第三章 変態×アキバ=奇想天外4
「20…………29………………10……18………………」
——照りつける日差しの中。
「7………………10…………21…………19————………………」
俺は例の測定を行なっていたのだが————————
「秋葉原、美少女居ねえ————————————————————————————!!」
初・秋葉原!!
おら野郎共ッ————! 秋葉と云えば何だッ!!
美少女メガネメイドさん、巨乳美形メイドさん、ロリロリミニスカメイドさん、某秋葉原アイドル風メイドさん、S系お姉様メイドさん、清楚系スレンダーメイドさんッ!!
——そう、秋葉原と云えばメイドさんの聖地!!
メイドさんとは即ち全世界の男の憧れであり夢であり希望!
つまり秋葉とはまたの名を男の天国と言っても過言ではないッ!
ならばさぞかし可愛いメイドさんがいっぱい居ると、俺は思ってたんだよ!
だが————————…………
「あ————そこの君ッ! なんでこんなに良いおっぱい持ってるのにこのメイド服な訳? Dカップだよね!? アンダーとトップのバランスも良いのに活かさずにどうするの!」、と俺はおっぱいを持ち上げる。
「君は折角身長一六六もあるし脚も綺麗で長く大変素晴らしいのにッ! なーんでロングスカートなの!? ここはミニスカートで黒タイツが最も似合うに決まってるじゃないか!」、とスカート丈を引っ張り上げる。
「そして君! 小顔で目もぱっちりしてて可愛い。ショートボブも似合ってる。なーのーに! ど————して眼鏡かけちゃうんかな!! 活かそうよその素敵な顔を!」、と眼鏡を取る。
「君はメイド服の結び方が違う! こっちの方が可愛いでしょ!」、とリボンを結び直す。
「君は笑顔がぎこちない! プロのメイドさん見て学びなさい!」、と頬をくいっと上げる。
「あーあーあーあー! 歩き方汚いよ! 君は綺麗に靴磨いててスカートとの色バランスも良くて似合ってるのに! なーんでそんな歩き方しちゃうかな!? いいか、体の重心を考えて歩けば————」
————ガコンッ!!
唐突に俺は頭を誰かに殴られた。
「——アンタ学外でもこんな真似して恥ずかしくない!? この変態ッ!!」
振り返ると拳を構え血相を変え俺を睨みつける朱翼の姿があった。
すみません、すみません、と朱翼は俺の意見したメイドさん全員に頭を下げに行く。何故謝るのか意味が分からない。俺はアドバイスした立場なのに!
「三十分早く着いちゃったのに集合場所で輝見つけて、私ちょっと喜んでたのに…………」
「いや、秋葉原初めてだったもんでメイドさんのBPチェックをしようかと少し早めに」
「輝に期待した私が馬鹿でした!」
頭に湯気を浮かべて朱翼はぷんすかぷんすかと怒りを露にした。
——しかしこうして見てみるとやっぱこいつ外見だけは美少女だな————……
俺は朱翼を下から上にじっくり見定める。
黒を基調としたワンピースでブーツもそれに揃えた黒。バスト下に結んだ薄朱のリボンとアクセントに胸下で輝くのも朱の紐リボン——自分に似合うリボンは朱って事を理解してる。髪型はワンピースに合わせて右流しでピンで止めている。胸元に輝く一筋の光——ルビーだ。そして左手にはピンに合わせた色の貴金属ブレスレット………………
「……な、何ジロジロ見てんのよ……輝のバカ変態————……」
朱翼は眉をぎゅっとして目線を左に逸らす。
「今日の服、朱翼に似合ってるな」
「——————ッ!? は、はっ!? えっ…………そ、そぉ——…………?」
朱翼は品やかなその腕をすっと伸ばし指先を交差させて、へにょっとした可愛らしい目で俺を見た。
「うん、何故神はお前みたいな女にその容姿をお与えになったのか疑問でならない」
「悪かったわね内面は可愛くなくて!」
そう云うとぷいっと背を向け今度は後ろで指を絡ませた。
「ていうかあんたなんであれから一回も部活に来なかった訳!? 仮入部員は毎日部室に来る事って言ったじゃない!」
ショートスカートをくるっと靡かせ振り返ると、前屈みになって下から俺を見上げた。ふわっと香った朱翼の匂いが最高に可愛かった。
そうだ。実は朱翼に電話した日以降、俺は部活どころか学校に行っていなかったのだ。
「あーあれから家に籠ってビビ動漁りながらボカロ曲の分析をずっとしてた」
「は? あんた三十曲もやってたじゃない」
目をまん丸くして不思議そうな表情。
「いや流石の俺でも三十曲程度じゃ未知の音楽は書けなくてな。だがもう五百は分析した。これでもう俺に死角は無いぜ!」
「うっそ…………、あんたでも努力すんの?」
急にきょとん、とする朱翼。
「ったりめーだろ! 俺を才能に溺れて何もしない宝の持ち腐れ系天才と一緒にすんな!」
朱翼は心の底から関心した様な表情でへー、と呟いた。
ただの天才じゃ日本一にはなれない。天才が更に死ぬ程努力した時、そこに真の天才が生まれるのさ!
