウェストとの比率的にもっと美しくなっただろう。ちょっとエッチなデッサンしたくらいじゃ俺には勝てない。
「うん、ありゃ今後に期待だな」
俺はその子に声をかける事はせず更にBP測定を続ける。
「……10…………27…………19………………しっかしこりゃJKのバーゲンセールだな」
入学式迄残り三十分と云う事もあり恐らく今が人波のピークなのかも。デパートのバーゲンセールで血相を変えるおばちゃんの気持ちを俺は初めて理解した。こりゃ興奮。
しかし制服は最高だな! 制服と云う服装はこの時期特有の子供と大人とが入り交じった垢抜けて無垢な少女達を引き立てるのに最も適す(橘調べ)。しかもうちの高校はセーラーなのだ! おっぱいを隠す為、ただそれだけにセーラーに実装された最強神器、『胸元のぴらぴら』のロマンについて誰かと一晩中語り明かしたい。
そんなロマンについて夢想していた刹那————
「—————————ッ!? これはっ!」
——俺は圧倒的な何かを感じ取った。
この気配——只者じゃない。
まだ距離はあるが、確実に、この校門を目指して歩いてくる————何か
ひょっとするとこれは俺が長年求めていたものかもしれない。
今の俺は例えるなら獲物が網に掛かる瞬間をじっと待つ蜘蛛。
集中力を最大迄高め、その何かが訪れる瞬間を息を潜め待った。
——拳が汗ばむ
一秒をこんなに長く感じた事はない——
————鼓動が加速する
次第に近づくそれと比例して高まる期待と緊張————
そして————その瞬間は来た
俺は存分に目を見開き————————
「——身長一六一センチ、スリーサイズ上から74、58、86。推定バストサイズはBだが本日着用のブラはCと予想。脚は太もも周り40センチで細長く、そしてその長所を最大限生かす黒ニーソ×ミニスカコンボによって形成される『絶対領域』はニーソ膝上6センチ、スカート丈膝上19センチで13センチと完璧。胸元で輝く薄朱色のリボンは内面からにじみ出る清楚感を最も良い形で表現する。髪型はこれまたモデル体型の彼女を最も引き立たせる黒ロングを採用しているのも好感が持てるが、美しい肩下25センチをキープし手入れも怠っておらず品やかに伸びるそれはまるで一本一本が美しいハープの弦なのではないか、とさえ考えさせる。そして極めつけはブラックダイヤを彷彿させる大粒の瞳に整った美しい小顔。これらの部位の得点とそれぞれのバランスから導きだされる彼女のBPは………………」
大きく息を吸い込み、
「満点!! BP五○だぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああ——————っ!!」
脇目も振らず大声で叫んだ。
周りから突き刺さる冷ややかな視線が痛い。やっべ、つい興奮して叫んだせいで周囲の注目を集めちまったようだぜ。女の子は兎も角野郎の冷たい視線は需要が皆無だ。ったくこれが嫌だから校門の影に隠れてたのに! 嬉しい悲鳴って奴かな!
あ、そこのお姉さん、そんな絶対零度な視線辞めて下さい。死んじゃいます。ははっいやだなぁ俺は犯罪者じゃないですよー! ただ美少女を舐めるように鑑賞して楽しむだけの紳士な男ですから(キリッ)! そう、言うならばジェントルマンっす! 手出し無用っす! 俺も手出しはしないので!
「——何を呟いてたの————君?」
——その瞬間、俺は自分の耳を疑った。
この世の物とは思えぬ美声を俺の耳は感知したのだから………………。
恐る恐るその声の方向へ視線を向ける。
そこに在らせられたブラックダイヤを軽々超越した輝きを放つ鏡の様な瞳に映るのは——紛れも無い、俺の姿だった。
嘘だろ……これはつまり…………先程BP50を獲得した完璧美少女——いや女神様——が俺如き平民にお声をかけてくださった…………と云う事か………………!?
やっべ、入学早々ラブコメの神様良い仕事すんじゃねえかよッ!!
だがこれで彼女の内面を把握出来れば容姿ポイントと合計して真の『BP』を算出する事が可能…………
——おっといけねえ、私欲が勝った。まずは女神様のお言葉に、真摯に向かい合いお返しするのがジェントルマンの務めってって奴だな。俺は失敬かとは存じているが真っすぐ女神のお美しい瞳を見つめ言葉を紡ぐ。
「BP測定を行なっておりました、女神様」
「……やだ、女神様だなんて…………私には過ぎた言葉ですわ?」
……
………………
……………………………………
か、かっんわぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!
清楚なイメージにぴったりな甘美なソプラノ、口調もイメージ通り……いやそれすら超越する気品あるトーン。そして恐らく心の底から自分を謙遜して出て来た結果である言葉選び、恥じらいから少し落とされた目線に薄らと桃色に染まる頬、口元に添えられた右手。桜の花弁が空を舞い桃色の風は彼女を更に彩る。バックの桜並木マジGJ。
——これを女神と呼ばずして、何を女神と云うのだろうかッ! クレオパトラも顎が外れる。
「そのびーぴぃ、と云う物は一体どの様なものですの?」
生まれたてのハムスターの様にきょとん、とした表情! そして女神様から頂いた何とも嬉しいご質問っ!! え何、この幸せ! ひょっとして俺明日死ぬの?
