表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/2


――大変、申し訳ありませんでした。


土下座なんてドラマや漫画、そんな架空の出来事だと思っていたのに、今私は土下座をしている。腰を折っても許されることではないと分かっているからだ。いや、土下座をしても許してもらえるのかどうか…。


羞恥心は出てこない。湧き上がってくるものは、ただひたすら、不安と恐怖のみ。


目を閉じて地面に頭を擦りつけているので、相手の反応はいまいち分からない。混乱しているらしいことは確かだ。言葉にならない声が聞こえてくる。

しかも私にはわからない言葉で何やらぶつぶつと呟いているので、何を言っているのやらさっぱりだ。

やはりこの人は、扉をくぐってやってきた、外の世界の人なのだと痛感する。





世界はいくつもの世界があって、それぞれの間に道がある。

その道を通るためには、扉をくぐらなければいけない。もちろんこの扉とは、普段私たちの身の回りに存在する扉ではない。例を挙げるならば、木と木の間の隙間とか、洞窟とか。ザ・異世界の扉である。



そしてその扉を管理、支配するのが私たちの仕事だ。



異世界同士交流していた時代はあったのだが、相手側の世界に存在する「魔物」という獣とは言えないものがやってきてから、交流は途絶えてしまった。

今や扉とは、この世界にとって魔の存在。厳重に封鎖され、扉を使用することは重罪となった。

重罪にしなくても誰も使いたくはないのだが、まれにトチ狂ったやつがいるのだ。異世界に逃げる前に現実を見て欲しい。そして病院行って来い。


研究の発展やら新時代の幕開けのためにとか言ってて、魔物がやってきたことを覚えていないのか馬鹿者め。



そんな扉にかかっている鍵。こいつがまた脆いのである。どれくらいかといえば、乙女のハートなみとでも言っておこうか。これは友人談から引用させてもらったので、私が思い付いたのではない。


この鍵は二日に一回、必ず壊れる。そうなってしまったら修復は不可能。扉は勝手に開いて、その扉の管理者は罪を背負うことになる。


なので私たちは一日ごとに鍵を直す。新しい鍵にしろよと言う人もいるが、何を仰っているのやら。鍵って言っても、ガチャンとロックするタイプじゃないんです。鍵という物体は存在しないんですよ。

だからこそ気を抜くとこんなことが起きる。そう、今の私が直面している事態のようなことが。



「ほんっっとうにすみませんでした」


相手側の人が私の脇を持ち上げて無理矢理立ち上がらせたので、今度は腰を折って謝った。顔を上げると、本当に混乱しているらしい。全身全てを駆使してハテナを作り出している。フードで性別が分からないのも、こんなに困るものなんだね。対応とか、心の準備が出来ない。だってほら、殴られたりとかしそうで。


いやそんなことよりも、だ。今の私は大変崖っぷちである。

まず会話が成り立たないことが問題。そして扉が開いたことも問題。元の世界に返さなければならない問題。その他もろもろの問題。問題だらけではないか。くそっ! 昨日しっかり鍵を直したはずなのに!

ぎりっ、と歯ぎしりすると相手はびくりと体を震わせた。いや、別に怒っているわけでは……。


しかし、いくらなんでもビビりすぎではないだろうか。顔色が真っ青である。

今頃異世界にいるなんてことに気付いたわけじゃあ、ないですよね?


「――――――――!!」


何やらわけの分からないことを叫ぶと、相手はいきなり逃げ出した。


ちょっ、なんで!?



伸ばした手は行き場を無くし、大人しく下げられた。

相手側の視線の先、要するに私の後ろを見てみると、何も怖いことは無い。開いている扉という、重い現実がどっしりと腰を下げているだけだ。私は憂鬱な気分になった。頭が痛くなりそうだ。


さよなら、安定していた未来……。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