第六話 丹波の妖怪③
――バァン!!
鋭い風切り音の直後、衝撃が響く。全登が間一髪で盾を掲げ、妖怪の攻撃を防いだ。
ぶつかり合う衝撃に足元の地面がひび割れ、砂塵が舞い上がる。
盾にぶつかった妖怪の顔が歪み、獣じみた唸り声を上げる。
「今だ!」
左右から、又兵衛と友信が獲物を突き出した。
――ズシュッ! グサッ!
槍の穂先が妖怪の側面に深々と突き刺さる。
しかし、手ごたえは確かにあったものの、あまりに巨体なため傷は浅い。
妖怪の黒い血が飛び散り、大地を汚す。
しかし、それを意に介する様子もなく、妖怪は空中で大きく揺らめき、再び突進しようとした。
「もう一度!」
善助の号令と同時に、全登が盾を押し込み、のけぞった妖怪にさらなる隙を作る。即座に又兵衛と友信が続き、立て続けに槍を突き込んだ。
「う”う”う” ああああ”!!」
妖怪の咆哮が響き渡る。傷を負ったことへの怒りか、それとも痛みか。
しかし、妖怪は怯まなかった。宙に浮かぶその巨体を左右に揺らしながら急激に動き、突進してくる。
「ぐっ……!」
全登が盾を構え直すも、妖怪の動きがあまりにも素早い。予測しきれず、一撃を受けて吹き飛ばされる。
「全登殿!」
善助が駆け寄るが、その隙を突くように、妖怪の口が大きく開いた。
ージジジジジッー
紫色の光が唇の奥に収束していく。その光には強烈な殺意が籠っていた。誰もが一目で感じた――当たればまずい。
「危ない!」
桜が叫ぶと同時に、妖怪の口から光線が放たれた。
――ドォン!!
瞬時に反応した全登が盾を掲げ、その光線を真正面から受け止める。
盾の表面が紫色に染まり、きぃんと金属を焦がすような音が響く。
盾にぶつかった光の一部が反射し、地を滑る。
光が触れた木々はみるみる生気を失い、枯れ果てた。池の鯉に当たると、瞬く間に痩せ細り、骨と化した。
光の一筋が善助の腕をかすめる。すると、かすめた部分の皮膚だけが一瞬にして深い皺が浮き上がり、青白く変色した。
やがてその変化は、ゆっくりと周囲の正常な皮膚まで浸食し始める。
「これは……老化の光か!」
「えい!」
桜が両掌を善助に向け、すかさず治癒の念術を施す。
優しい緑色の光につつまれた善助の腕は変化を止め、徐々に元の若々しい肌へと戻った。
「ありがとうございます、殿!」
善助は素早く態勢を整える。
(かすめただけでそこから老化が始まり、徐々に周囲へ浸食していく……。もし殿がこの場にいなければ、
今の攻撃だけで私は……)
善助の額につうっと冷たい汗が伝う。
「みな、あの光を浴びると老化し、骨になってしまう。直撃だけは絶対に避けよ!」
一行は陣形を整え、妖怪との攻防を続ける。
禍々しい光をまとった妖怪が咆哮をあげると、その巨大な顔から光線が放たれる。
しかし、全登はその攻撃を正面から盾で受け止める。
盾の表面に激しい火花が散り、一瞬、空気が焼け焦げるような臭いが漂った。
「今だ!」
妖怪の光線がやむのを見計らい、又兵衛と友信が声を掛け合いつつすかさず左右から切り込む。
又兵衛の槍が妖怪の顔の側面を裂き、友信の大槍が黒ずんだ皮膚をえぐる。
しかし、妖怪はひるむことなく、怒りに燃えた瞳を向けてきた。
「やはり決定打に欠けるか……!」
善助はふと全登が掲げる盾へ目をやる。
妖怪の猛攻を何度も受け止めたその盾には、すでに細かな亀裂がいくつも走っていた。
ひび割れた部分から光が漏れ、今にも砕けそうな状態だ。
(このままでは持たないかもしれない……なにか手はないものか……)
善助は胸の奥で焦燥を噛み殺しながら、巨大な老婆の顔の妖怪を睨みつけた。
ひと息するたびに腐臭を帯びた風が辺りを覆い、思わず鼻と口を袖で覆う。




