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刀魁乱舞  作者: 神崎玲


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2/2

 凪はある街へ向かっていた。

 名は雁郷(がんごう)という。

 この辺では随分といかつい名称だが、凪は素直に格好いいと思った。

 

 足を進めると、街並があらわになった。

 街灯は幾つもあって、栄えていた。

 もう酉の刻である。

 先に宿を見つけ、明日ゆっくり街を回りたい。

 歩いていると、道に沿って一つの宿が立っていた。

 凪は迷わずそこに入り、声をかけた。

 「ごめんください。宿はまだ空いているだろうか?」

 すると、一人の迦男が出てきて、凪を案内した。非常にだらしない格好である。衣服からは少し独特な臭いがするし、帯は緩く、ほどけそうである。よくそんな格好で客を案内していたなと心底思った。

 「兄さんは一人で?」

 「ええ、旅人なので」

 「迦男で刀とは稀有やな。まともに扱えんの?」

 宿主が目を移した先には凪が持っている刀があった。

 「ええ、多少は。師匠に恵まれまして」

 「迦男に師匠とは本当に珍しいのう」

 そう言い交わしていると泊まる部屋についた。

 「お前さん何泊する予定や?」

 「一応五泊する予定だ。よろしく頼む」

 「了解じゃ。街を楽しんでこい!」

 

 夜が明けると、身支度を済ませ、いつもの日課をこなす。

 日課とは師匠に師事していたときにいつもやるように言われていたものである。

 当時は疎かにするとしこたま怒られ、内容を追加された。

 今考えればいい思い出であった。

 

 風呂に入り、さっぱりしてから、凪は外に出た。

 時間はたっぷりあるし、見るものもたくさんあった。

 凪が最初に向かったのは鍛冶屋である。

 凪は師匠から預かった刀を持ってはいたが、鍛錬用の刀や二本目の刀もほしいと思っていたのだ。

 店に入ると如何にも刀を作っていそうな迦男がいた。体の筋肉は均等についていて、灰色の衣服に前掛けをつけていた。

 「へいいらっしゃい。兄ちゃんお一人か?」

 「ああ、鍛錬用の刀と二本目の刀を少し見てみたい」

 「へえ、兄ちゃん刀振るうんやね。随分と珍しいじゃねえか」

 「よく言われる。それで、あるのかね?」

 「ちょっとお待ちを」

 そう言うと鍛冶師は裏に行き、少し時間を置いて帰ってきた。

 手には二本の刀を持っていた。

 「一本目は少し軽い。鍛錬にはちょうどいいはずだ」

 「二本目は兄ちゃんのに比べて短くて小回りがききやすい、耐久性も申し分ねえ」

 「二本とも貰う。金はいくらだ?」

 「本当は金貨五両やが兄ちゃんは腕も良さそうだし、特別に三両に負けてやる」

 「本当か?それは助かる。大事に使う。ありがとう」

 「いいってことよ!」

 凪は鍛冶師に金貨三両を手渡した。

 

 凪はその後、雁郷の名物を食べ歩き、気づけば申の刻であった。

 明日も早いため、凪は宿に帰ることにした。

 帰る途中、眼の前に一人の彩女が凪を待ち構えていたかのように立っていた。少し気が強い印象を与える顔立ちをしていて、少し青がかった衣服にしっかり帯を締めていて、腰に一本の刀がぶら下げてあった。良いご身分の彩女であると見てとれた。

 「やっと会えた、伊吹様の弟子。我の願いのため、我を鍛えよ」

 「人違いだ」

 凪はシラを切った。本当は「伊吹様」という言葉に反応してしまいそうになっていた。

 どうにか表情は崩していないはずだが、あの彩女は引いてくれるだろうか。

 「シラを切るつもり?無駄よ!あんたが伊吹様の弟子、凪なんでしょ?」

 無理だった。

 「ひとまず、名を名乗れ」

 「無礼ね。迦男のくせに彩女にこんな態度をとるなんて!まあいいわ、我の名は紬という。以後お見知り置きを。」

 「で何のようだ?鍛えてくれってどういうことだ?」

 「実は伊吹様に弟子入りを申し込んだが、凪以外の弟子は取らんと言っていて、頭を抱えていたんじゃが、伊吹様にとある提案をされたんじゃ」

 「その提案ってもしかして……」

 「そう!我が弟子凪の弟子になれば良いと言ってくださったのじゃ。凪はなにも伊吹様のすべての剣技を完璧に学び終えたとか」

 師匠……やってくれましたねぇぇぇ!!

