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八尾の善狐  作者: マスカルポーネ
2章
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-2-

 なんとか早退せずに放課後まで耐えた康太はやっとの思いで自宅へとたどり着くと、靴を脱ぎながら家の中に声をかける。

 「ただいまー」

 『おかえりー!』

 疲れた声で声を出すと、室内から元気な声とともにワンピース姿のシロが玄関まで出迎える。康太が頭を撫でると、少しくすぐったそうにしながらも振りほどくことなく、それを嬉しそうに受け入れていた。

 「うん、ただいま」

 「くすぐったいぞ、康太」

 そう言いながらシロは上目遣いでもっとするように促す。もし彼女が狐ではなく犬であったなら尻尾がちぎれんばかりに振られていただろう。

 「あら、康太帰って来たの」

 二人がじゃれあっているとリビングから母が現れる。

 「ただいま」

 「おかえりなさい。久しぶりに寒天のお菓子作ってみたから二人で食べていいわよ」

 芳子がそう言うと、シロは嬉しそうに踵を返して台所へと向かう。急に手持ちぶたさになった康太は何かを握るような動作を数度行うと母へと向き直った。

 「それ作るの随分久しぶりだね」

 「シロちゃんが来たからね」

 芳子は嬉しそうに言う。昔は母がよく子供たちに作っていたそのお菓子は、康太の兄たちが皆上京してからは全くといっていいほど作らなくなっていた。

 「たくさん作るものだからどうしてもねえ」

 二人が新たな住人が来たことによる変化に感慨深げに浸っていると、無遠慮な声がリビングからする。

 『康太ー早うせんとお主の分も食べてしまうぞー!』

 「あらあら、食いしん坊さんね」

 芳子は苦笑いをすると一足先にリビングへと戻る。康太が遅れてリビングに入ると、シロと芳子がまるで親子のようなやり取りを繰り広げていた。

 「シロちゃん、一人でそんなに食べたらお腹壊しちゃいますよ」

 「大丈夫じゃ!わしはそんなにやわじゃないからの!」

 オレンジジュースと果物を混ぜて固めた寒天のお菓子の入った容器を二つ手に持ってシロは言う。そんな様子のシロに、芳子は腰に手を当てて叱る。

 「そんなこと言うと、もう作ってあげませんよ?」

 「な、母上!それは堪忍じゃ!」

 顔を青くするシロ。彼女が人の姿になってからわずか一日の間に、この家の中におけるシロと母の上下関係は決しているようであった。

 「それじゃあ、ちゃんと康太の分を残しておきましょうね」

 「はぁい」

 シロは返事をすると、容器の一つを冷蔵庫に戻して芳子に報告をした。芳子はシロの頭を撫でて優しい声色で言う。

 「はい、よく出来ました。ご褒美に今度作るときはシロちゃんのだけフルーツ多めにしてあげるわね」

 「本当か!?」

 「本当よ」

 「そ、それなら!あの、黄色い桃がいいのう!」

 目を輝かせてリクエストをするシロに芳子は嬉しそうに応える。

 「はいはい。それじゃあ次は桃のジュースがいいかしら」

 「うんうん!頼むぞ母上!」

 そのやり取りをいつしか顔をほころばせて見ていた康太は、夕飯前に少しばかりの仮眠をとるために自室へ戻るにした。ベッドに倒れ込んだ康太は、帰宅するまであった疲労感が今は幾分和らいだのを感じるとそのまま目を閉じたのだった。

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