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赤松天翔物語  作者: 姫笠
第二章 西国の覇者

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第五話 死者の願い③

やがて、一行は竹田城を後にし、麓の宿場町へ戻るため山道を下り始めた。

月明かりに照らされる山道は白く、足音と草の擦れる音だけが静かに響く。

 その途中、全登はちらりと行長を振り返り、冷ややかに口を開いた。

「先月からとは言え、皆さんに迷惑をかけたことは事実です。……どう落とし前をつけるつもりですか、行長」

「ゆ、許してーなー……!」

 行長は両手をぱたぱたと振り、肩をすくめて情けない声をあげる。必死に愛想笑いを浮かべながらも、額には冷や汗がにじんでいた。

「せや! 町でみんなに酒おごるさかい! それで堪忍して!」

 慌てふためく様子に、一行の顔に思わず笑みが広がる。

 全登はわずかに口元をゆるめ、からかうように声を重ねた。

「珍しいですね、行長。では……団子もつけてください」

「え……!」

 行長は目をむき、声もなく絶句した。

「じゃあ、俺は胡麻せんべいもな」

 又兵衛がにやりと笑いながら言い、肩に槍を担ぎ直す。

「おらぁ、酒のつまみに焼きにぎりがいいだ」

 友信も負けじと加わり、にこにこと楽しげに言葉を添える。

「なっ……! 調子のるなよおまえら!」

 行長が顔を真っ赤にしながら怒鳴ると、一同からはくすくすと笑いがこぼれた。

さっきまでの幽霊の影が嘘のように、山道には穏やかな笑い声が広がっていった。


宿場町の酒場。

木の柱に吊るされた提灯が、酒場の中をぼんやりと赤く照らしている。

ざわめく客たちの声と笑い、盃のぶつかり合う音が絶え間なく響く中、桜たちの卓には豪快に並べられた肴と酒が山のように置かれていた。

酒場の店主が一行の席へ徳利を運んでくる。

そのとき、すうっと心地よい夜風が横切り、灯りの炎をかすかに揺らした。

店主は思わず足を止め、夜空を仰ぐ。

「……こんなに綺麗な夜空は、何年ぶりでしょうか。」

善助はその言葉にわずかに目を細め、短く夜空を仰いだ。そっと視線を落とし、盃を手に取りながらふっと微笑む。

そして酒を注ぎながら、大きく息を吐き、ぼやくように口を開いた。

「それにしても……お前たちは幽霊ぐらいで腰を抜かしよって……修行が足りん。」

その言葉に、すかさず又兵衛が茶碗を置いて身を乗り出す。

「おいおい。姉御もめっちゃびびってただろ?俺、しっかり見てたぜ!」

横から友信も焼きにぎりを片手に頷く。

にやにや笑いながら、善助の顎が外れそうなほど口が開いた顔をまねてみせる。

「んだ。ひ……ひぃ……あ、ああ……って言ってただあ。」

その妙に似すぎた真似に、又兵衛が机を叩きながら大爆笑する。

「ぎゃはははははっ!」

――ブチッ。

善助の額に青筋が浮かぶ音が聞こえた気がした。

「……貴様ら。」

盃を机にガタンと叩きつけ、立ち上がった善助の迫力に、又兵衛と友信は同時にビクリと肩を跳ね上げる。

「ちょっ……ま、待て姉御!落ち着け!」

「んだっ、冗談だべ!冗談!」

そう叫びながらも、2人は座布団を蹴飛ばして後ずさり、善助が鬼の形相で追いかけ回すのを、酒場の客たちは酒をあおりながら面白がって眺めている――。

追いかけっこをする善助・又兵衛・友信の三人をしり目に、行長がぐいと盃を口に運び、ふと真顔になって切り出した。

「桜ちゃん……おたく、未来から来たんやな。」

不意の問いに、桜は一瞬だけ視線を落としたが、すぐに顔を上げて小さくうなずいた。

「……うん。信じてくれないかもしれないけど。」

すると行長は、にやりと笑いながらも真剣な眼差しを返す。

「いや、信じるで。むしろ妙に納得したわ。なあ、全登?」

全登も静かに杯を置き、柔らかな笑みを浮かべる。

「私も……あの賢い家臣殿と同じく。桜殿がどんな未来を築いてゆくのか、その道を見てみたくなりました。」

桜は胸に手を当て、ゆっくりと息を整えるようにして口を開いた。

「私の築く道……」

彼女の声に、酒場の周囲のざわめきがほんの少しずつ静まっていく。

「たしかに、私は未来から来たから……価値観や考え方が、この時代の人たちとは違うことがあるの。

でもね、この時代の人たちには、この時代にしかない大事な想いや信念があって……。」

彼女の言葉は、追いかけっこをしていた三人の耳にも自然と届き、思わず足を止める。

「前に、行長君に言われたよね。宇喜多家は、お家にとって利益があったから赤松家についたんだって。……そのとき、私は“ああ、それも大事なことなんだ”って、心から感じたの。」

盃を握る手に力を込めながら、桜は真っ直ぐに皆の顔を見渡した。

「だから私は、味方をしてくれる人たちの利益や誇りをちゃんと守ってあげたい。

でも、その根っこにはね……村や町で、日々懸命に生きている人たちのことを常に考えていたいの。」

一呼吸置き、静かな笑みを浮かべて言い切る。

「――そんな当主を、私は目指していきたい。それがきっと、未来へとつながると思うから。」


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