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赤松天翔物語①  作者: 姫笠
第二章 西国の覇者

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第八話 毛利の両川④

中部、赤松家本陣

 桜は官兵衛の傍らで空を見上げていた。

「……私たち、勝てるかな?」

 桜の呟きに、官兵衛はしばし沈黙し、それから静かに答えた。

「我らが動けぬ以上、あとは皆を信じるしかありませぬ。」

 桜はそっと拳を握りしめる。

(みんな、お願い……死なないで……。)



 山陰地方―。

 戦場には濃い砂埃が立ちこめ、視界はぼやけ、敵味方の区別さえ困難になっていた。陽光はその靄に遮られ、青い空も鈍くくすんで見える。

 兵たちは、互いの姿が見えぬ中でも本能で敵を察知し、叫び声と金属音を頼りに、己の武器を振るい続けていた。怒号、悲鳴、刀と槍が交錯する音が渦巻き、まさに地獄の様相。

 そしてその混沌の中、次第に吉川隊の猛攻が激しさを増していく。まるで一枚岩のような隊列。個々の力だけでなく、練度と結束の高さが如実に現れ、善助の率いる部隊はじわじわと押しやられていた。

 善助は息を切らせながら、刀を構え直してつぶやく。

「……さすが吉川隊。兵も手ごわい……まさかこれほどとは……。」

 その時だった。

「お前が大将か。」

 低く響く声。空気が一瞬止まったような錯覚。

「!!」

 善助は咄嗟に身をひるがえし、砂塵の帳の中へ目を凝らす。

 その瞬間――。

 白煙の向こうから、まるで閃光のような速さで槍が突き出された。あまりの速度に、目で追うより先に本能が反応する。善助は即座に刀を振り上げ、その一撃を受け止める。


 ーーガキイイイインッ!!ーー


 甲高い金属音があたりに響きわたり、まるで空気が震えたかのように、近くの兵たちも一瞬動きを止めた。

「くっ……!」

 衝撃は想像を超えていた。腕から全身へ、痺れるような痛みが走る。善助の体が勢いよく後方へ吹き飛ばされ、馬上から放り出されて土の上を転げ回った。

 体に走る痛みを堪えながら、善助はすぐさま膝をついて起き上がる。だが――。

 すでに敵は目の前にいた。


 身長は190cmを超え、彫刻のように鍛え抜かれた肉体が鎧の隙間から垣間見える。胸と腕の筋肉はまるで岩のように固く隆起し、その存在感だけで周囲の空気が重くなる。

 髪は後ろにまとめられ、眉は鋭く、目の奥には冷たい炎が宿っている。その顔立ちは深く彫られ、鬼神の如き威容を放つ。声を発せずとも、その名は火を見るより明らかだった。


挿絵(By みてみん)


(――吉川元春。)

 善助の額から冷たい汗が滴る。

「退屈な戦ゆえ、さっさと大将の首を取って終わろうと思ってな。」

 不敵な笑みを浮かべながら、元春は槍の穂先をゆっくりと善助へ向ける。

 善助はわずかに口元を引き結び、刀を構え直す。強敵。否、これまでにない“化物”と相対している。


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