クラス替えの神様
「やっった〜…!!」
私は喜びを一人で噛み締めていた。
風が吹くたびに桜の花びらがはらはらと散って、視界を淡いピンク色に染める。それに合わせて、切ったばかりの前髪と少しだけ短くなったスカートも揺れた。
ばくばくと心臓が跳ねるのを抑えて、私は校舎の中へと歩いていった。
歩くたびにふわふわとした喜びがこぼれ落ちているみたいでくすぐったい。にやけを抑えきれなかった口元は、ほんの少しだけ笑ってしまっていた。
階段を登っている途中、すぐそばにある姿見に映る私と目があった。
幸せげに頬を薄く上気させて、二つある瞳はこれからへの期待にきらきらと輝いていた。
そっと姿見の私と手と手を合わせる。少し乱れた前髪から覗く目と目が合った。
「…楽しそうじゃん」
すっと、手を離すと目線を逸らした。踊り場をもう一つ通り越してその上の階へ。私がこれからの一年を過ごす教室へ。
少しだけ緊張しながら…いや、かなり緊張しながらそっと教室の扉に手をかけた。一年生の時、二年生の時とはまた違うどきどきが私の体を並々と満たしていく。それにつられるように、耳に入る音が少しだけ小さくくぐもった。
心臓が口から飛び出しそうだった。最後の一年を、あの人と過ごせる幸せを今から噛み締めていた。クラスが離れても想っていた一年間は無駄で無かったことに感謝した。
(ええい、ままよ…!!)
腹をくくるように、自分自身を鼓舞するように、勢いよく扉を開けた。
ガラッと大きな音がして教室の中が視界に入ってくる。
私は思わず息を飲んで、扉を開けたまま教室に入れないまま立ち尽くしていた。
窓から淡く覗く桜と澄んだ青空が美しい。半分ほど開け放たれた窓から、風がさわさわと流れ込んでいる。
どくんと、一際大きく心臓が跳ねと同時に、鞄を握る手が強まった。
…あの人を、見つけた。片思い歴二年目を通り越して早くも三年目に突入しようとしているその相手を、見つけた。
その人は寝ているのかうつ伏せになっていて、規則正しく肩が上下していた。
(寝てるのも可愛い…)
黒板に貼られた出席番号順の席表を見て、私は思わずそれに手を合わせて拝みたくなった。合掌を通り越して五体投地しそうな勢いさえあった。
「っスーー……」
(…隣の、席じゃん)
神様に私はそんなに良い行いをしているこかとお伺いをたてつつ、ありがたくご好意を頂戴しておく。貰えるうちに貰っとかないといつの間にか賞味期限切れになってしまうから。
とりあえず気まぐれな神様に一言。
(まじでありがとう…!!)
これから始まるであろう私の幸せなスクールライフを予感しながら、私は隣に座る好きな人を起こさないように、そっと席についた。
と、同時に新しい一年を告げる新年度初のチャイムが、明るく校内に響き渡った。




