65/106
第四話 竹田城の幽霊⑥
桜の喉がかすかに鳴った。
背中を冷たい汗がつっと流れる。
「はっ、どうせガキのいたずらだろ!」
又兵衛が虚勢を張るように吐き捨て、白装束の女の方へ大股で近づいていった。
「ま、待て、又兵衛! 子供などでは――」
善助が制止の声をあげるが、又兵衛の耳には届かない。
だが数歩進んだところで、彼は異変に気づいた。
月明かりに照らされたその女の影は、瓦礫に遮られ脚までは見えない。
だが、上半身を見るだけでも背丈が二メートルをゆうに超えていることは明白だった。
不自然に長い首がゆらゆらと揺れ、周囲の空気を歪ませる。
まるで空間そのものが異質な何かに支配されているようだった。
「な……なんだ、これは……」
又兵衛の顔色から血の気が引いていく。次の瞬間、彼は腰を抜かし、尻もちをついた。
「う……うわあっ!」
背中から石畳に倒れ込み、四肢を必死に動かそうとするも、恐怖に縛られた身体はまるで言うことをきかなかった。
白装束の女が、かすかに口を開く。
「オ……オォ……オ……」
それは女性の声ではなかった。
低く重い唸りは地の底から響きあがるようで、どろりとした音の塊が又兵衛の腹にのしかかる。胸が押し潰されるような圧迫感が一行を包み込んだ。