すかさず俺は若本さん顔負けのイケボで淡々と語りはじめる。
「『BP』とは即ち『美少女ポイント』の略であり私が独自に作成した女性の美しさを測る指数となっております。靴、脚、腰、ウエスト、胸、肩、腕、手、首、顔、髪、そして服装のそれぞれ項目の点数とそのバランスから算出される外見点をBP50。
更に言動、仕草、行動、姿勢、その他女性の内面を内面点50と定め、その合計点数を総合BP一○○として算出する事で、女性本来の美しさを理論的に数値化する事が出来るのです!」
そう、これが先程から判定して来たBPシステムの概要だ。
長年の美少女品定めによって鍛えられた俺の能力『美少女測定機(BPスキャナー)』を以てすれば女性のあらゆる部位を誤差±1センチで目算する事が可能! これを用い各部位及び全体のバランスを計算するだけで、女性の持つ本来の外見美を一瞬で算出する事が可能なのだ!
女性の美とは外見と内面が合わさった瞬間に生まれる。
そう考える俺が、今日は外見BPしか測定出来ないのが非常に残念でならない。
だが、断言しよう。
今、目の前に居る彼女は間違いなく————
————総合BP一○○だ
「……何、それ…………気持ち悪い」
……その時、初めて俺と女神様を取り囲む様に人だかりが作られていた事に気付いた。視線の雰囲気的に恐らくミッ○ーマウスの類いの注目のされ方ではないと思う。
冷たい視線の意味を俺は理解出来ない。女性の美をたかがおっぱいの大きさや脚の美しさだけで決めつけるより、よっぽど有能なシステムだろう!? そのうち特許も取ろうと思ってる!
——だが流石女神様。
若干顔が引きつった様子も伺えたが、髪をさらりと靡かせるとあら不思議。直に持ち前の笑顔を俺に向けてくださった。つまり、この高尚なシステムをご理解頂けるのはここでは女神様だけと云う事だ! なんとも寛容なお心! 流石庶民と一線を画した存在!
「それで私が外見点満点の50点を獲得した、ということですの?」
「左様でございます、女神様。勿論総合BPも一○○であることを付け加えて置きましょう」
「……まぁ嬉しい」
——おっと、何だこの反則級の屈託ない笑顔は! 例えるなら子猫+子犬+ハムスター+橋本○奈みたいな。可愛すぎんだろ! 俺氏、人生初の一目惚れなう。
「——恐れながら申し上げます。女神様」
俺は脚を折り俯いた。
女神様は「ふぇっ!」と声を上げそんな俺の行動に少しばかりおどおどし謙遜なさる。視界の端で捉えた太ももが品やかでつやつやでむっちゃエロい。
「私、都立八川芸術総合高校音楽科作曲専攻一年一組、橘輝と申します。もし差し支えなければ貴女のお名前をお聞かせ願えないでしょうか」
我ながら素晴らしい紳士ヴォイス。
あー絶対ちょー可愛い表情してるんだろうなー、上見て——……
……おっとまたしても私欲が。ここは紳士に女神様のお言葉を待つのだ。それがジェントル・マン。
「……あの私はっ………………!」
……ヤバい、既に可愛い…………。
いやいや鎮まれ俺! 黙って答えを待つんだ!
「…………、同じく……作曲専攻二年四組の…………雨音朱翼です…………。ど、どどうぞお顔を上げて下さい! ……えと、……こう、くん…………?」
女・神・転・生—————————————————————————————っ!!
え、何この子、ホントに女神様じゃねえか。しかも俺の名前までくん付けで呼んでもらえちゃったよ! え、やっぱ死ぬの俺、明日死ぬの!?
更に年上か! 大人の色気って奴か! 今日は入学式だけで二、三年は登校しない筈とか、そういうのは今どうでもいいよね!
俺は「失礼します」と一言の後、女神様——改め朱翼様のお言葉に従いその場で立ち上がった。
目の前に飛び込んだ朱翼様は、顔を真っ赤に染め上目遣いで俺を見つめていた。
「……あの……私、もう行かないといけませんの。 ……また後でね、輝くん…………っ!」
子猫の様ににゃんっと小さく右手を振る。
「光栄です、我が姫」
俺がそう言い頭を下げると…………ほーらまた赤くなる。照れてうずくまる。
朱翼様はそれを誤摩化す様に小走りで立ち去った。その時揺れた長い髪はふわりと空を舞い弧を描き、甘美な香りを残した。
俺はそんな朱翼様のお姿が完全に消えるまで、ヴィーナスの様なそのお背中を凝視していた。
俺は今年一年、いや高校時代全ての運をこの入学初日で使い果たしたのかもしれない。
だがそうだとしても後悔はない。
それでBP一○○の美少女に出会えたのなら何も後悔ない!
周りから向けられる冷ややかな視線も、俺のBPシステムを見下す罵倒も、今は最早春のそよ風の様に気持ち良い。
ああ、この高校を選んでホントよかった!
「俺は今、生まれて一番の幸せを、噛み締めているッ!」
そうこれから————俺、橘輝のハッピー青春ラブコメディが始まるのだ!




