9/35
-9-
「あら、あっさりしてるわね。名残惜しいなら付いて行ってもいいのよ?」
「名残惜しい?」
康太が訝しげに言うと、芳子はいたずらっぽく微笑む。
「奏ちゃんと一緒にいたいんじゃないの?」
「別にそんな関係じゃないし」
そっぽを向いて言い放つ康太へ、芳子は重ねて質問を行う。
「あら、どんな関係なのかしら?」
「そ、その話はもういいから!夕飯早く食べたいんだから、早く済ませてきて!」
「はぁい、それじゃあいってきまーす!」
「はぁ・・・まったく」
慌てる康太の様子を楽しむとそう言って手を振りながら芳子はリビングを出て行く。一人リビングに残った康太は、三人が近くにいないことを車のエンジン音で確認すると、疲れて顔でテーブルへと突っ伏した。
「俺と奏はそんなんじゃ・・・ないんだからな」
誰に聞かせるわけでもなく呟く。ただの事実でしかないその言葉は、何故か彼の心中に小さな痛みを与え続けた。