 「俺は弟子を取らないんだ。悪いな。他を当たれ」

 「やはり一筋縄ではいかないか」

 紬は刀を抜き、慣れた手つきで構えた。

 目を閉じ、集中すると一気に凪の眼の前まで距離を詰めた。

 凪の首を狙って刀を振り下ろしたが、凪に掠りもせずに、躱された。

 凪は流石に危ないと思い、刀を抜いた。

 紬を傷つけるとあれなので、自分の力を十分加減した上で応戦する。

 紬が再び首を狙ってきたが凪は刀でそれを防ぎ、綺麗に受流し、油断した隙に喉仏を狙って寸止をした。

 一瞬の出来事に反応できなかった紬はたいそう困惑した様子で凪を見つめた。

 「いい加減にしてくれ!お前は師匠の何を見てきたんだ?こんな雑な剣技であの人に弟子入りを申し込んだのか?笑わせてくれるわ!!」

 紬の一連の剣技からは雑以外の何も感じられない。そんな状態で師匠には弟子入りを申すなんて、もはや師匠を侮辱しているのではないかとすら思う。

 「こんなんじゃいけないってわかってる!でもやり方がわからないんだ。だから頼む!我の願いのために弟子にしてくれ!」

 「今夜泊まる場所はあるか?」

 「ない。汝を追いかけることに精一杯じゃったから先のことは考えてなくて……」

 何なんだこの計画のなさは。

 「今日から俺と一緒に行動しろ」

 「弟子にしてくれるのか?」

 「俺は厳しいからな。弱音を吐くんじゃねぇぞ」

 「わかった!ありがとう!」

 こりゃあ礼儀も教えなきゃいけねぇな。


 ひとまず紬を宿に泊めることにした。

 そして、紬に色々話してもらうことにした。

 「我はどうしてもセグメント一になりたいのじゃ。そして女帝にお願いして妹の病を治してほしいのじゃ」

 「そのためには何だってできるのか?たとえどんな辛くて、痛くて、大変でも」

 これは紬の覚悟を聞いている。セグメント一。あの化物師匠に並ぶにはそれくらい覚悟がいることを平気で当たり前のようにやることが求められる。

 「何だってやってやる」

 「ちなみに今のセグメントはいくつだ?

 「四十四じゃ……」

 「低っっく!」

 凪は道のりがとんでもなく長いことを悟った。


 太陽が昇り始めた翌朝、凪はすぐ紬を叩き起こした。

 「起きろ!バカ弟子!」

 「うぁぁぁ!って何だよ師匠……まだ眠い……」

 「何が眠いじゃ!昨日セグメント一になりたいといったばかりじゃないか?もう鍛錬を始めるぞ!」

 「ちなみに、明日からは鍛錬が始まる前に部屋の掃除、荷物の整理、支度をすべて終わらせろ。掃除と荷物の整理は俺の分もな」

 「そんな……理不尽!」

 「理不尽だとっ?!お望み通り師匠のすべてを教えてやるつもりだ。礼儀から剣技までみっちりなぁ!」

 これは決して悪ふざけではなく、師匠の教えの一つだった。

 剣技だけ優れていても礼儀や他者を敬う気持ちがなければ、一人の人間として成長できないという師匠独自の考え方だ。

 だから師匠は凪に自分の分の掃除や煮炊きを鍛錬の一種としてやらせていた。

 もしかしたらほんの少しだけやましい心があったかもしれないが、凪の成長に大きく貢献したのだからそこは不問とする。

 

 「やっと許可を出しても良さそうな出来になったな」

 「師匠のいじわるっ!」

 凪は何度か紬に掃除のやり直しを命じていた。

 紬は清掃に関してどうも適当なところが少しあるので、それを直すために。

 「次は言葉遣いだ。これを明日の早朝にまで覚えろ。翌朝以降は間違えるたびに罰を設ける」

 「何だこれは?」

 凪が手渡したのは師匠が礼儀を教えるために作成した冊子だ。

 凪はこれで師匠に対する礼儀を学んだのだ。

 「こんなの無理よ!絶対間違えるわ!」

 「これも師匠の方針だった。俺も幼少期に叩き込まれたものだ。まさか迦男に出来て彩女はできないとは言うまいな?」

 「できるしっ!待ってな師匠!」

 「できるならば良し!本格的に鍛錬に入る」

 「やっとか!」

 「まずは俺の日課を教える。厳密に言うとこれは師匠が毎日やれって言っていることだから、鍛錬ではないのかもしれない」

 凪の日課は走り込みから始まる。随分と重さがある荷物を背負って、二里ほど走る。

 そして、帰ってきてから素振りを百回、習った型を百回繰り返すという非常に簡単なものだ。

 「こんなん無理に決まってるでしょっ!」

 「無理ではない。迦男の俺ができるんだから彩女のお前ができないわけない。慣れたら量を追加する。最初は姿勢も慣れてないだろうから俺が見ててやる。取り敢えずやるぞ」

 「わかったのじゃ」

 

 凪の指導の末、日課が終わった。

 「もう疲れたのじゃ!もう無理!」

 「じゃあ風呂入ってこい。続きはその後だ」

 「つ……続きって……」

 「何いってんだ、これは毎日やる()()だろ?型の鍛錬はこれからだ」

 「うぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 誰かの叫び声が聞こえるが、きっとたくさん鍛錬できて嬉しいのだろう。

 

