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彼の様子に気付くと、シロはいたずらっぽく笑ってみせる。
「うっ・・・!?」
現状について考えないように視線を逸らしていたと同時に、少女の裸体を意識しないために出来るだけ目を逸らしていた康太は、その質問に思わず図星と言った様子で呻く。シロはそんな康太の反応に満足気に何度も頷いた。
「まあ仕方がないかのう。この幼子の見てくれであったとしても、わしから滲み出る妖狐としての威厳や妖艶さは隠せぬものじゃからのう!」
「・・・そういうことにしておいてください」
「なんじゃ、違うのか?」
自分の予想とは異なり、うなだれて応える康太にシロは訝しげに詰め寄る。だが、久しぶりの人としての歩き方にまだ馴染んではいなかった彼女は、体を少し傾けた所で突然バランスを崩しよろめいた。康太は慌てて彼女を守るように引き寄せて抱きとめるが、大きな尻尾のためにシロの体の重心が人とは違うことに気づいていなかった彼は、すぐさま姿勢を整えることが出来ず、シロを引き寄せた勢いのまま自分もそのまま後方へと倒れてしまったのであった。
「あいたた・・・シロ、大丈夫か?」
背中から床に倒れた康太は思わずつむっていた目をゆっくりと開けると、自分の胸の中にいる少女に声をかける。
「う、うむ・・・やはり康太は優しいのう」
仰向けに倒れている康太の上でシロは恥ずかしそうに答えると、康太の胸板へと自分の顔を押し付けた。
「うむ、うむ、人の姿はこうやって近くで温さを感じられるからいいのう」
嬉しそうにするシロに対し、康太は困った様子で彼女を見ないように視線を動かす。彼女が自分の体の上に乗って甘えること自体は日常的であった。しかし、今眼の前にいる彼女は今までとは違い人の姿をしており、思春期まっただ中な少年にとっては大変刺激的なものであった。
「あのさ、シロ・・・そろそろ離れてくれると嬉しいんだけど・・・」
「んー、あと三十分だけ・・・」
子供っぽい眠そうな声色で康太の胸板に頬ずりを続けるシロ。康太はこの状況をどうしたものかと考えながら、あることを思い出して自分の頭の中が冷たくなっていくのを感じた。
『こうちゃーん、なんか大きな音がしたけど・・・?』
「やばいやばいやばい・・・!」
玄関から奏の声がする。今この家には自分とシロの他にもう一人いた事を思い出した彼は、まるで全身が冷えきっているように声が震える。
「だ、大丈夫だから!なんともないから!」
『本当に大丈夫なの?』
「う、うん!」
『良かった!それじゃあ入るね?』
危険が無くなったことに安堵した奏は康太に合流しようとリビングへと向かう。次第に近づいてくる足音に比例して康太の鼓動は大きくなる。彼は眼の前の光景に対する説明とこれからの打開策をなんとか考えようとするが、結局何一つ思いつくこと無く時間を迎えてしまった。
「こうちゃん、さっきの声の人は誰だった・・・の・・・?」
戸を開けリビングへと進入した奏は康太の姿を見つけて安堵した様子で声をかけるが、彼の上に見知らぬ少女が乗っていることに気付くと段々と声は小さくなっていった。
「や、やあ奏・・・?」
康太は平静を装って挨拶をする。胸の中では、シロが幸せそうな表情で穏やかな寝息を立てていた。