「……そ、そんなことより、早く行きましょうよ…………私あんまり時間ないんだから」
今度は目線を地面に、なんだかもじもじしながらぼそぼそとそう呟いた。うん、膝がエロ可愛い。
「……は? お前自分の友達待たねえの?」
「————へ?」
「うわ————二人ともまだ集合時間前なのに早いねえー!」
その時、改札からこちらに向かって駆けて来る一つの影が————
「いえいえ芽衣先輩をお待たせする訳にはいかないと思いまして、自主的にほんーの少しだけ早く来ただけです! ですからどうぞお構いなく」
「あはははー! 久しぶりの輝くんやっぱ面白ーい」
「ぐはぁ! 嬉しいです……! 芽衣先輩にそう言って頂けるのなら俺はこの命だって捧げますよ!」
「えー死んじゃやだよーっ! コロッケ食べる?」
「相変わらず唐突過ぎっ!? …………頂きます」
「はーいどーぞ! 今日はねー特別製の高級品なんだよー」
きょとーんと、そんなやり取りを遠目で見る朱翼————……
「おーい、どうしたー朱翼?」
「……………………芽衣も————…………一緒、だったの…………?」
「はーなに言ってんだー? 三人で一緒に行こうって言わなかったっけ?」
「言・っ・て・な・い・わ・よ・ッ!!」
——物凄い勢いで胸ぐらを掴まれる。
なんちゅー血相してるんだ……こいつ顔可愛いのに表情可愛くないからマジで色々損してるよ。
「や、だってお前俺と二人で出かけるなんてそれもうデートだぜ? いくら部活の為とは云えお前だってそんなのやだろ? 俺だって嫌だし誘わねえよ」
「………………一人で勘違いして一人できんちょーしてた私って——————…………」
小声で何やらぶつぶつと呟く朱翼。
みるみる内に力が抜け、朱翼の膝はかくっとなりその場でしゃがみ込んだ。
「え、何か言った?」
「何も言ってないし!」
地べたで女の子座りした朱翼は猫の様にギロリと目だけで俺を睨んだ。全く威圧感ねぇ。
しかし一体どうしたって言うんだ?
灰色に染まった朱翼…………俺はまたしても芽衣先輩にアイコンタクトで今の状況を確認してみる。
『朱翼の奴どうしたんすか?』
『あらー? 輝くん案外鈍感?』
『鈍感? 何にでしょう?』
『あーなるほどー! 分かんないのね! うん、輝くんピュアで可愛い♡』
『ウッヒョ————————芽衣先輩のカワイイ頂きました————————ッ!!』
何も解決してないし、良く分からなかったけど、可愛いって言った時の芽衣先輩の目から出たピンクのハートマークが可愛かったから、もう、なんか、えへへ!
「さっ——……! い、行くわよっ!」
無理矢理立ち上がり、無理矢理笑顔を作った朱翼は俺たちを先導する素振りを見せながら秋葉原の街へ入って行った。
俺はこいつについてって大丈夫か心配になった。