 型の鍛錬を終えると紬はもう一歩も動けないほど疲弊していた。

 それでも今朝凪にもらった冊子をみて明日に備えている。

 明日は相当期待できそうだな。


 と思った凪だが、どうやら全然だめだったらしい。

 全然一人では起きられていないし、支度もできていない。

 「起きろ!バカ弟子!」

 「おふぁようございます……師匠」

 「すぐに起きろ。そしてこれを着て俺の前に立て」

 「はっはい!」

 どうやら凪の声色がよっぽど暗かったのに気づいたらしい。

 凪は自分が()()()()と自覚した。

 この子をセグメント一に導くには心を鬼にして、いくら泣きそうでも厳しくする必要があるということに気づいた。

 紬は凪が渡した白い羽織に袴を履いていた。いつ見ても容姿端麗という言葉が一番合っていて、見とれそうになる。

 「で来ました……師匠」

 「そうか。どうやら俺は甘かったらしい。お前をセグメント一に導くと言っておきながら優しくするのは矛盾が生じるよな?そこでだ、俺はもう容赦しない」

 「それはどういう……」

 「バカ弟子……馬歩の姿勢をとれ」

 「はい?」

 「聞こえなかったか?馬歩の姿勢をとれといったんだ!」

 「はっはいぃぃ!」

 紬は急いで馬歩の姿勢をとった。

 馬歩とは武術や剣技の基本となる姿勢の一つである。

 特に武術では馬歩が基となって派生した技も多い。

 足を肩幅に開き、腰を落として腕を地面と水平になるように出して、静止する姿勢というのが馬歩である。一番想像しやすいのは椅子に腰掛けているときの姿勢だろう。

 「なに震えてるんだ?大口叩いといて良くも……ていうか腰もっと下げろ!」

 「はぃぃ!」

 紬は腰を更に下げた。よりきつくなった影響で顔が歪む。

 そんな紬を気にも留めず、地面と水平になっている腕に一本の刀を乗せた。

 そこそこの重さがある刀なので、腕の負担は無論大きくなっている。

 「落とすんじゃねぇぞ!師匠がくれた大切な刀なんだ」

 「バカ弟子、お前の目的は何かもう一度申してみよ」

 「セ、セグメント一になることですっ!」

 「こんなの状態でその目標は達成できると思いかな?」

 「で、できないっ!」

 「言葉遣いが直ってねぇな。後でたっぷり罰をやるから覚悟しとけ!」

 「いやぁぁぁぁぁ!」


 紬への説教は一刻続いた。

 説教後、紬は心を入れ替えたかの如く、真剣に物事に取り組むようになった。

 日課を終えた二人は風呂に入り、鍛錬の続きをした。

 いつも外の広い場所で稽古をしているので今日もそこで稽古をする。

 しかし、朝の出来事でまだ気が収まらない凪はいつもより多く紬に稽古をした。

 「バカ弟子、素振りをしてみせろ」

 「はい!」

 紬の素振りは昨日に引き続き今日でだいぶ形になっている。

 凪の指導のもと、雑だった一つ一つの動きは改善していた。

 「振り下ろしの時、少しぶれてんぞ!集中しろ!」

 「はい!」

 

 一日一日を紬と過ごすととうとうこの街を出る日になった。

 「おはようございます。師匠」

 「稽古の準備ができました。いつでも参れます」

 「今日で俺はこの街を出る。お前はどうする?ついてくるか?」

 「いえ、私はもう少し自分で鍛錬を積みたいです。まだまだ未熟であると気付かされましたので」

 「そうか。紬、俺は師匠に教わっているときに凪という名をもらった。もともとは凪という名ではなかったんだ。風や海が止まったように綺麗に刀を振ってほしいという願いが込められていてな」

 「とてもいい名前ですね」

 「それでだ、無理にとは言わないが、紬に名をあげたい」

 「お願いします」

 「……いいのか?」

 「もちろんです。師匠が名付けてくれるなんてこれ以上嬉しいことはありません」

 てっきり、迦男に名前をつけられるなんて絶対無理!とでも言うと思ったのだが、本当にあの日から変わったな。

 説教をしたあの日以降、紬はどんなに厳しい課題でも弱音を吐かずにやり遂げてみせた。

 セグメント一になると覚悟を決めたのだ。

 「そうだな……(えん)とかどうだ?華やかで美しいという意味がある。俺は紬にそう刀を振ってほしい」

 「艶……とても良い響きです。ありがとうございます!」


 「忘れ物は大丈夫ですか?」

 「あぁ問題ない」

 「いつも支度ご苦労様」

 「いえ、とんでもないです」

 段差を降りて、宿主に金を渡す。

 「いいのですか?私の分まで」

 「いいよ。俺が去ったらちゃんと仕事を見つけろ。住むのに困らないほどの金を稼がねばいかんからな!」

 「わかっています。ご心配なく!」

 「じゃあなバカ弟子!またどこかで会おう!」

 「お世話になりました。師匠」

 

 凪はそろそろ金が尽きそうなので、ある場所へ足を運んでいた。

 朝廷がある團城(だんじょう)という場所。

 そこでは迦男である凪でもできる仕事があるし、雁郷から非常に近かった。

 何よりとある人に会いたかった。

お読みいただきありがとうございます。

プロローグに続く第一エピソードは凪と紬の絡みを多く入れて書かせていただきました。

次回のエピソードもお読みいただけますでしょうか?

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