2章-1-
「ねえ、こうちゃん」
「うん?」
休日明けの休み時間、康太は奏にその後の顛末を訊かれる。
「あの後、どうなったの?」
「特に変わったことはなかったかな。父さんにシロのこと説明して、みんなで夕飯食べただけ」
「食器とか買ったの?」
「兄たちが使ってたのがあったからそのあたりは特に問題なく。それにしても母さんも父さんも適応力高すぎじゃないのかな?」
康太の言葉に奏は相槌を打ちながら苦笑いをする。
「私たちはあんなに大変だったのにね」
「全くだよ」
お互いの顔を見合わせると恥ずかしそうに小さく笑いあう。
「それで、これからどうするの?」
「んーせっかく買ったトイレ砂とか首輪とかが無駄になっちゃったのは勿体無かったかなー」
「そういうことじゃなくて!」
「ん?」
「シロちゃんはただの狐じゃなかったんだよ!?怖がるとか他にあるでしょ?!」
「言われてみればそうだな・・・」
「言われてみればって・・・」
警戒心の感じられない康太の気の抜けた反応に脱力した奏はため息をつきながら康太の机に突っ伏す。
「ごめんごめん。そんなに大げさな反応するなよ?」
「したくなるよ、そんなじゃ・・・」
そうしていると、奏は何かを思いついたのか弾かれるように顔を起こし、首にかけられているお守りを外して康太へと手渡した。
「何これ?」
「何って、お守りだけど?」
「それは分かってるけど、なんで俺に?」
手の中にあるお守りを不思議そうに見つめながら康太は訊ねる。奏は自信満々に答えてみせる。
「心配になってきたからこうちゃんにあげる。大丈夫、お爺ちゃん直伝のちゃんとご利益のあるお守りだから!」
康太は返すことも出来ずにそのまま受け取ると、改めてそのお守りをじっと観察した。外見こそどこにでもあるお守りと何ら変わりのないものであったが、中身を確かめるように表面を撫でてみると、何か硬いもの、金属か石を触るような感触を覚えた。
「中身は何?」
「お守りなんだから訊いちゃ駄目でしょ。中も見ちゃだめだよ?」
「了解」
そういって康太がお守りをポケットに仕舞おうとすると、奏が止める。
「駄目だよこうちゃん。ちゃんと身に付けてないと!」
そう言って康太の手からお守りを取ると、奏は前かがみになり康太の首にお守りをかけようと彼の頭の後ろに手を回す。
「か、奏?!」
「こうちゃん、あんまり動かないで!お守り着けられないよ!」
困った口ぶりで奏は言う。康太の眼前には彼女の動きに合わせて無防備に揺れる双丘が広がり、青少年の心身に大きなダメージを与え続ける。康太はその蠱惑的な光景から必死に視線を逸らそうとするが目を閉じることも逸らすことも出来ず、結局受けたダメージを自己嫌悪で更に深くする真似をしただけであった。
「はい、出来たよ!肌身離さずにするんだよ?」
「う、うん・・・ありがとう・・・」
「どういたしまして!」
満足気な様子で距離をとった奏は、康太の様子に首を傾げる。
「・・・ってどうしたのこうちゃん。顔真っ赤だよ?」
「何でもないよ!それより、そろそろ席に戻ったほうがいいぞ!」
「はぁい!」
楽しそうに席に戻る奏を見送ると、康太は疲れた顔で窓の外を眺め、深呼吸のような溜息をつくのであった。