第九話 それぞれの戦い⑤
山陰地方―。
ギイイインッ!! ガキイイイインッ!
元春は割れた槍を両手に持ち、左右から突き、薙ぎ払う。
元春の剛槍をかろうじて防ぐ善助。その威力により、右へ左へと身体が弾かれる。
「はあ……はあ……」
善助はついに力つき、地面に膝をついた。
元春は、静かに歩を進める。
その足取りは、砂を踏む音すら吸い込まれてしまうかのように無音で、確実に――まるで死神が命を刈り取るために忍び寄るようだった。
右手が柄にかかり、鞘から打刀が静かに引き抜かれる。
冷たい金属の光が戦場の淡い陽光を反射し、刃先に一瞬だけ鋭い輝きが走る。
膝をつき、荒い息を吐く善助の前で元春は立ち止まった。
その眼差しは揺るがず、狙うはただ一点――善助の首。
振り上げられる刀の軌道は迷いなく、殺意を凝縮させた一撃が落ちようとしていた。
確実な死を与えるため、柄を握る元春の両手に力がこもる。
指の関節がわずかに鳴り、肘から肩、そして全身の筋肉が張り詰めた、その時――
「……水縛鎖。」
善助の口から発せられた低い声と同時に、地面から迸るように水の鎖が立ち上がり、元春の両足に絡みついた。
冷たく湿った感触が脛を締め上げ、動きを奪う。
その一瞬の隙を逃さず、善助がしゃがんだ姿勢のまま一気に踏み込んだ。
手には自身の打ち刀。渾身の力を込め、元春の胸元めがけて突きを放つ。
至近距離――それは振り上げた元春の刃の間合いの、はるか内側。
しかも足を縛る水鎖が、元春の体を後退させることすら許さない。
(……とった!)
――グシャッ!
勝利の確信と同時に、善助の視界が突如として歪んだ。
意識がぐにゃりと捻じれ、世界が激しく回転する。
眼窩の奥が強烈に震え、やや遅れて頭蓋を貫くような痛みが襲いかかる。
善助はうつ伏せに崩れ落ちた。
(……頭突き、だと……?)
あの瞬時にこれほどの反撃を返すとは――この男、元春はいったいどれほどの修羅場をくぐってきたのか。
「……ハァ……ハァ……」
短い攻防だったが、元春の胸は大きく上下している。張り詰めた緊張が鼓動を一気に速めていた。
「……見事。」
元春はうつ伏せの善助を見下ろし、再び刀を振り上げる。
善助の頭部は激しく揺さぶられ、四肢はおろか首すら動かせない。
「栗山善助……お前の名は、覚えておく。」
その声音には、確かに戦士としての敬意が宿っていた。
「覚悟せよ。」




