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「この子がシロちゃんねえ」
芳子はシロを見ながら確認するように呟く。ひとしきり騒いだあと、ようやく落ち着いた三人は麦茶を飲みながらシロの話を聞いていた。
「うむ、そうじゃ!」
「俺も未だに信じられないよ」
視線を動かして何度もシロの全身を見回す芳子に康太が言うと、芳子は康太へ視線を移す。
「あら、私は信じてるわよ」
芳子の言葉に康太は思わず驚く。しかし、そんな康太の反応に芳子は不思議そうにした。
「だって、実際に目の前にいるんですもの」
「確かにそうですけど・・・」
「それに・・・」
『「それに?」』
「家、男の子ばっかりだったから女の子も欲しかったのよ」
三人の異口同音に芳子はうっとりしたと様子で答える。
「ええ?」
「男の子の中に女の子がいると年頃の時色々大変だと思ってたんだけどね、やっぱり男兄弟だとお母さん話が合わないからちょっと寂しかったのよ」
「そうなんですか・・・」
「なうなんです!」
呻く康太へ力強く断言する芳子。そして、シロを改めて見ると微笑んでみせた。
「な、なんじゃ・・・母上!?」
「シロちゃん、お着替えしましょう?」
「んな?!」
康太達が幼い頃に着ていたと思われる時代がかったキャラ物のシャツにスパッツといった出で立ちのシロは、芳子の提案に狼狽える。
「は、母上!わしは別にそんなことしなくても自分の力で服ぐらい・・・!」
「服を作り出すのは大変なんでしょう?」
「うぅ・・・!」
先ほど自分が行った説明を復唱されたシロは反論することが出来ずに押し黙る。
「だからちゃんとしたのに着替えましょ?大丈夫よ、お人形さんみたいにするわけじゃないから」
「う、うむ・・・!」
覚悟を決めた顔つきでシロは頷く。芳子は嬉しそうにすると、奏へと向き直った。
「ひゃ・・・!?」
「そんなに固くならないで奏ちゃん。もう遅いからお家まで車で送ってあげるって言おうとしただけよ?」
その言葉に安堵した奏は頷くと康太へ別れの挨拶をし、玄関へと向かっていった。
「それじゃあ、また明日ね」
「うん、また明日」
「シロちゃんも一緒に行きましょ?帰りにお洋服買いましょうね」
「うむ、よきにはからえ・・・!」
シロは芳子の言葉に強がった様子で応えて勢い良く立ち上がると、奏について行く。
「うんうん。それじゃあ、奏ちゃん送ってくるから康太はお留守番よろしくね」
「うん。腹減ってきたから早めにお願いね」
そう言って承諾をする康太に、芳子は意外そうな顔をするのであった。