第九話 それぞれの戦い②
山陽地方―。
昼下がりの陽光が、血と鉄の匂いを孕んだ戦場を照らしていた。
空は晴れ渡り、雲ひとつない。だが、地上ではまるで静かに燃える業火のように、熱と殺気が交錯していた。
隆景の周囲には、すでに数人の暗殺者たちが地に伏し、動かぬ肉の塊と化している。
その身には一太刀、あるいは一撃の念術による焦げ跡が刻まれ、無言のまま倒れ伏していた。
そして生き残った暗殺者たちが取り囲む、その中心――。
間合いの中央で、鋼のような視線がぶつかり合う。隆景と行長――一歩も引かぬ対峙。
沈黙の中、先に動いたのは行長だった。
彼は無言のまま、両手に握っていたナイフをひゅ、と宙に放り投げた。
銀色の刃が太陽光を反射し、空中で鋭く光を弾く。
その直後、腰のホルスターから素早く短銃を抜き取り、引き金を絞る。
パン――!
鋭い破裂音が響いた瞬間―。
「光障壁!」
隆景が即座に空間へと手をかざす。
術が発動すると同時に、透明な光の障壁が目の前に展開され、銃弾を軽く弾き返した。
(銃弾とナイフは囮――、真の狙いはその直後。)
隆景の眉がわずかに動いた瞬間、上空から二本のナイフが唸りを上げて襲いかかる。
カンッ! カンッ!
隆景は落ち着いた動きで扇子をすっと振るい、刃を両方とも打ち払った。
見た目こそ雅な扇だが、戦場では鋼鉄に匹敵する秘具である。
だが、間髪入れず――その影よりさらに脅威が迫っていた。
「っ!」
風を切る気配。
隆景の背後から、行長がサーベルを構えて疾駆してきた。
間合いは限界まで詰められていた。
振り向く暇もなく、隆景は肘を反らし、装着していた手甲を斜めに構える。
ガンッ!
重い金属音が耳を打つ。
行長のサーベルが手甲に受け止められ、わずかに火花が散った。
次の瞬間、隆景の目が細められる。
「はっ!」
彼女は身体をひねり、腰を軸にして鋭い回し蹴りを繰り出す。
足先には、光の念術によって編まれた鋭い輝きが灯っていた。
――あれを喰らえば、骨どころでは済まない。
行長は瞬時に判断した。
その蹴りは、首筋を正確に狙っていた。
だが彼は恐れも見せず、俊敏に身体を翻す。
足を地に叩きつけるようにして跳躍し、見事な宙返りで隆景の蹴撃をかわすと、くるりと背後に着地して距離をとった。
土埃が風に巻かれ、静かな陽射しの中、ふたつの影が再び、鋭く地を裂くように対峙する。
ふいに隆景が口を開く。
「知っておるか?念術というものは――念じる力。準備の時が長ければ長いほど、効果は強くなる。
そして、その対象が“動かぬもの”…たとえば土地であるならば、なおさら。」
「……何が言いたいんや?」
隆景は薄く笑みを浮かべ、静かに首を傾けた。
「わしが、あの宇喜多殿からの刺客が来るのを予期せず、ここでただ突っ立っていたと。……そう思うか?」
「まさか……」
その瞬間、行長たちの足元に、複雑な呪の文字が浮かび上がり、淡い光が走った――。
隆景は胸元で複雑な印を結び、両手を組んだまま正面へと突き出した。
光の念術――封地轟閃――
ドオオオオオン――ッ!!
轟音とともに、大地から立ち上る巨大な光の柱。
あまりの高温に周囲の空気が大きく揺らぐ。
容赦なく襲いかかる熱と閃光に、行長の仲間たちは皮膚を焼かれ、悲鳴とともに次々と崩れ落ちた。
行長は咄嗟に倒れた死体を盾にして直撃を避けるも、腕や脚、頬に深い火傷を負い、息を荒げる。
「くっ……!」
その場に膝をつく行長を、隆景はゆっくりと見下ろした。




