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赤松天翔物語①  作者: 姫笠
第二章 西国の覇者

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第六話 丹波の妖怪⑧

山名家本拠―此隅城、当主の間。

 灯された燭台が壁に揺らめき、張りつめた空気が部屋を支配していた。

 畳に手を突き、山名祐豊は床に頭を擦りつけるようにして深々と平伏している。背は小刻みに震え、額には冷や汗が浮かんでいた。

「どうか、どうかおゆるしを……! 妖怪どもに脅されていたのです。やつらに命じられ、赤松殿ご一行を屋敷におびき寄せるようにと……」

 その声はかすれ、必死に訴えるほどに哀れさが増していた。

「やつらは赤松殿ご一行を始末したのち、あなた方の播磨の国をも乗っ取る手筈でございました……!」

 又兵衛がドンと槍の石突を畳に突き立て、眉をつり上げる。

「やいやい! 俺たち、本当に死ぬところだったんだからな!」

 憤怒の声が広間に響き、空気がさらに重くなる。

 全登は眉を寄せ、胸の前で十字を切った。

「なんと愚かな……アーメン」

 その静かな祈りの言葉が、かえって冷ややかに響いた。

「おゆるしを……おゆるしを……」

 祐豊はうわ言のように繰り返し、なおも頭を床に押し付けている。震える肩は嗚咽を隠せず、畳に落ちる雫が涙であることを物語っていた。


「はーっ……」

 腕を組んだ善助が、苛立ちを抑え込むように深いため息を吐く。

「……殿、どうされますか?」

 広間の視線が一斉に桜へと注がれる。桜は一瞬まぶたを伏せ、唇を結んだ。やがて静かに口を開く。

「……たしかに、私たちを騙したのは許せない。けど……」

 彼女の瞳は揺るぎなく、真っすぐに祐豊を見据えていた。

「山名さんも妖怪に脅されて、どうしようもなかったと思うの。それに……」

 桜の脳裏に、あの夜―祐豊が生贄の話をしたときの、悲しみに歪んだ表情が浮かぶ。

「領民を思う気持ちは本物だと思った。だから――」

 その言葉と共に、桜はそっと一歩近づき、ためらいなく祐豊へ手を差し伸べた。

「今度は一緒に、妖怪に負けない国を作っていこう。ね?」

 その手は温かく、静かに祐豊の前へ差し出される。

 祐豊は顔を上げた。涙で濡れた目に映るのは、少女の凛とした姿。

 彼は震える両手で桜の手を取り、声をあげて泣いた。

「ハハアッ! 必ずや! 必ずや!」

 その叫びは、悔恨と決意を込めた誓いそのものだった。

 祐豊は涙を流しながら何度もうなずき、桜の手を力強く握りしめた。


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